「どうして君がここに居るのかなあ、シズちゃん」
扉を蹴破ろうと脚を振り上げたら招かれざる客を見るような目で、臨也が扉を開いて出迎えた。
どうして。と、聞かれても気付いたら駆け出していた静雄は、それに見合う文句が見当たらない。自分でも理解出来ない行動に動揺する静雄。往復する瞳の動きは、臨也の眉を顰めて疑問符を残した。
「何?俺も暇じゃないんだけど」
キィ。扉が臨也の心を表すように引き戻る。まるで静雄を拒むかのように閉じかけた扉。そこへ咄嗟に手を滑り込ませると臨也の眉はよりいっそう不満気に斜めった。
「ぶん殴りに来たからに決まってんだろ」
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♂♀
『会いたかったよシズちゃん』
あいつが俺の前に現れたのは偶然じゃなかった。
『オレは臨也君に直接会えないんだ。だから君に伝えに来たんだ』
白装束に柔和な微笑み。ふわりと舞いを止めると彼は音に乗せながら喋り出した。
『臨也君ね、』
まるで、天使が迎えに来たかのような出で立ち。だが、その口から放つ言葉はなんとも寂しげで儚いレクイエム。
『あと少しで死んじゃうんだ』
あいつが?あの臨也が?何遍沈ませようとしてもちょろちょろ逃げ回ってへらへらしてるあのノミ蟲野郎が、……死ぬだと?
『だから、伝えに来たんだよ。マスターの最後の願いだったから』
それが、臨也と瓜二つの顔を持つ、サイケデリックドリームの目的だった。それが危ぶまれる事も慈悲を受ける事も無く、サイケデリックドリーム…――通称サイケは、笑顔で告げた。
『君と臨也君が、素直になれますようにって……マスターの願いを届けに来たんだ』
♂♀
気付いたら、ここに居た。気付いたら、扉を蹴破ろうとしていた。気付いたら、
「し、ずちゃん…?」
抱きしめていた。
「ちょ、何?離してくれない?」
もぞもぞと腕の中で抵抗する臨也を逃がさないように抱きしめた。
理解出来ないのではなく、理解したくない一心が静雄を惑わせた。
「絞め殺す」
観察するかのような眼差しで見詰めてくる臨也から、視線を外そうと肩をすり抜け、頭部を交差させる形で抱き合う。
「え、新しいね」
「煩え」
ぎゅう。
強まる腕の力に笑顔が歪む。
「気持ちわる、っ」
「黙れ」
悪態を制止され、不満げに唇を歪ませながら、臨也は挑発するように嗤い、笑う。
「ねえ、」
華奢な肩が僅かに上がり下がる。
「いつになったら絞まるの?」
どうしょうもないぐらいの不安。
その矛先があの大嫌いな折原臨也である事に静雄は未だ納得の行かない曇った表情を浮かべていた。
「ていうか、」
そこへ追い討ちを掛ける。
にんまりと弧を描くように笑うと臨也は、どうすべきか戸惑うバーテンダーの男の背中を押した。
「殴るんじゃなかったのかよ」
最後にあいつは言った。
『臨也君は見たものしか信じないから、オレの事はナイショね』
なら、見た事なら信じますか。と、気付いたら口付けていた。
「ほんとにキミって馬鹿な男だよシズちゃん」
そう言って笑った臨也のその目は確かに彼奴と似ていた。
***
「は?」
「だから、あれ、俺」
「え、……はあ?」
「ごめんごめん、シズちゃんがあまりにも鈍感だからさ」
「な、ってめ…」
「あ、怒った?」
「ふッ…ざけんな!このノミ蟲野郎!!」
「あっれー?どうしたの?なーんで殴らないんだろ、アッハハ」
「………っ、帰る」
「あ、拗ねた」
「次は殺す。絶対殺す。めらっと殺す…!覚えとけ」
「ハハ!楽しかったぜ、
バーテンさん」
その目は確かに、 * 20110222