その目は確かに、
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首無し妖精。妖刀。そんな日常を越えた非日常の池袋。そこへまた、新たな非日常が舞い降りた。


「だから、ノミ蟲だろ」

「違うよ」

さっきからこのやり取りを繰り返して、小一時間。いつもの池袋。いつもの人混み。その中で俺にとっては異色な存在。異臭な存在。嫌な存在。それが視界に紛れ込んで来たから、首根っこ引っ掴まえて有無言わさずに雑踏を逸れて路地に連れ込んだわけだ。

イライライライラ。擬態語と化した苛立ちが胸を埋め尽くす憤怒。力任せに路地の壁面へ追い込むと、背を打ち付けたそれは壊れたラジカセのようにノイズ混じりのBGMを一瞬の間。奏でた。

それがどこから流れて来てるなんてのは、考える暇も余裕も許容も無いぐらい。俺は、目の前に居る『人間』が嫌いなんだ。


「じゃあ誰だってんだ。んな形しやがって、俺を騙したつもりか?臨也君よぉ?」

「臨也君じゃないよ」

何遍も何遍も、違う。違う。違う。うぜぇ。何が違うんだ。んな面ぶら下げて、何が違うってんだ。

心中で唱えていたつもりの疑問と苛立ちは、意を反して静雄の唇から零れていた。それはまるで、だんだんと強くなるフォルティッシモのような音色を奏でて。

「オレはサイケデリックドリーム……vol01」

「ぼ、ぼりゅー…む?」

咄嗟の横文字に静雄はきょとんと首を捻る。それは、確かに静雄が嫌う折原臨也と見間違えるはずも無い相貌。だけど、彼には、折原臨也に対する決定的な毒素らしき嫌味刺すものがなかった。

「マスター若いなあ、」

それは、臨也が静雄に向ける笑顔とは違って、まるで天使のような微笑み。とても無垢で無邪気で純粋なもの。聞こえはいい単語の羅列でも、無自覚にも恐ろしい事をさらりと口走ったその笑顔は、どことなく悪魔にも見えた。

「臨也君が死んで、泣いてばかり暴れてばかり怒ってばかり。最後に笑ったマスター…ああ、これ以上は禁則事項だ。うん、でも、」


何を言っている?こいつは、この野郎は、一体何を言っている。

臨也が、死ん…?

そこで静雄のリミッターが切れた。破壊的なキャパシティはするりと彼を手放して、言い知れぬ不穏な音色(ビート)を刻む彼から一歩、そしてまた一歩、後退った。


「オレは、」

微笑みが迫る。後退る静雄に相対して、一歩、また一歩、そして、また一歩。

にっこり。端から見たらとても愛着のある笑み。その笑顔が静雄は苦手だった。そう、その笑顔が、心無いものだと静雄は野生的な感受性で察知していたからだ。

「それを破りに来たんだった」

笑顔が迫る。そして、くるりと身を翻して、臨也に似たそれは踊り出した。

くるり、くるり、白いコートが廻る彼に合わせて靡くように。

ふわり、ふわり、舞うそれは、折原臨也と相反する笑みで続けた。


「会いたかったよシズちゃん」

はにかんだ柔和な笑み。その目は、確かにあいつじゃなかった。


それじゃあ手前ぇは誰なんだ?
なんで同じ面で同じ名を呼ぶ。


なんで、

『シズちゃん』

あいつしか呼ばねえ渾名を……

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