短編小説
今を生きる者達へ(1)『殺さないで』
いくつもの悲鳴に掻き消されるように、その声も私の目の前で散っていった。
『男も女も関係ない。盾突く者は全て排除せよ。』
赤い鮮血が宙を舞う。
「・・・くっ。」
口の中に鉄の味が広がる。どうやら強く噛みすぎたらしい。
―――――
何時間にも及んだ殺戮がようやく静かになる。
血溜まりの中に私は立っていた。ふいに呼びかけられ、私は振り向く。
黒光りする重々しい車体には、誰のものか分からない血がこびりついている。そこから戦友ともいうべき人物が顔を出す。
「終わったな。」
「ああ。」
短い言葉を交わし、そのあとは無言で基地へと向かった。
ガタガタガタ
場にそぐわない騒々しい音だけが響く。時々死体を踏み越える衝撃だけが伝わってくる。
空は厚い雲に覆われていた。夜になったら一雨きそうだ。そしたらこの血も少しは洗われるだろうか。