NO.6小説
紫ネズ★幸せの形(1)『今ここで、お前を殺したって良い』
突き付けられたナイフが喉元にひやりとした感覚を与える。
外から聞こえるのはザーザーと降りしきる雨の音。それから湿っぽい空気の臭いに、冷たいコンクリートの床。
僕は床に寝転がらせられ、そこに馬乗りになったネズミにナイフを突き付けられていた。ことの成り行きは、おそらく大したことはない口喧嘩。そんなのいいつものことなのに、何故か今日のネズミは僕を押し倒すほどに怒っていた。これはもう僕の言ったことが余程気に障ったか、虫の居所が悪い別の原因があったとしか考えられない。
目の前の男は美しい顔で冷酷な言葉を吐きながら、ナイフを握る手に力をこめた。
『生きることが必ずしも幸せとは限らないからな』
「・・・」