んー、としえみが唇を突き出す。
その表情が真っ赤で茹で蛸のように見えて
思わず吹き出してしまった。
「ちょっと、なんて顔してんのよ、普通でいいのよ普通で」
「う、うん、ごめんね、き、緊張しちゃって」
「ふふ、杜山さん面白い」
朴がにこやかに笑いながらしえみの肩をぽんぽんと軽く叩く。
「リラックス、リラックス!」
「あ、ありがとう朴さん」
「じゃあ行くわよ」
「は、はい!よろしくお願いします!」
「だからそんなにガチガチにならないでよ、やりにくいわね」
まったくおかしな子だ。そんなに緊張するようなことなのだろうか。
「なんだかキスする前みたい、出雲ちゃんと杜山さん」
おもむろに朴がとんでもないことを言い出す。
「は、はあ?」
「キ、キ、キス…?」
今度は出雲の顔が茹で蛸状態になった。
自分でもわかるくらい頭に血が昇って心臓がバクバク言っている。
「なんてこというのよ朴!何をどう見たらそう見えるわけ?だいたいなんであたしがこんなごんぶと娘とキ、キスしなきゃいけなのよ」
「私は神木さんとならキスしてもいいけど…」
「はあ!?アンタも何言ってんのよ!」
「あ、私も出雲ちゃんとならキスしてもいいよ」
「アンタたち…」
湯気がでそうなほど顔を赤くして出雲は両手を握りしめた、ふと手の中のあるものの存在に気づいてふうと一呼吸。
「馬鹿なこと言ってないでさっさと始めるわよ」
手のひらの色とりどりのパレットに視線を落とす。
その中でもひときわ鮮やかな色に筆を触れさせた。
紅筆に乗せた色をしえみの唇に乗せる。
先に輪郭を描いてぷっくりとした中央から口角まで。
「…うん、イイ感じじゃない」
「杜山さん、とっても似合ってるよ、ほら鏡!」
「わ、わあ…」
しえみは鏡を見てパチパチと瞳を瞬かせる。
「すごい、キレイな色…。ありがとう神木さん、朴さん!」
「まあアタシの腕がいいからね」
「その色選んだのは私だよ、出雲ちゃん」
「こっちのアイシャドウもつけてみる?」
「じゃあチークはこの色かな?」
「あ、このグロスもいいんじゃない?」
少女たちの楽しい時間はまだまだ終わる気配のないようだ。
なんてことないある日の話