(燐しえ←アマイモン)


やわらかな感触とぬくもりを確かめるように頭を押しつけた。
くすぐったそうにしえみが身動きする。
その仕草すらいとしくて、しえみの腰に両腕を回した、逃がさないと言わんばかりに。

「燐、くすぐったいよ」
「おまえが逃げようとするからだろ」
「…だって」
「逃げんなよ…どこにも、行くな」
「うん…」

はにかむように微笑んでうなずいたしえみが可愛くて、にんまりした顔を見られたくなくて燐は頬をぐりぐりとしえみの膝に押しつける。どれくらいそうしていたかわからないけど、ずっと膝枕の体制で脚を折っているのは疲れるだろう。脚も痛いし、痺れているかもしれない。なのに文句も言わずずっとそうしてくれるしえみを離したくなくて、ずっとこのまま、独り占めしていたくて。我が儘を通している自分はなんて子どもなのだろう、そしてなんて幸せなんだろう。

「しえみ」
「ん?」

あいしてる。月並みだけどそれ以上はない、想いを伝える言葉を伝えようとした、その瞬間、

やわらかな膝から音速の速さで引き離され床に叩きつけられた。何が起こったのかわからず、痛みと衝撃に耐えて原因を探ろうとした矢先、目を疑うような光景が視界に飛び込んできた。

いとしい少女の手を取り懇願するように跪いた特徴のあるとんがり頭。

「な、なんでてめえがここにいるんだよ!しえみから離れろ!」

怒りと驚きで叫んだ燐の声など聞こえないように、悪魔・地の王アマイモンはしえみの顔に己のそれをこれでもかというほどに近づける。

「ずるいです、ひどいです、うらやましいです。」
「は、はい?」
「キミはボクと婚姻の誓いを交わした。キミはボクのお嫁さん、ボクはキミの夫です。なのに夫以外の男に膝を貸してやるなんて、ひどいです、裏切りです。不貞行為です。許せないです。」

一気にまくしたてるアマイモンに気押されたようにしえみは呆然とアマイモンを見返した。

「ご、ごめんなさい」
「謝っても許しません、さあボクにも同じことをしてください」
「しえみも何謝ってんだよ!」

言うなりごろんとしえみの膝に上体を横たえ頭をすりすりと胸元にすり寄せたアマイモンに燐の怒りは頂点に達した。

「おいてめえ!さっきから何とち狂ったこと言ってやがる!あまつさえ、しえみのおっぱ…、とにかくしえみから離れろ!」
「嫌です、そもそもこの女はボクの嫁です。」
「だからしえみはてめえの嫁じゃねえし!」
「ああうるさいなあ。」

苛立ちを隠せぬようにつぶやき、アマイモンは素早く躯を起こすとしえみを両腕に抱え上げた。

「きゃっ!」

急に視界が高くなり、不安定な姿勢のしえみはアマイモンの首にしがみつく。満足そうにアマイモンはしえみの頬に唇を寄せた。

「…てめえいい加減にしろ!燃やされてえのか!」
「やれるものなら遠慮無くどうぞ。でもしえみは離しません。ボクのお嫁さんですから。」
「…くっ」

まさに一触即発、しえみを挟むふたりの間に見えない火花が飛んでいるかのようだ。アマイモンが戦闘態勢に入ろうとしえみを片腕で抱き直そうとした瞬間。

「…ば、馬鹿!!」
「は?」
「何?」

それまで黙っていた少女の怒声が飛んだ。しえみの剣幕に燐はあんぐりと口を開けアマイモンは腕の中の彼女を解放した。


「兄弟で喧嘩するなんて、燐もアマイモンさんも馬鹿!理事長さんから聞いたよ、ふたりは兄弟なんでしょ?いろいろ事情はあるだろうけど仲良くして!お願い」

燐とアマイモンは同時に思い浮かべた人物に殺意に似た感情を覚えた、が瞳を潤ませて訴えかけるしえみの前でその感情は砕け散った。

「わ、わかったから!」
「嫁のお願いくらい聞きます、お安い御用です」
「本当に?」
「…ああ」
「ハイ」
「じゃあみんなでもんじゃ食べに行こう。理事長さんに誘われてたの」
「…へえ」
(あいつ…許すまじ!)
「…わかりました」
(兄上…ボクのお嫁さんに手出しはさせませんよ)

燐とアマイモンは先ほど思い浮かべた人物への殺意を募らせながらしえみの手をそれぞれ握った。
輝くような笑顔を浮かべたしえみの前では悪魔の力も地の王の力も、まるで役に立ちはしないのだ。




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