闇、病み、止み 第二章
カーテンを開けて振り返ると、部屋に日光が入り政宗の部屋の全貌が見えた。
お世辞にも綺麗とか、片付いているという言葉は出てこなかった。
物は無いが、ソファの前に置かれている小さなテーブルはほこりが被ってうっすらと白くなっている。床にも液体の染みている跡や、赤黒くなっている血痕が残っている。
流石に元親も動揺を隠せなかったが、極力平然としながら言う。
「政宗…そのテーブル、使わないのか?」
「…」
日光に背を向けて、何も答えない。
「飯とかは、何処で食ってんだ?」
「…食わない。」
「嘘は吐くなよ?人間食わなきゃ生きていけねぇ。食わない何でそりゃあまるで…」
そこまで言って、元親は言葉を止めた。
今、あろう事か政宗に向かって「化け物」と言おうとしてしまった。
慌てて言葉を区切るが、政宗は解りきっているように言った。
「…バケモノみてぇだろ。」
「…ッ…すまねぇ、悪気はねぇんだ…軽はずみに言おうとして悪かったな。」
「悪かったと思うならさっさと出て行けよ…目障りだ、邪魔だ…」
「そいつは無理な頼みだ。」
「なっ…!?良いから、早く出て行ってくれよ…!」
政宗にしてみれば堪ったものでは無かった。知らぬ人が家に居座る。政宗は生きた心地がして居なかった。
「一つ、理由を聞かせろ。そしたら今日は出て行くからよ…」
「理由…?」
いつの間にか政宗の前に来ていた元親が、身をかがめて政宗に聞く。
「何で、自殺しようとしやがった?」
何秒かの間の後、政宗がゆっくりと口を開く。
「生きたくなかったから。」
あまりにも単純明解な答えに元親も声が出なかった。
「…そうかよ。」
そう言うと元親は立ち上がり、玄関に向かって歩く。
そして帰る直前、振り返って政宗に告げた。
「また明日な。」
返事は無かったが、元親は扉を閉めて出て行った。
政宗は、久し振りに部屋に日光が入っているのを1人で他人事のように見つめた。
元親と出会って僅か2日。たった2日で政宗の心は動きかけていた。
自分の傷となった過去の「トモダチ」。
しかし、元親は過去の「トモダチ」とは違う新しい「友達」。
政宗は少しだけ、ほんの少しだけ期待に似た興味を持つようになった。
あくまでも、持ち始めただけだが。
その日政宗は、鍵を掛けて何も食べずにソファに体を横たえた。
←→