綱渡りバレンタイン





2月14日。それは即ち、愛する人へ愛情を贈る日。

イベント事が大好きな政宗は、この日を待ちに待っていた。




2月10日、作戦開始。


「じゃあ…行って来る。」

「行ってらっしゃい…ん。」

スーツを着た小十郎を玄関まで見送り、行ってらっしゃいのキス。毎朝恒例の儀式みたいな感覚になっている。



そして仕事に出掛けた小十郎の目を盗んでこっそり板チョコや型を買う。ついでにレシピも。

一日かけて何を作ろうか迷いに迷って決めたのが、ビターチョコの簡単トリュフ。本当は洋酒を混ぜたかったが、そんな高度な技術は無理だと政宗は自ら悟った。

「失敗作を贈るのはcoolじゃねぇよな…簡単かつ喜んでもらわねぇと意味ないしな。」


2月11日、朝食の時から既に緊張で政宗はそわそわとしていた。どうやって渡そうか。失敗作になってしまったら?もしかして小十郎にとって甘過ぎたら?苦過ぎたら?

…こんな事ばかり考えていては、流石に小十郎も様子がおかしいと気付く。

「……おい、政宗。」

「え、えっ…あ…何だ?」

「さっきから目が泳いでるぞ?具合悪いのか?今日は休みなんだ…素直に言って大丈夫だぜ?」

「い、いや…別に…何でもねぇよ…」

「そうか…?なら良いが…」

何とか小十郎が信じてくれたようで、政宗は少し安心した。

「心配かけて悪いな、折角の休みなのに風邪なんか引いてられねぇよ…」

「ほう…嬉しい事言ってくれるじゃねぇか。だったら、今日は一日中構ってやるよ。嫌だって言ってもな…」

「OK…期待しとくぜ。」


その後は本当に一日中何をするにもべったりくっついたままで、おかげで当日の心配事も少し薄れた。


(きっと…小十郎なら喜んでくれるよな…)



2月12日。今日、小十郎は仕事と会議が重なっていつもより少々帰りが遅くなる。
それを良い事に、試作品を政宗は作ってみた。見た目は普通の丸い形。冷蔵庫で固めるとココアパウダーを軽くまぶして完成。シンプルだが愛は込めた。

恐る恐る一粒手にして口に入れる。





「…ん………う…苦っ!?」


苦い。苦いと言うか最早苦過ぎて息苦しい。

「oh…苦味にカカオ99%のチョコ結構使ったのが悪かったか…」


普通にビターチョコを使えば良いのを知らない政宗だった。


それから量を調節したりしたが、結局甘過ぎたり味かしなかったりと散々なものにしかならなかった。



2月13日。予定では、今日作って明日の朝に渡す。幸運にも、明日は小十郎も仕事が無くて休みだ。


「今日こそは…良いの作らねぇとな…」


だが問題があった。材料が足りない。いや、足りてはいるが自分の味見を作る分が既に無かった。

つまり、一回で程良い苦味を作り出さねばならなかった。


「や、やるしかねぇよな…」

腕まくりして、いざ台所に立つ。


溶かして、丸めて……その間も小十郎の事ばかり考える。

ようやく出来た6個のチョコ。ココアパウダーをまぶし、藍色の箱に入れて冷蔵庫の奥に隠す。

(明日まで見つかりませんように…あと、喜んでもらえますように…)

そんなささやかな願いと共に、扉を閉める。




そして、ついにその日はやって来た。

2月14日。バレンタインデー。

昨日はどうやらバレなかったらしい。

小十郎に後ろから抱き締められながら眠っていたが、既に頭の中は混乱していた。

(い、いつ渡せば良いんだ…!?枕元に置く…いや、それじゃあ起こしちまうし、朝飯…いや、雰囲気がねぇな…じゃあ…)


「政宗。」

「っ!?」

突然後ろから声を掛けられ、驚きのあまり声にならなかった。

ゆっくり振り返ると、目を覚ましていた小十郎と目が合う。

「政宗、今日は有給を取ったんだが…何かする事は無いのか?」


もう全てバレバレだったのかと政宗は悟った。

「あ…ある…待っててくれ。」


顔を真っ赤にさせながら政宗は冷蔵庫からチョコを取り出す。


そして小十郎の前に立つと、そっと差し出す。


「て、手作りだから…味は保障出来ねぇ…」

「手作りなのか?…ありがとう。」


小十郎は子供をあやすように政宗の頭を撫でる。

そして箱を開けて、少し歪な丸を摘んで口に入れた。

「どう、だ…?自信はねぇんだが…」


「…甘い、甘過ぎる。」


「え…あ、sorry…」


失敗してしまったのかと政宗は肩を落とす。





「政宗の愛が詰まり過ぎて甘いんだよ。」


「え…」


意外な一言。その直後に抱き締められた。


「美味い…ありがとう…」


耳元で囁かれた言葉に、政宗は嬉し過ぎて小十郎に抱き付いた。

「良かった…!良かった…」

「チョコをくれるとは予想してたが、手作りだったのは予想外だな。」

小十郎の言葉を聞いて、政宗は顔を上げて満足そうに笑う。

「だろ?びっくりさせてやりたかったんだ。」


「そうか…ありがとう。政宗も一粒食ってみるか?」


「良いのか?じゃあ…一粒だけ。」

政宗は自分で味見出来なかったのもあり、少し気になった。
一粒摘んで口に放り込む。甘味と、それと程よく混ぜ合わさる苦味。
今までの中で一番の出来だった。

「うん、なかなか…」

そこまで言いかけた時、不意に小十郎からキスを受けた。


「ん…ふぁ、んむ…」

そして小十郎の舌が、チョコで満たされている政宗の口内に侵入する。
互いの口を行き来するチョコも、溶けて無くなってしまった。その間も、唇が離れる事は無かった。


「っは、はぁ…はぁ…」


ようやく離れた時には、政宗の息も上がってしまっていた。


「…こうやって食べるのが一番美味いな。」


「普通に食った方が…良い…」


突然の事態で動揺が隠せず、まだ心臓の音がバクバクと煩かった。



「チョコはまた夜に食おう…お礼に、今日は沢山愛してやるからな?」


嗚呼、なんて幸せな日なんだろうと抱き締められながら政宗は思った。



END



一日遅れのバレンタイン小説(笑)!管理人は手作りチョコは今まで一度も作った事ありません(笑)お菓子はせいぜいクッキー位しか作れない←



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