闇、病み、止み 二章
次の日の朝、元親は昨日の約束通り政宗のアパートに向かった。
学校に向かう時間より少し早めに来てインターホンを鳴らす。
しかし反応は無い。
もう一度鳴らす。
音すらしない。
「おかしいな…来るって言っておいた筈だが…」
試しにとドアノブに手を掛ける。
ガチャリと開いた。
「おいおい……嘘だろ…」
よくTVで見る、開けたら中で殺人が起こっていたという典型的なパターンに元親は妙な緊張感に包まれた。
「ま、政宗ー…」
名前を呼びながら中に入りそっとドアを閉める。
相変わらず人が居る気配すらしない。
良く見ると、政宗の靴が一足玄関に置かれている。
つまり、まだ登校していない。
「くそ…これじゃまるでコソドロだな…」
思い切って元親は居間へと入る。
「政宗!」
政宗は、制服を身に着けたままソファで眠っていた。
いや、眠るには静かだった。
顔が昨日より青白かった。
「おい…もう学校行く時間だぜ?」
ユサユサと揺らす。
目は覚めない。
起こすのは申し訳なく思うが起こさなければ学校にも行けない為、少し体をずらす。
ポトリ、と何かが落ちた。
よく見れば、それは剃刀。
「っ…!?」
政宗の左手首を持ち上げる。
そこは血が変色し、赤黒くこびりついていた。
直ぐに何をしたか理解すると、先程よりも激しく政宗を揺さぶる。
「政宗、政宗っ!」
どれだけ揺さぶっても、政宗が目を開けない。
指に触ると、ヒヤリと冷たい。
救急車を呼ぼうとしたが、待つのももどかしかった。
「わざわざ待つ位なら…俺が助けてやる…!」
そう言うと、元親は近くに放り投げられていた毛布を手に取る。使われた形跡は殆ど無い。
それを政宗の体に巻き付ける。着ていた制服も政宗の体に被せる。その上から元親は政宗を抱き締めた。
「政宗…政宗…」
死なないで欲しい、ただそれを願いながら黙って抱き締めた。
「……ぅ…」
そして政宗の小さな声が、長い静寂を破った。
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