兎は追われる事すら知らない
初夏に入った突き抜けるような青空の元、幸村は縁側に座ったまま暗い表情で地面に視線を送り続けていた。
「……はぁ…」
「どうしちゃったのさ、旦那。ため息なんて珍しい…」
「慶次殿は、今度はいつ来て下さるのだろうか…」
「(またあの前田の旦那かよ!)もしかして旦那…寂しいの?」
「うむ…慶次殿は、この戦乱の世を巡っていらっしゃる…それは、俺には出来ぬ行い故尊敬しておる……だが、半月も文すら無いのは…辛いでござる…」
更にしょんぼりとしてしまった幸村の隣りに、佐助がそっと座る。
「旦那…寂しいの嫌だもんね。ほら…」
そう優しく言うと、佐助は幸村の肩に片腕を回し優しく抱き締めてやった。
「なっ…佐助っ…!」
突然の行動に目を丸くさせながらも、幸村は抵抗しなかった。
「旦那…泣いても良いんだよ。悲しいなら、寂しいなら…素直に泣いたら楽だと思うよ?」
至って優しい声で幸村を慰める。その言葉を聞いた幸村は、我慢しつつも下を向いて何粒か涙の滴を零した。
「っ、く…慶次、殿…!会いとうござる…!」
ポロポロと涙を流す幸村を佐助はそっと前から抱き締めた。体温、髪の感触、可愛らしい泣き声。既に佐助の心の中は大変な事になっていた。
(ああああもう前田慶次とか本当旅の途中でくたばれば良いよ!こんな可愛い旦那を放って置くだなんてさ!ていうか…泣いてるの目茶苦茶可愛いよ旦那ぁあ!!もしかしてここでキスとかしたら旦那は俺様の物かも…その後は部屋に引きずり込んで俺様好みに色々〇〇とか★●◆■とか仕込んじゃいたいよねー……あ、抵抗とかされちゃったら俺様尚更頑張っちゃうかも☆)
「っ、佐助ぇ…」
「…えっ!?あ、何?どうかした?」
「佐助は…この幸村の側にずっと居てくれるか?」
少し見上げた形で幸村は佐助に問うた。その視線だけでも佐助はノックアウトである。
「も、勿論!俺様は旦那の忍なんだから居なくなる訳無いじゃん!」
「そうか…ならば良かった…」
そう言うと幸村は安心したのか事もあろうに猛獣になりかけている佐助に自ら抱き付いた。
「だ…旦那…」
「佐助は暖かいな…」
「っ…御免、旦那!」
とうとう我慢も限界に達して、薄く開いた唇を奪おうとした正にその時である。
「真田幸村あああぁぁぁ!!!」
あろう事か城壁を突破って、2人の人影が現われた。
「何事でござるか!?」
「チッ…!あのクソ竜共…」
さり気なくどす黒い発言をしながら、佐助は武器を構える。誰が来たかなど解りきっているが、解っているからこそ武器を構えた。
「猿飛…てめぇ今舌打ちしやがったな?」
「幸村…今日も相変わらずcuteだぜ。」
「片倉殿に…政宗殿まで…!?何故遠路はるばる甲斐までお越しに!?」
「決まってんだろ?アンタのvirgin奪いに「黙って貰おうかな、竜の旦那。」
「おっと…猿飛、政宗様に傷は付けさせねぇぜ?」
今にも巨大手裏剣を投げようとした佐助の前に、既に前髪が軽く落ちかけてる小十郎が立ちはだかった。
「政宗様、今のうちに真田をお連れ下さい!奥州に戻りしだい…御楽しみ致しましょう。」
「OK…嫁ぎ先はちと寒いが、俺の溢れんばかりのloveと●●●と★★★(自主規制)で幸村を暖めてやるぜ?」
「なッ…な…●●●に★★★など、は…は、はっ破廉恥いいい!」
「いや、旦那も今さり気なく言っちゃったよねエゲツない単語。」
「よそ見してる場合か?」
「え、って…うわッ!」
冷静にツッコミを入れていた矢先に地を這うような声がしてその方向を向いた途端、佐助に向かって刀が振り下ろされた。
慌ててそれを躱すが、小十郎は直ぐに次の攻撃を仕掛けて来る。その相手をするだけでも佐助は手一杯だった。
その間、政宗は幸村に近付きとうとう壁際まで追い詰めた。
「幸村…前田の風来坊より、俺にしておけよ?」
「い、嫌でござる!慶次殿は御優しく、貴殿のように破廉恥な事は言わぬ!」
「ha、男なんか皆獣だぜ?破廉恥じゃねぇ男なんか居ねぇさ。」
そう言いつつ、丸腰の為ただ壁を背に怯えるしかない幸村の上に政宗は跨がる。そして耳元に唇を寄せて、フッと息を吹き込む。
「ひゃうッ…!」
途端に幸村からは小さく声が上がり、政宗はそれだけで死にそうになった。
「cute…!可愛いな…その声…もっと聞かせてくれよ?」
「やっ、止めて…下され…!」
ジタバタと暴れる幸村だが、政宗はしっかりと幸村の両腕を掴んで離さない。
それどころか、今にも捕食しようと舌なめずりしている。
「諦めな…真田幸村。」
その背後に、人影2人。
「ちょっとー竜の旦那。」
「政宗様…」
「抜け駆けは許さ(ねぇぜ)ないよ?」
ついさっきまで刃を交えて居た二人は、揃いも揃って政宗の首に両側から刀と手裏剣の刃をあてがう。
「shit…これも失敗か…!猿飛はまだ良いとしても、小十郎!何でお前まで参戦してんだよ!」
「先程の声で色々キました。」
「右目の旦那、それただの変態親父になってるから。」
「変態で何が悪い。」
「さ、佐助っ!早く助けろ!このままでは政宗殿に…」
「おい…この小十郎を忘れちゃいねぇか?」
「か、片倉殿まで…!」
「駄目駄目!旦那達に渡したら真田の旦那に何するか解らないし!」
「何って…ナニだr「だぁああ言わなくて良いから!!」
次第に幸村を蚊帳の外にして、3人の中での言い争いが始まってしまった。
「佐助ー…政宗殿ー…片倉殿ー…?」
幸村が恐る恐る声を掛けたが、聞く耳もたずだ。
仕方なく部屋に避難しようとして廊下を渡って曲がった瞬間、誰かに思い切り正面衝突した。
「わっ、あ…!」
危うく尻餅をつきそうになった幸村を、直ぐさま誰かの手が支えた。
「おっと…大丈夫かい?」
聞き慣れたその声を耳にして、幸村はばっと顔を上げる。その視線の先には、
「幸村、久し振り。」
眩しい笑顔を携えた慶次が幸村の顔をのぞき込んでいた。
「け、慶次殿…!いつお帰りになられて…」
「たった今。ごめん…なにも連絡しなくて。心配しちゃった?」
「あ、当たり前でござる…某…心細かったでござるよ…」
そう言うと幸村は慶次にそっと抱き付こうとした。
しかし、外野が黙って居るはずが無い。
「hey風来坊!俺の嫁を返してもらおうか?」
「政宗様!こればっかりは、謀反をしてでも幸村を譲るわけにはいきませぬぞ!」
「旦那!そんな優男より、頼れる俺様にしなよ!」
三者三様、理由も動機も目茶苦茶な事を言いながら徐々に慶次と幸村に迫り来る。
「こりゃあ…ちょっとヤバい?」
「慶次殿!某が捕まったら、★★な事や〇〇〇〇をされたりしてしまいまするぅぅ!」
「うわ…ちょっと引いた…ま、取り敢えず……逃げますかね!」
慶次は幸村を抱えると、軽い身のこなしで庭を駆けあっという間に城から抜け出す。幸い、追って来ていない。
「…ここまで来たら、もう大丈夫。」
「かたじけない…助かりました…」
「いーや。むしろ、2人きりになれて良かった。」
今は、森に佇む廃屋にお邪魔させてもらっている。
「幸村、俺さ…この期間に色んな所に行って、色んな人に会った。でもさ、やっぱり幸村が居ないと日常に色が無いんだ……だから、幸村を求めて帰って来ちゃった。」
「慶次、殿…」
「また暫く…一緒に居ような?」
「はい!嬉しゅうございます!」
慶次に負けず劣らずの笑顔で、幸村は笑った。
「しかし…暫く帰りたくないでござる…」
「俺も行きたくない…」
-END-
あんまり変態ぽく無かった気がする…(笑)
というか、もう佐助vs政宗vs小十郎になってるし←
お気に召すかどうか心配です…(ガクブル)
最後までお読みいただきありがとうございます!