林檎に導かれ
昔、ある所に白雪姫という男の子がいました。
はい、突っ込んだら負けです。
男の子とはいえ、年は19歳。立派な男です。
しかし彼の容姿は実に美しく、唇はほんのり薄桃色を帯びていて、瞳は切れ長で凛とした印象を持たせます。何より、右目の眼帯が特徴です。そんな彼、名を伊達政宗と言います。でも、白雪姫です。ここ大事。
姫はいつも退屈でした。着る物は何故かスカートばかり。女装なんか趣味じゃないのに。けれども慣れは恐ろしい物で、既に違和感無く着こなします。
「はぁ…今日も退屈だぜ…」
ガニ股で椅子に座りながら、今日も白雪姫はぼやいていました。
その頃少し離れにある魔女の城で、白雪姫よりガタイの良い魔女が鏡に向かって話しかけていました。決してネクラではありません。
「おい鏡よ!世界で一番眼帯が似合ってる奴の名前を言ってみやがれぇい!」
随分口が悪いです。しかし、鏡からはその声を上回る声が聞こえて来ます。
「アニキ!アニキ!アニキ!アニキ!」
「解ってるじゃねぇか…おうよ!その名前を言ってみろ!」
いつものように呼び掛けますが、鏡からはいつもと全く違う言葉が返ってきました。
「筆頭ーーーー!」
「…あァ?筆頭?誰だそりゃ?」
「筆頭こと、白雪姫!またの名を伊達政宗!」
鏡からは予想外の言葉が次々出てきます。そしてぼんやりと影が浮かびました。その影は次第にはっきりして、政宗の姿を映しました。
「こいつが…伊達、政宗か…」
その美しく強気な視線に元親は完全に興味津津です。
「こうなったら直接会いに行くしかねぇな…!良いお宝が手に入りそうだ!」
魔女は早速、毒という名の惚れ薬を林檎に染み込ませます。小一時間も漬ければ完成です。
それを手土産にして、魔女…もとい、元親は政宗の家へと碇に跨がって向かいました。
その頃……
「まちゃむねどのーまちゃむねどのー」
「まちゃむねどのー!」
「じんじょーに、しょーぶでごじゃるー!」
小人の幸村が家に押しかけていました。8人もいるので目茶苦茶です。
「あーもう、静かにしやがれ!1人ずつ叩き切るぞ!?」
白雪姫はそんな事言いません。しかし政宗は暴れます。
「いい加減出て行きやがれ!」
「ぴゃあああ!」
「うわああああ!」
「おやかたさばあああああ!」
「まけたでござるーー!」
今明らかに1人本物が混ざってましたね、はい。
そんな事は気にせず、ようやく政宗はゆっくりと休息を取ります。
コンコン…
「あ?入っていーぜ。」
なんと無防備な。白雪姫は何処の誰かも解らない人を家の中に招きました。
「おう、邪魔するぜ。俺は林檎売りしてる元親ってもんだ。どうだいお嬢さん、林檎でもお一つ如何かな?」
そして魔女もズカズカ人の家に上がり込んで早速薬のしみ込んだ林檎を政宗に見せました。とても赤く、輝いています。
その美しさに政宗は是非その林檎を食べてみたいと思いました。
「いい林檎だな…よし、その林檎買ってやるぜ。」
「あいよ。」
林檎を受け取った政宗は、早速その林檎を口にしてしまいました。
「ん……なんか、甘くねぇ…か……?」
味の異変に気付き表情を険しくさせましたが、時すでに遅く政宗はその場に倒れてしまいました。
「そうだぜ。次にあんたが目を覚ました時…あんたは俺のものになっているんだよ…」
そして城に連れ帰ろうとした矢先、先ほど出ていった小人が戻ってきました。
「まちゃむねどのーまちゃむねどのー」
「ん…?まちゃむねどの?…たいへんでごじゃる―!まちゃむねどのが息をしておらぬー!」
近くに寄った小人がそう叫ぶと、残りの小人も大騒ぎし始めました。
これには元親も焦りました。なぜなら、死ぬだなんて思ってもいなかったのです。
「な、何だと!?嘘だろ、おい!」
呼びかけても返事はありません。ただ、美しい眠った表情のままです。
元親の心を、激しい後悔が包みました。
こんな事しなければよかった。
自分できちんと会いに行けばよかった。
政宗を無理矢理自分のものにしようとした罰があたったのだと思いました。
「おい、小人…」
「なっ、なんでござろう…?」
「綺麗な花、ありったけ持ってこい。せめてもの詫びにこの森全部の綺麗な草や花、政宗に捧げてやりてぇんだ…」
「わ、わかりもうした!今集めてきまする!」
その間に元親は即席ではあるが棺桶を用意した。魔法などではなく、自分の手作りで。
傍らに政宗の亡骸を寝かせて。
日も沈み始めた夕暮れ時。静かに政宗との別れの時を迎えました。
小人たちは思い思いの言葉を口にして涙を流しました。
元親はずっと、その様子を離れたところで見ていました。
棺桶の中には、色とりどりの草花が大量に敷き詰められていました。しかし元親の目には、政宗の方がずっと美しく見えました。むしろ花と並ぶ事によって美しさが増したようにも思えました。
「きでんも、いかぬのか?」
小人の一人が、元親を誘います。それに元親は静かに頷きそっと棺桶を覗き込みます。
「政宗…わるかったな…本当に、浅はかだった…」
元親は政宗の頬をそっと撫でます。もう冷たいですが、白く綺麗な肌の感触を忘れないよう元親はずっとその手を離しませんでした。
もう時間は迫っています。
もう二度と会うことのない美しい存在に、元親はそっと顔を近づけ
唇にキスを贈りました。
その時です。
政宗の左目の瞼が一瞬動きました。
そのまま、うっすらと政宗は目を開きました。
「ま、政宗…!?」
「ん…?てめ、林檎売りの…」
「俺の名前は元親だ…それより、政宗…何ともねぇのか…?」
突然目を覚ました政宗を心配そうに見つめながら、元親は問いました。
「ん?あぁ…なんか眠くなっちまったけど…この花は、何だ?」
自分の周りに広がる花に、政宗は驚きを隠せません。すると元親は、政宗をそっと抱き締めました。
「政宗、悪かった…俺がさっきあげた林檎には惚れ薬が入ってんだ…けど、何かの間違いで毒になっちまってたみてぇなんだ…」
「毒…?惚れ薬?」
「あぁ…こりゃあきっと神様がチャンスをくれたんだ…だから、言わせてくれ。」
そっと政宗の体を起こさせて、元親はまっすぐに目を見据えました。
「あんたが好きだ。」
「えっ…でも俺、男だぜ?こんな恰好してるけどよ…元親と同じ、野郎なんだぜ?」
「それでも構わねぇ…政宗は今まで俺が集めてきたお宝よりもずっと綺麗なんだ…お前を手に入れたくて、俺はお前に惚れ薬を飲ませたんだ…」
「元親…」
「本当にすまねぇ…生き返ってくれて、ありがとな…」
「じゃあ…さっきのkissは…」
「俺が、最期の別れにって…したんだ。」
そう言うと、政宗は顔を真っ赤にさせ俯いてしまいました。
「その、俺…さっきのkiss…すげぇ、好きだった…暖かくて、優しくて…ずっとしてたいって思う位に…」
政宗は意を決して顔をあげました。その顔は夕陽のせいもあって林檎よりも赤く見えます。
「だから俺…きっと…元親の事……好き、だと思う…」
「政宗…」
思ってもいなかった告白に、元親は目を丸くさせました。そして、直後には優しく微笑んでいました。
「あぁ…もう、離さねぇぜ?それでもいいのか?」
「…あぁ。」
「…ありがとな。」
もう一度、元親はキスを贈りました。
さっきとは違い、甘く濃厚なキスを。
それから二人は、元親の城で末永く幸せに暮らしました。
-END-
まず元親が王子様じゃなくてすみませんorz
本当は元親が王子様って予定でしたがそうすると最後にしか出てこないので思いきって魔女にしちゃいました(笑)
またお越しくださいませ。
リクエストありがとうございました!!
哀蘭より