いつもの午後のこと
あーうるさいうるさい
「おなか空いた眠いだるい疲れたおなか空いた」
勘右衛門はかなり前からこの調子だった。とにかく思い付いたことを片っ端から言葉にして机に懐いている。
「なー鉢屋おなか空いたお饅頭食べようよぅ。庄ちゃんも彦にゃんもおなか空いたよねー」
「え、あの、だってさっき」
「さっきお団子を頂いたので特には」
庄左衛門と彦四郎に同意を求めるが庄左衛門の冷静さに玉砕。それもそうだろう。半刻前に学園長室からたらふくかっぱらってきた団子を食べたばかりだった。
勘右衛門は「むー」とつまらなそうに顔を伏せた。その間も鉢屋鉢屋と人の名前を連呼している。
「あーもううるさいお前ひとりで食ってろよ」
「やだ!みんなで食べるから美味しいんだろ!だからみんなで食べる!」
「お前に付き合ってたら胃がいくつあっても足りないわ!」
「いいじゃん俺ら成長期だもん!」
「成長期でも胃には消化の限界があるだろ!」
「この程度で限界点が訪れるほど脆弱じゃないもん!」
つまり勘右衛門の胃袋は宇宙か何かということか。ブラックホール尾浜め、私を相手に脆弱などと、笑わせてくれるわ!
「そんなだから鉢屋はいつになっても肉が付かないんだよ」
何かが私のなかで弾ける音がした。
手のひらを思い切り机に叩きつけて立ち上がる。
「言ってくれるじゃないか勘右衛門。私を誰と心得ている。畏れ多くも天才鉢屋三郎様だこの野郎。その私に脆弱だと、片腹痛い。ああいいだろうそれしきの菓子などいくらでも喰らってくれる!」
さぁいくらでもかかって来るがいい!
途端に机に置かれる大量の団子煎餅饅頭素甘etc…。並べる勘右衛門はそれはもう良い笑顔で輝いている。それを部屋の隅っこに避難した一年生が冷たい目で眺めている。
「さぁ天才鉢屋三郎様、覚悟はいいかい?」
所謂一つの死亡フラグ乱立の瞬間だった。
最後にあえて言っておこう。
食べ過ぎは体によくない。
そして勘右衛門の胃袋は4つあるに違いないと確信した平日の午後だった。
END