ゆっくりと右膝をつく動きから、恭しく眼前の手を取り、その手の甲に唇を落とすまで。その一連の動きのどれもこれもが、ランサーがやると絵になるんだから仕方ない。名前は惚けた顔で目の前の光景をまじまじと眺めると、それからはっとしたように身を固くした。

視線が縫い付けられたかのように自分の右手から目が離せなくなる。そう、彼が唇を落としているのは他の誰でもない、私の手の甲なのだ。

「ら、ランサー、」

恥ずかしさにいたたまれなくなって名前を呼べば、手の甲から唇が離れ、彼の整った顔がこちらを向いた。だめだ、彼の黒子に宿った呪いは私には効いていないはずなのに、それでもこんなイケメンに片手を取られてキスを落とされているのだからどきどきしてしまう。もちろんそこに特別な感情がないことは分かりきっているにも関わらず、だ。

「名前様、貴女が我が主に御助力くださる限り、貴女の身の安全は必ずやこのディルムッドが。」

…そう、手の甲に落とされたキスは決して愛情表現などではなく、ただの形式的なものであって、私がケイネス先生に助力することをより堅く約束させるためのものなのだろう。

加えて、こんなもの彼の祖国ではきっと挨拶のようなものに違いない。もしかするとソラウ様にも同じことをしたのかもしれないし、もしくはこれからするのかもしれない。どちらにせよ手の甲のキスごときにいちいちどきどきしていても虚しいだけだということだ。

どくどくと普段より早く脈打っている胸を左手で押さえる。それから自身を落ち着かせるように大きく息を吐くと、名前はゆっくりと右手を引っ込めた。

「ありがとう。私も期待しています、ランサー。」

彼に胸の高鳴りを悟られぬよう、精一杯に作った余裕ぶった顔を張り付かせて。


そっと埋めて潜めておく


(抱きそうになった感情が二度と目を覚まさないように。)