あんたたち付き合ってどのくらい過ぎたの?――1年ぐらい、かな。じゃあ、同居して何年経ったの?――た、多分半年です。震える声を抑えつつ、わたしは状況も何も理解しないまま目の前に座っている友人の質問に答えていた。
声の表情で分かる、友人が何かに怒っているというご様子。一体、彼女は何が気に入らないというのだろうか。久しぶりに会ったのに、そんな不機嫌な思いを剥き出しにしないでよ。

「いい名前、もっと彼と楽しみなよ。同居なんておいしい状況、どうして半年も見逃してきたの?」
「ちょっと何言ってるの?わたし毎日すごく楽しいけど」
「でも彼、仕事忙しいでしょ。名前が何処か行ったーなんて話、最近してないし」

確かに友人の言うとおり、最近私は何処かへ遊びに行くようなことはない。一人で何処か行こうとも思わないし、誘う人もいないし…身近な存在のマサキさんは仕事で忙しい。彼を置いて自分だけ楽しむなんて、できるはずないじゃない。だからもう少し落ち着いてからでいいの。そう思ってる。

「甘い、甘いわ!名前だって行きたいところあるでしょう?!彼に強請りなよ!」
「無理だよそんなこと」
「女なら我が儘のひとつやふたつ許されるって!」

ため息しか出ない。どうして私の友人はこういうことしか提案してくれないんだろう。わたし本当は今日、男の人の癒し方とか聞いてみたかったのに。わたしは男の人じゃないから、男の人のことが分からない。少しでも多くの意見を聞けたらいいなと思えた末に得たのは要らない提案。
とりあえず、収穫はなかった。



「ただいまー」
「あ、お帰りなさい」

玄関から聞こえるマサキさんの声。最近マサキさんは10時近くに帰ってくるようになった。きっと仕事が忙しいんだろうなぁと思いつつ、聞けないのはわたしに勇気がないからだ。関与してはいけない気がしてならない。あぁ何だかむずかゆい。
夕飯が要るかと聞けば、今日は疲れてるから要らない。じゃあすぐにお風呂に入るのかと聞けば、入るけど面倒臭い。何だか今のマサキさんとお話しするのは気まずい気がした。

「あ、お茶飲みます?今日友人からもらった紅茶の茶葉があるんです」
「いらへん」
「じゃあ、何か少しでも食べますか?何も食べないのは身体が持ちませんよ」
「ええわ」
「…マサキさん、疲れてるんですよね」

反応が冷たくて、あまりにも寂しくて。涙が溢れ出る訳じゃないのに、どうしても心にずっしりと乗っかかってくる重みに耐えられない。だけど、マサキさんの重みを背負うことが出来ない。わたしは今、あなたに何が出来るんだろう。

「何もせんでええ。せやけどわいとちょっとお喋りしてくれへん?」
「え、それで、いいんですか?」
「何や最近仕事忙しくなって、名前と話せんかったのわい少し寂しかってん」

その率直な甘い言葉を、誰がいつ期待しただろう。マサキさんはそういうところ、予想外すぎて困るよ。…嬉しいけど。胸の中に広がった穏やかな波は、いつしかわたしの心を優しく煽て、そしてこの時間を楽しみにしているかのように、揺らいでいる。


茅さんからマサキ

茅さんのサイトの1万打企画の際にリクエストさせていただいたもの。疲れたマサキさんを癒すために奮闘するというぼんやりしたリクエストにこんなほんわかした文章を乗せてくれました。