rinfresco



「黒」が全てを覆う夢を視る原因である眠気はといえば今はなかったのだけれど、普段どおりというべきかリビングのソファに寝転がっていた未勾は取りとめもない考えが永遠リピートしている胸中さえも特に気にすることなくぼうっとニュースが流れているテレビだけを見つめていた。数十分ほど前に注いだはずの紅茶がテーブルの上に置かれているものの、既に冷め切ってしまったために匂いが未勾にまで届くことはなく、彼女の視界には入らない。僅かな身じろぎをしつつテレビに見入る。「先日並盛中学の風紀委員によって捕らえることの出来た――」何やら聞き覚えのある単語が幾つか混じっていたような気もしたけれど左耳から右耳へと一方通行を辿ってしまったために脳に浸透することはなかった。
明日の朝食の準備は既に済んでいるけれど、休日なために昼食の準備も考えておかなければ。妹と兄が満足してくれるもので夕食まで響かない程度にメニューを考えなければ。いっそ二人に考えてもらうのも良いかもしれない。むしろ幼馴染二人も誘って外食という手も――嗚呼けれど“風紀委員長とその妹たち”というセット且つソレに対しても平然と受け答えできる場所を考えなければいけないから、ならば自分でメニューを考えた方が楽なのか。
思考が限界まで達してしまう前に一旦息をついて気持ちを静める。ソファの上で身体を縮めると、ふと視界に入ったデジタル時計が10時を回っているのが解った。
そういえば澪が数十分前に風呂に入ったことを思い出して、背後から聞こえてきた足音に耳を澄ます。



「お姉ちゃん、お風呂開いたよ」

「あ、澪」


タオルで濡れた髪を乾かしていた澪が、予想通り足音の主だったらしい。顔を上げると、白い寝衣に身を包んだ妹の姿を捉えた。寝転がったまま意味もなく「澪ー、」と名前を呼んで手を伸ばすと、不思議そうな表情をしながらも伸ばされた手を掴んでくれる。風呂から出たばかりなために澪の手は温かい。手を伝って考えが解るだろうとひっそり胸中で考えを巡らせるも、何も考えていないが故にきっと聲さえも聞こえてくることはないだろうとむしろ開き直ってしまった。未勾自身でさえ自分が何を考えているのかなんて理解していない。こてん、と首を傾げた妹が見えた。



「どうしたの、澪?」

「…私はむしろお姉ちゃんが気になるんだけど…」

「うん…? …ああ、どうでも良いこと考えてた」

「どうでも良いことって?」

「えっと…明日の昼食とか?」

「(本当にどうでも良いこと考えてたんだ…)」



妹が胸中で呆れているなんて露知らずヘラリと笑みを浮かべた未勾は、澪を座らせる分を確保するためにゆっくりと起き上がると同時、視界に飛び込んできた冷め切った紅茶を一瞥して、「あ、澪も紅茶飲む?」と上半身を起き上がらせつつ一言。肯定の返事を受け取ると共に手を掴んでくれていた澪を自分の座っていた場所へと座らせて、自分は立ち上がって台所へと歩みを進めた。
ぺたんとソファに座り込みつつ自分をぼうっと見つめている澪と視線を合わせると、再び笑みを溢す。



「澪は明日の昼食何が良い?」



食器棚からコップをひとつ――否、先程の冷め切ってしまった自分のものを思考に加えて、ふたつ取り出した。
既に作られているお湯に視線を移すことはなく、手元に茶葉を用意して、市販で買い置きしていたお菓子があるか僅かにあたりへと視線を動かした。


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