「沢田先輩……この人、誰ですか?」
「ツナ、この子は?」

二人の少女が互いに互いの事を知ろうと、彼女らを知っている綱吉に問うた。
綱吉は、えーと……と視線を彷徨わせながら少し考えあぐねてから口を開く。
どうして自分に声をかけた時に、こういう状況になる事を考えていなかったのだろうか。それに、綱吉の隣で疑問の表情を浮かべる人(一緒にいたから多分クラスメイトとかだろう)を見やり、澪は後先考えない綱吉の行動に小さく息を吐く。

一方の優那も、いきなり対面したセーラー服姿の少女を一瞥する。少女の左腕には風紀の腕章が付けられ、その容姿……特に誰かを思い出すような漆黒の髪に、もう少しで思い出せそうな、むず痒い思いを抱いていた。

「(うーん、誰かに似てるんだよなぁ……この子)」

澪は優那から聞こえた聲に二人が気付かないくらいの微笑を浮かべた。もし、これでその名を呼んだならば、綱吉の次に当てる事になるだろう、と。

「え……っと、澪ちゃん、こっちはオレのクラスメイトの」
「僕は優那。野木崎優那。君の名前は?」

綱吉が言い切るよりも先に、優那が綱吉の言葉を遮って自分の名を言う。そして綱吉の反対側にいる澪に訊ねた。その動きは何気ないもので、澪がどんな人物であるかそれだけを問う、ただ当たり前の流れ。

「澪……雲雀、澪」
「ああ……どっかで見たことあるような、って思ったけど、そっか。恭弥さんの妹さん……え」

優那はぽかんとした表情で「妹サン……!?」と復唱する。足りないピースが上手く嵌まった時のようにすっきりしているのだが、それよりも身近な知り合いにそんな人物がいると思っておらず、驚きの声を上げるだけだった。
うっそ、あの恭弥さんにこんな可愛らしい妹がいるなんて初耳だよ。

「恭弥さんの妹さんの、澪さん」
「うん」
「えーと、一年生?」
「そう」

優那の確認を兼ねた問いに澪はすんなりと頷く。優那と同じ学年であるならば、その名を覚えている筈。でなければ、彼女は自分とは違う学年である、と。だが、上という事はあり得ない。本人には失礼だが顔立ちがいくらか幼いし、綱吉が「澪ちゃん」と発言している事から、下であろうと。

そして澪は、優那が発した兄の呼び方に、そんな言い方をする人がいるんだ、と気に掛り、今度は自分が疑問形で訪ねた。

「お兄ちゃんの事、名前で呼んでるの?」
「……う、うん。そう呼ばせて貰ってる」

優那は言ってよかったのだろうか、と先程の発言を思い返した。

お兄ちゃんが学校での話をする時、たまに出てくる草食動物……もとい沢田先輩達の名。
その中に混じる、女の人らしき名前。その時は気に留めなかったが、その名をどっかで聞いた事があるかもしれない。沢田先輩と並んで、お兄ちゃんが不思議だと、咬み殺してみたいと呟いていたかも。
だけど横にいる綱吉と同じで、今の優那にはそんな強い、と感じられるほどの気配はない。でも、強い意志と、それと相反した恐れ、を併せ持っているのは確か。

他人にはあまり興味を持つことが少ない兄が興味を持つ数少ない人物。


「沢田先輩、」
「う……うん、何?」

急に自分に話が向けられ、綱吉はどもりながらそれに反応する。

「何で急に私を呼び止めたの」

ご尤もな発言に、綱吉はその理由を探そうと思考を巡らせる。
別に校舎の中ですれ違うくらいなら、ただ挨拶をすればいいだけな筈なのに、わざわざ呼び止めてこんな時間を作る。確かに理由がなければ納得できないだろう。
一応、急用がないのを確認しての事だから、今直ぐに彼女の兄である雲雀恭弥がやって来る事など無い筈だが。


「ほ、ほら、知り合いとか、少しでも多くいたらいいんじゃないかな。お、お節介だったらごめん」
「うん、お節介だよね」

横では優那が口元を隠している。頬の筋肉が上に持ち上がっており、やられている綱吉を見て笑っていたのだ。勿論、声は出さずに。
それに気付いた綱吉が「ねえ」と視線で優那を嗜める。
それを見ていた澪は、二人の仲がいいのだろうと思案する。

だから何で私に紹介したの?


「……迷惑じゃなかったらさ、たまに話でもしない? 澪さん」

優しく微笑み掛ける優那に、澪は自然と口を開いていた。自分の能力とか何も知らないのだろうけど、今此処にいて嫌な感じはしないから。

「澪でいい、野木崎先輩」
「流石に呼び捨てはなぁ……じゃ、ツナと一緒で澪ちゃんって呼んでいい?」
「構わないよ」
「うん、ありがと」


狙ったという訳ではないだろうが、偶然が重なった時くらい、あってもいいだろう。
二人の少女の和やかな雰囲気に綱吉はほっと安心しつつ、これでよかったかな、と安堵の笑みを浮かべた。


願うは些細な幸せで


→懺悔(と言う名の後書)
09.03.23

ぷらす、ろろの感想


- 1

ヽ(゚∀。)ノ(ノ゚∀。)ノヽ(∀゚ヽ)ヽ(。∀゚ヽ)ヽ(。∀゚)ノ
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -