辛い時、哀しい時、彼女には一人になる癖があった。

兄妹や幼馴染に頼ってしまったら自分は其処までなのだと解ってしまうからだ、特に可愛い可愛い妹に縋ってしまったら妹は必ずや心の奥底まで理解し、無言で傍にいてくれることだろう。ソレは兄にも幼馴染にも出来ない芸当だ。人は、何も話す事無く他人に理解して欲しいことなど山ほどあるだろう。彼女の場合、ソレは典型的な例でもあったのだ。

けれど、今日は違う。

自宅のリビングにてニュース番組が延々と流れているその光景を見つめながら、ソファにごろりと横になっていた雲雀未勾は静かに嘆息して見せた。辛いわけでも哀しいわけでもない。ましてや流れているニュースの事件が身内に起こったわけでもなく。寧ろそういったモノであるのならば、身内に起こるどころか身内が起こした事件だと云う方が余程説得力がある。事件でも何でも無く、未勾はただただ悩んでいたのだ。その理由に関して言うのであれば彼女自身『自己満足』でしかない事など解りきっていたのだけれど、仮令『自己満足』であろうとも何かしたいと思ってしまうのは仕方が無いこと。





「さっきから溜息ばっかりだけど、何かあったの?」


「…恭弥兄」





台所から、後数分後に並盛中へと行くために学ランを羽織っている兄が珈琲を少し口に含み、喉を潤しながら此方へと歩み寄ってきたのをチラリと一瞥するも、肝心の解決に導けることは無さそうだと再びソファに自身の体重をかけていく(因みに今日は休日のため、己も妹も学校へと行く予定は無い)。

何をしたら良いのか、等と考えれば考えるほどにぐちゃぐちゃに絡まっていく感覚。暫く気分転換に外出でもしてみようか。外出。

ぴたりと、未勾の動きが止まった。





「未勾?」


「恭弥兄、」





ソファから勢いよく起き上がり、不思議そうに自身を見やる兄を軽く無視しつつ、彼の背後に存在する扉へと足を動かす。リビングと廊下を遮るソレの前で立ち止まり、そして振り返った。『今日、ちょっと帰ってくるの遅くなるかもしれない』小さく笑みを作った未勾が口を開いた。





「デートに行ってくるね」


「…………は?」





言葉はそれだけ。

兄であり、並盛町では知らない者はいないと言えるであろう風紀委員長でもある恭弥は、どこか先程よりも機嫌が良くなっていると思われる一つ下の妹の後姿を呆然としたまま見送った。デート。彼女が、そんな莫迦な。

脳裏に即座に描かれた、己と同様に彼女を溺愛する二つの存在を思い浮かべ。犯人探しという名の完全なる八つ当たりでしかない感情を抱きつつ、幼馴染と度々応接室に侵入する少女のどちらかだと。テーブルの上に置きっぱなしとなっていた己か妹のものか判別のつかない銀色に煌くトンファーを静かに手の中に握り締めた。既にこのとき、彼の中からは『学校へ行く』という重要な予定は消え去っていた。何の関係も無い筈だった彼等の悲劇に関しては、「貴女」のご想像にお任せするとしよう。


そんなこんなで、雲雀兄妹の一日は始まったのだった。


























La piccola
felicita per lei

ー彼女にとっての小さな幸せー






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