Notte di Tempesta



これは「もしも」の物語。










「澪ちゃーん!」
「っ!?」


びっくりしてる可愛いなぁ取り敢えずおはようのハグとチュウ〜、・・・なんてハートマーク飛ばしながら変態然として澪ちゃんに飛びつこうとしたDr.シャマルに、澪ちゃんは飛び上がって―――獄寺君の背後に隠れた。
それを見て、シャマルは一時停止して獄寺君を見下ろして、「邪魔だ隼人。愛しの澪ちゃんに抱きつけねーだろ」いつもの如く、血迷った台詞を獄寺君に投げかける。
対して獄寺君は、これまた何時もの如く、


「・・・・・・・・・。」


澪ちゃんが並中に新入生として入学してから毎日続いているこのやり取りに、心底面倒くさそうに盛大に顔を顰めてから、やっぱり盛大に溜息をついた。
・・・その背後で、獄寺君のYシャツを掴みながら申し訳なさそうに獄寺君を見上げる澪ちゃんに気付いて、思わず苦笑。


「・・・十代目。澪が卒業するまででいーんで、この変態、保健室で氷像にしとけませんかね」
「え、澪ちゃんが卒業するまででいいの?」
「ツナも獄寺も、澪のこととなると発言が黒くなるのな!」


はははー! と隣からの可笑しそうな笑い声に、俺と獄寺君、二人同時にうんざりと項垂れる。
山本に言われたくないなぁ・・・。









Notte di Tempesta
















そんなわけで昼休み。
屋上で食べようっていう話になって、それぞれの昼食を持って屋上へ。俺は弁当あるけど、獄寺君と山本と―――澪ちゃんは、購買のパンだった。山本がパン五個くらいで、獄寺君が三つ、澪ちゃんはパン一つに小さいドーナツ一個。
それなのにほぼ同時に食べ終わった俺たちは、残りの時間で他愛ない話をする。
澪ちゃんと言えば、俺たちの話に混ざる獄寺君の背中に寄りかかりながらすぅすぅと小さな寝息を立てていた。


「・・・澪ちゃん、よく寝てるね」


俺の言葉に、獄寺君は「そーすか?」と首を傾げてから肩越しに澪ちゃんを一瞥した。その仕草は、極力背中を動かさない様に首だけで行われたもので、あぁやっぱり、と胸中で一言。
基本的に、獄寺君が話をするときは身ぶり手ぶりが大きい。―――と言うのも語弊があるけれど、俺の言葉には必要以上に嬉しそうに返すし、逆に山本とかの言葉には適当な返答を返し、たまに気に障る様な事があれば叫ぶ勢いで怒りだすから。
けれど、彼自身意識しているのか、澪ちゃんが背中で寝ているときは大きいモーションのリアクションはない。俺の言葉に一喜一憂し、山本の言葉に突っかかるのは同じだけれど。


「獄寺と澪見てるとさ、キョウダイっていいなぁって思うんだよなー」
「うん、俺も」
「はい?」


獄寺君と澪ちゃんを見つつの山本の台詞に、同感。すると、獄寺君はきょとんとして俺を見返してきた。


「俺の家はチビたちが増えたから兎も角、山本は特に思うんじゃないかな」
「そーなんだよなー。でも、ツナもだろ? チビが増えたっつっても、獄寺と澪みたいに年が近ぇわけじゃねーし」
「うーん、確かに」
「だろー!」
「だから何の話だよ」


何かテンション上がったらしい山本。唸る様に呟いた獄寺君に、ぐっと拳を握り締めて力説した。


「澪が欲しいなって話だ!」
「違うから!?」
「十代目なら兎も角テメェは却下だ!!」
「えぇー!?」


山本が笑顔満点で返した返答に思い切り突っ込んだけれど、続けられた獄寺君の言葉にも度肝を抜かれた。
いろいろ誤解を生んでしまう山本の発言に、恐らく誤解したまま叫んだ獄寺君。え、それってつまりどーゆーこと。俺なら兎も角って、何それ。


「ごごご獄寺君意味違うから! 澪ちゃんみたいな『妹』が欲しいって意味だから!!」
「あ、そーなんスか? ったくこの野球バカ、紛らわしいこと言いやがって。てっきり―――まぁ、どっちにしろ答えは同じですけどね、十代目!」
「(何で俺に言うの!?)」


山本を一瞥して顔を顰め、続けられた俺への笑顔と台詞の意味に混乱。ひくりと口元が引き攣ったのは言うまでもない。
あぁ、何かこのまま妙に擦れ違った感覚のまま経過していく気がする。そうして毎回トバッチリ・・・と言うか、ハズレくじを引くのは何故かいつも俺だ。某赤ん坊の策略を感じない訳がない。
・・・今回ばかりはそうなるもんか。リボーンが付け入る隙もないほど、ちゃんとした真実を教え込んでおくべきだ。
誰かが言っていた、真実は何時も一つって。うん、その通りだ。嘘も方便なんて諺知らない。兎に角、何か沢山ありそうな誤解を解いてやると意気込んで獄寺君を見返した―――と、同時だった。
屋上の出入り口、鉄製の扉が重々しい音を立てて開かれたのは。


「・・・げ、ヒバリ・・・!」


そこに立っていたのは、風紀委員長のヒバリさん。唸る様に呟いた獄寺君に、山本も振り返ってヒバリさんを確認、「よーヒバリ!」なんて笑顔で手を振ってたりする。そして、俺と言えば多分顔を蒼褪めさせて体を強張らせている。
逆にヒバリさんは、そんな俺たちと―――獄寺君の背中で眠り扱けている澪ちゃんを、確認。一瞬不思議そうに彼女を見詰めたけれど、直ぐに少しだけ顔を顰めてから、呆れたように溜め息をついた。


「莫迦が四人・・・」
「んだとこの野郎!」
「うわぁっ獄寺君落ち着こう、ね!」
「ヒバリ、どーしたんだ? 俺らに用事か?」
「―――君たち、時計持ってないのかい」
「「「・・・は?」」」
「放送機器が故障したのか、予鈴も本鈴も鳴らないんだってさ」


もう五時限目始まってるよ。呆れ顔でそう言ったヒバリさんに、一瞬の沈黙。
ハッとした俺は、慌ててケータイをポケットから取り出して、今の時刻を確認する。―――確かに、ヒバリさんの言う通り、五時限目が始まっていた。と言っても、始まってほんの数分だけど。
直後、


「・・・と言うわけで、授業サボってるよね」
「え゙、」
「あぁ?」
「やべっ」
「―――咬み殺す。」
「うわぁぁぁああ!」


ぶん、とトンファーがその手元で回されたと思えば、一瞬で距離を詰めてきたヒバリさんが俺たち三人にトンファーを振りかざした。各々(俺も何とか)避けることができた、けれど―――ヒバリさんはそっと視線を動かして、獄寺君に背負われたまま、未だに眠ってる澪ちゃんを一瞥。・・・薄く、笑った。
その笑顔に、ぞくり。・・・え、標的絞られた?


「ねぇ、そこの昼寝してる女子」
「っ、何だよ! コイツに何か用か!?」
「始めて見る人間だね。君たちは何時も『三人』で群れてた気がする」


遠回りに「誰だ」と質問していることは、明白。
薄らと浮かべられた冷笑の先は、獄寺君ではなく、その後ろで眠る澪ちゃんに向けられていた。それに気付いて、獄寺君は苦虫を噛み潰した様な表情でヒバリさんを睨み付ける。


「・・・こいつは俺の妹だ」
「ワォ、妹居たんだ。・・・その子、強い?」
「巫山戯んな! こいつに手出しすんじゃねぇ!!」
「―――じゃあ、弱かったら、特別に手出ししないであげよう」


いやヒバリさん、どっちにしても手出してますそれ。
獄寺君は澪ちゃんを背負ってて、そのせいで両手が塞がってるからダイナマイト取り出せない。山本もきっとそれに気付いたんだろうけど、その山本も時雨金時なんて一々常備してるわけじゃなく、「おいヒバリ、」と焦った様に声をかけることしかできず。
かと言って、俺なんかがヒバリさんを止められるわけがない。超死ぬ気モードになれば、きっとできなくもないだろうけど・・・ヒバリさんは同じ守護者なのに、彼を止めるためだけにそこまでするのか? それとも、今のノーマル状態のまま止めるとか・・・いやいやいや、確実に死ぬって!
でも、澪ちゃんが危ないんだ、と思ったら、―――・・・あぁもう、どうにでもなれ!


「ひ、ヒバリさん待ってください!」
「!」
「十代目!?」
「ああああのっ、澪ちゃんは今寝てるし! ほら、起こすの忍びないくらい寝てると言うか、なので今日のところは見逃してくださいお願いします!」


獄寺君を背に庇う様にして、立つ。震える声はどうか無かったことにしてください、ホント俺ってかっこ悪い。


「・・・授業をサボってる状態の君たちが、風紀委員長の僕に口答えする権利があると思ってるのかい」
「え、」
「邪魔。」

ごっ。

「痛ぁー!?」
「ツナっ!」
「十代目―――!」


案の定、殴られた。・・・最初のころはこの一撃で気絶してたんだよなぁ、と思うとちょっと泣けてくる。頭が凹むほどの痛みに耐えるよりは、気絶した方がよっぽど楽だ。


「さて。・・・ねぇ、その女子起こしてよ。君の妹なら、その子も戦えるんだろう」
「ンの野郎、十代目に手をあげやがって・・・! しかも澪まで毒牙にっ」
「獄寺君『毒牙』の使い方違くない・・・?」


殴られてくらくらする頭を押さえながら何とか突っ込んだ。蹲る俺の直ぐ横を通り過ぎるヒバリさんには「ちょっ、ヒバリさんあの・・・」なんて弱々しい声しかかけられなくて、勿論無視されてしまう。
彼は、その手元で一度トンファーを回し、


「起こさないなら、君ともども咬み殺すまでだよ」
「・・・ちょ、ヒバリ待った!」


―――ぽかんとしていた山本は、その時になってやっと獄寺君の前に出た。


「ツナや獄寺や俺なら兎も角として、澪は女だろ? それに、ツナも言った様に、気持ちよさそーに寝てんだしさ、見逃してやってくれよ。な?」
「女子だからって罪が軽くなる訳ないだろう。僕は平等に制裁する」
「いや、そーゆーんじゃなくて・・・」
「寝ていようが起きていようが、授業をサボっているのは変わりない。寝てるから見逃すなんて莫迦げた話だ」
「うーん、それもそーなんだけどよ・・・」


山本認めちゃダメだって、と胸中思うけれど、ヒバリさんの言ってることは全面的に正しい。―――いや、たかが授業開始から数分過ぎた程度で罪だの制裁だの言われても困るんだけど。
だんだん眩暈が引いてきた視界を奮い立たせるため、一度ふるふると頭を振った。ぱち、と目を開いて視界が霞まないことを確認、もう一度ヒバリさんを説得しようとフェンスを支えに立ちあがり、


「―――ぅ?」


・・・同時、澪ちゃんが小さく呻いて目を覚ました。
その声に俺の体は一時停止、山本や獄寺君にも一瞬の隙ができ―――そこを、ヒバリさんのトンファーが素早く動いた。
肉体を殴る音と二つの呻くような悲鳴に、思わず目を瞑って肩を竦める。けれど直ぐに慌てて顔を上げると、―――山本は俺の時みたいに頭に一撃受けたのか、屋上に倒れて唸りつつ頭をくらくらさせている。
そして獄寺君は、


「―――お兄ちゃん・・・っ?」
「っ・・・!」
「・・・ワォ。妹、落とすと思ったけど・・・」
「誰が、落とすかよ・・・っ!」


フェンスに手を突きながら、片手で、澪ちゃんを背後に背負いながら何とか立っていた。けれどくらくらする頭は俺や山本と同じなのか、フェンスに手を突いていても少し足元がふらついている。
その背後で、澪ちゃんが驚きに目を見開かせて獄寺君を見ている。それから倒れる山本と、フェンスを支えに立っている俺を確認。それから、獄寺君の前に立つヒバリさんを見て。


「君の妹も起きた様だし。もう君は要らないよ、」


横に一閃、銀が閃いたことに気付いたけれど、あっ、と声を上げる間もなく―――澪ちゃんが、獄寺君を踏み台にして彼の背中から大きく跳躍した。
その衝撃に、もともと足元が覚束なかった獄寺君が「うおっ!?」と短い悲鳴をあげて屋上に倒れ込む。・・・そのお陰で、獄寺君の頭上紙一重のところをトンファーが掠めていった。
ヒバリさんが驚いた様に息を呑み、空を見上げる。同時にハッと目を見開いた彼は後ろへと素早く下がった―――直後、それまでヒバリさんが立っていた場所に、ものすごい勢いで無数のナイフが力強く降り注ぐ。
ガガガガガッ、と屋上に突き刺さる何本ものナイフに、


「(えぇー!?)」


驚きすぎて悲鳴すら出ない。
しかもそのナイフが、下がったヒバリさんを追う様に更に降り注ぐ。それに合わせてヒバリさんも更に後ろへと下がり・・・避けるのが面倒になったのか、少しだけむっと顔を顰め、数本その手元のトンファーで叩き落とした。
カラカラン、とヒバリさんの足もとにナイフが何本か転がったと同時、ナイフの雨が止み―――たんっ、と言う軽い音を立てて、獄寺君の前に澪ちゃんが着地した。
・・・しん、と静まり返る中、澪ちゃんは音もなく静かに立ち上がり、真っ直ぐヒバリさんを見る。その表情は、少し拗ねている様に眉が寄せられていた。


「貴方、今、お兄ちゃんを殴ったでしょう」
「そうだね」
「・・・お兄ちゃんだけじゃなくて、山本先輩も。・・・それに、十代目様も殴った?」
「うん」


あ、澪ちゃん俺の事まだ「十代目サマ」って呼んでたんだ、ははは。・・・なんて、現実逃避。
ヒバリさんは「美味しそうな獲物を見付けた」とか言い出しそうな顔してる。薄らと浮かべられた笑みに、構えられた銀のトンファー、赤い舌先にぺろりと舐められた唇。澪ちゃんと言えば―――単純に、俺や山本、兄である獄寺君を殴ったと言うことに怒っているらしかった。


「反省が見られないね・・・三倍にして返してあげようか?」


薄く開かれた澪ちゃんの唇が、ぼそっ、と小さく囁いたその意味に、ギョッとする俺たち三人。ヒバリさんに反省とか、似合わなさすぎる。
けれどヒバリさんは、ハ、と鼻で笑って。


「イイね。じゃあ僕は、それを十倍にして返してあげる」


・・・戦場になる、この屋上。
そう悟り、どうすればいいのか三人でアイコンタクト。・・・と言っても、獄寺君は澪ちゃんの現状に放心状態だったから、実質山本と俺で。
どうする山本。いや、ぶっちゃけ今のうち逃げた方が。澪ちゃんはどうするの。そうなんだよな、置いて行く訳にもいかねぇし。


「・・・私、貴方の事嫌いかも」
「残念だね、僕は君の事気に入ったけど」
「「「はぁっ!?」」」
「・・・。ほんと?」
「ここで嘘ついても僕に利益はないよ」
「ふぅん・・・?」


澪ちゃんそこで納得するの!?
・・・と言うかこの二人、何か似てる? 言動とか思考回路とか・・・ちょっと天然っぽいのとか・・・あ、やばい。こんなこと考えてるってバレたら、ヒバリさんに殺されるかな俺。


「―――まぁ、でも、強いヒトは好きかな」
「へぇ。僕も強い奴は好きだよ」


澪ちゃんは兎も角、ヒバリさんは自分の獲物的な意味で好きだよねこれ。ハンバーグと和食が好きです、みたいなノリだよね絶対。
・・・ってか止めないと!!


「それじゃあ、」
「すとっぷ―――!!!!」
「「!?」」


それぞれ武器を構えて薄らと笑った二人を、大声で止めた。
大きすぎたのか、澪ちゃんも・・・ヒバリさんすらびくりと肩を竦めて驚いた様に俺の方を見る。山本と獄寺君も、ギョッとした様に俺を見ていた。
でも、形振り構ってられない!


「澪ちゃん、何時も言ってるけど女の子なんだから危ないことしちゃダメだってば! それに俺たちなら平気だって!!」
「っで、でも・・・!」
「ヒバリさんっ! 澪ちゃんは確かに戦えますけど女の子なんです、男でしかも年上のヒバリさんに勝てるわけないじゃないですか! お願いだから見逃して―――」
「やだ。」
「!?」


俺に怒鳴られておろおろしている澪ちゃんに続いて、ヒバリさんにも説得する、けれど―――その途中で、ヒバリさんはむっすーと拗ねた表情でぷいっとそっぽ向き、否定を短く述べた。
それに驚いて目を見開いくと、同時にヒバリさんは澪ちゃんへの間合いを一瞬で詰める。・・・俺に怒られて戸惑っていた澪ちゃんは、完全に戦闘態勢を解いている状態だと、俺でも判って。


「「澪!!」」
「澪ちゃん・・・!」


山本と獄寺君の悲鳴と同時、やっと澪ちゃんはヒバリさんをその視界に入れた―――のだろう。けれど防御の態勢を取る時間もなく、無防備な腹部にヒバリさんの攻撃が容赦なく入った。
同時、かはっ、と掠れた悲鳴がずきりと胸に突き刺さる。そのままヒバリさんの腕に倒れ込んだ澪ちゃんに、思わず息を止めたけれど、・・・よく見ると、澪ちゃんのお腹に埋められたその手にトンファーが握られていないことに気付いて、そこで小さく息を吐き出した。
ヒバリさんも、ちゃんと判ってて手加減するつもりでいてくれた、の、かな。
それでも、獄寺君にとっては大切な「妹」で。攻撃されて黙っていられるはずがない。


「―――っ、ヒバリ、てめぇ!!!!」
「思い出した、」


数瞬の間呆然としていた獄寺君だけれど、(気絶したのだろうか、)まだ下がらないヒバリさんの腕に力なく体を預ける澪ちゃんを見て―――いつも以上に、ギッ、と強く強くヒバリさんを睨み付けた。
けれど、それすら綺麗に無視したヒバリさんは、何かを思い出したらしい。攻撃したその手で、そのまま澪ちゃんの制服を掴んで片手で持ち上げ、力なく項垂れる澪ちゃんの顔を見上げた。


「獄寺澪。今年度の新入生が受けた入学試験で、ほぼ全部の教科で満点を取り、堂々たる首席で入学。次席との点差は―――正確には忘れたけど、確か20〜30点差だった気がする。入学以降もほぼ全ての中間・期末テストで満点を取得、未だに首席の座は揺るがず。運動能力も逸脱している」
「へぇー。澪、頭いいのな?」
「テメェと一緒にするんじゃねぇ野球バカ」
「けれど、制服の改造が甚だしい。指定外のカーディガン着用、女子はリボンにするべきなのに何故かネクタイ結び、スカートも規定より目測三センチ以上短い。血筋から銀髪には目を瞑るけど、多数のシルバーアクセサリの着用や、学校に不必要な雑誌や本の持ち込み・・・挙げたら切りがないし、注意しても治らない」
「「「・・・・・・・・・。」」」
「成績だけ見れば優等生だけど、その実この上なく不良。勿論、風紀のブラックリストにもしっかり載ってるよ」


淡々と続けたヒバリさんに、俺たち三人、一同沈黙。
・・・と言うかこの人、いつもとは違う意味で怖いんですけど。獄寺君もなんか引いてるし、山本は笑顔が固まっていた。


「―――・・・ん、ぅ・・・?」


その時、小さな掠れた声にハッとする。


「あ、起きた」
「・・・、・・・っ!?」
「流石に速いね」


だらりと垂れ下がっていた澪ちゃんの四肢が、ぴく、と動く。未だにヒバリさんの片腕に全体重を預けている上、ヒバリさんに見上げられている状態。
・・・起きたらさぞかしびっくりするだろう。ちょっと澪ちゃんに同情した。


「な、下ろし・・・っ」
「そうだね。はい」


自分の現状に驚いた澪ちゃんが、ヒバリさんの腕一本で支えられている状態にもかかわらず、ばたばたと暴れ出した―――直後、ヒバリさんは興味を失くした様に視線を逸らして、
・・・ぽいっ、と獄寺君の方に澪ちゃんを放り投げた。


「―――っ!?」
「なっ、ンのやろ・・・っ、澪ッ!!」


それを見た獄寺君は、ギョッとしつつも咄嗟に体が動いたらしかった。澪ちゃんをそんな扱いしたヒバリさんに向かって文句を言おうとして止め、そして澪ちゃんが屋上に体を打ちつける前に見事に受け止める。
こほこほと小さく噎せる澪ちゃんの背中を擦りながら、獄寺君はもう一度ヒバリさんを睨み付けた。
けれど、


「取引しようよ。獄寺澪」
「っ?」
「んだと!? いきなり何っ、」
「黙れ。君には言ってない」


ぴく、と反応して顔を上げた澪ちゃん。獄寺君は既に苛立ちが限界なのか、食ってかかる様に反論するけれど、ヒバリさんにぴしゃりと返されて思わずと言った様に口を噤む。


「寝ていた君にも判る様に教えてあげる。今はもう五時限目が始まっているんだ、チャイムが壊れてしまったらしくてね」
「っ、え・・・」
「つまり、ここにいる四人は授業をサボっている。僕の主義上、現行犯は例外なく咬み殺すけれど、―――」


途端に表情を厳しくした澪ちゃんは、そっと手元を動かして袖口へと手を添えて―――ヒバリさんは目を細めて薄く笑い、その指先を見る。


「話は最後まで聞いた方がいい。交渉決裂と見做し、この場の全員殺すよ」
「・・・っ」


押し黙った澪ちゃんに、今度は機嫌よさそうに笑うヒバリさん。
彼はそのまま、肩に羽織った学ランの袖についている風紀の腕章を外すと、誇張する様にゆらゆらと動かした。


「君が風紀委員に入るなら、今回は見逃してあげる」
「「なー!?」」
「おぉ!」
「・・・私が、風紀に?」
「そうだよ。嫌なら交渉決裂、だね」


そう言って楽しそうにトンファーをちらつかせる彼。もし澪ちゃんがNOと答えたなら、その瞬間俺たちの頭上に降りかかってくるだろう。そう思うと、ぞくっと体を震わせた。


「・・・何で私なの、別に誰だって・・・!」
「ふぅん・・・それは、委員会には入らないってことかい?」
「・・・っ」
「―――くす、」


うわぁー。今この人、悔しそうに顔を顰める澪ちゃん見て楽しそうに笑ったぁー・・・!


「風紀委員は、ほぼ全員がロードワーク向きの筋肉莫迦ばかりで、デスクワーク向きじゃない。辛うじて副委員長ができるけれど、僕と草壁で風紀の書類を全部こなそうとすると、中々忙しくてね。結果、ミスも多くなるし、まともなストレス発散もできない」


ストレス発散って何ですか。
イコール、その辺の不良咬み殺す事ですか。


「・・・私を、デスクワーク担当の風紀委員にするっていうこと?」
「うん」
「―――見ての通り不良で、成績だって下から数えた方が、」
「僕ら風紀には全校生徒の成績も流れてくる。下手な嘘は自分の首を絞めるだけだよ」
「・・・・・・・・・」


むー、と顔を顰める澪ちゃんと、すごーく楽しそうなヒバリさん。
未だに、赤い腕章がヒバリさんの指先でひらひらしてる。


「・・・私、ロードワークの方が得意だから、」
「助かるよ。君を守る必要がなくて楽だ」
「・・・っ」


ぎり、と歯を食い縛った澪ちゃんは、キッとヒバリさんを睨み付けた後に―――ヒバリさんの手元から、風紀の腕章をバッと奪った。と同時、背後で(ヒバリさんと澪ちゃんのやり取りに)呆然と成り行きを見守っていた獄寺君に、ぎゅうーっと抱き付く。
そんな彼女にくつくつと笑ったヒバリさんは、小さく、


「いい子だね。」


からかう様に呟くと、やっぱり何処か楽しそうに踵を返した。


「今日の放課後、応接室に来ること。それまでにいろいろ揃えておくよ」


来なかったら契約破棄ってことになるから気を付けてね。こちらを向くことなく補足したヒバリさんの羽織る学ラン、その袖に何時もついてる赤い腕章は―――ない。
そして、来た時と同じように鉄製の扉が重々しい音とともに開閉し、同時にヒバリさんは消えた。


「・・・・・・・・・。」


屋上に残ったのは。
呆然と扉を見詰める俺と山本と―――悔しそうに顰めた顔を獄寺君の胸元に埋め、ヒバリさんから渡された腕章を握りしめる澪ちゃんと―――その澪ちゃんの頬に薄らと赤みが差していることに気付き、ショックに石化した獄寺君だけ。























恐らく「もしも」の物語。






■□■□■




今回は、「空悪がヒバリさん以外の妹だったら」、と言う神ネタでした。投稿してくださった方、ありがとうございました!


ちょっと不良(?)っぽく…スカートマイナス三センチ。聖域ですよ聖域。

でも煙草は吸いません。この物語の中でも、兄上役のごっくんも煙草吸ってない設定ですが、生かせませんでした。単純に妹の事を考えてのことです。




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