交錯世界の作り方



ツバサを探す、物語。




交錯世界の作り方












お兄ちゃんと一緒に、学校の屋上でお昼食べてたら・・・突然、人が現れました。


「「・・・・・・・・・。」」


思わずお兄ちゃんと沈黙。・・・お兄ちゃんがぽかんとしてるの、珍しいなぁ。
―――私たちから見て出入り口の方角に居る彼ら。空中が突然光って眩しくて一瞬目を閉じ、開けると、既に彼らはそこにいた。・・・そんな、現実ではありえない登場をした彼らに、流石のお兄ちゃんも不法侵入だとか言うつもりはないみたいだ。
光の具合によってピンク色にも見える、そんな亜麻色の髪の少女が一人。あと、茶髪の少年一人、黒髪赤目と金髪碧眼の青年二人の計四人組。・・・それぞれ、何かのコスプレみたいな恰好しているのは敢えて黙殺しようか。
その時、


「お弁当だ〜!!」
「っ!?」


相手も相手できょとんとしていた最中、金髪碧眼の人の肩に乗っていた、―――白いウサギのぬいぐるみだと思っていたそれが、ぴょーんっと身軽に飛び跳ねてきて真正面に降り立ってきた。
びっくりして、座ったまま後退すると、けれどぬいぐるみは飛び跳ねる様に近付いてきて、


「お腹すいたからモコナも食べるー!!」
「っ? !? っ、」


そんなぬいぐるみに、混乱しつつも更に後ろに下がる。背中がフェンスにぶつかったと同時―――お兄ちゃんが伸ばした手が、そのぬいぐるみみたいな・・・生物? の片方の耳を、ぐわしと掴んだ。
あうー、何て声を出しながらフラフラと揺れるぬいぐるみ。お兄ちゃんはそのまま、ぬいぐるみを自分の視線まで持ち上げ、珍しいものを見る様にマジマジと見詰めた。


「あ、お弁当!」
「?」
「モコナお腹すいたからお弁当食べたい!」
「・・・いいよ。あげる」
「やったー!」


そう言って、自分のお弁当の前にぬいぐるみを置いたお兄ちゃん。
いただきまーす、そう言ってひよいっとお弁当を小さい両手で持ち上げたそのぬいぐるみは、

ばくっ。

「―――っ!?」
「・・・ワォ」


お弁当の箱ごと、食べた。と言うよりも飲み込んだ(そしてその後、めきょってなった)。
・・・お兄ちゃんのお昼ご飯、無くなっちゃった?


「・・・も、モコちゃんっ!」
「お弁当丸ごと食べちゃったねぇ」


呆然としていた彼らのうち、女の子が慌てた様にこっちに駆け寄ってきた。あははー、と呑気に笑ったのが金髪碧眼の人。続いて、ハッとした様に慌てて女の子の後を追ったのが、茶髪の男の子―――女の子の事を、姫、と呼んでいた。
駆け寄ってきた女の子がぬいぐるみを抱き上げ、申し訳なさそうな顔をしてぺこりと頭を下げる。


「あの、ごめんなさい。お弁当が・・・」
「・・・別に」


答えながらも、お兄ちゃんの視線はぬいぐるみ。それに気付いた女の子はきょとんとしてから、自らの腕に抱かれるぬいぐるみを見下ろす。私もぬいぐるみへと視線を向けて、


「モコナもてもて!」


・・・何処かで聞いたことある台詞だ。脳裏に浮かぶ黒スーツ着た赤ちゃんを、視線を逸らすことで振り払った。


「―――・・・で?」


一言、呟いて。
お兄ちゃんはそっと立ち上がり、まず正面に立つ女の子を一瞥―――するより早く、彼女の前に盾になるように、茶髪の男の子が立ち塞がった。それを見、面白いとでも言うように小さく笑ったお兄ちゃん。けれど何をするでもなく・・・彼の更に背後に立つ、へらっと笑ってる金髪の人と、無愛想な黒髪の人を見やった。
―――「強い」。胸中で呟いたお兄ちゃんを、咎める様に静かに見上げる。けれどお兄ちゃんはそれを無視したのか気付かなかったのか、立ち上がったときにがらりと変えた空気のまま、更に冷たい笑みを深めて続けた。


「・・・君たち、何者? 突然空中から現れたし、下手な言い訳は通じないよ」
「少し、遠いところから来ました。探し物をしてるんです」


軽く敵意を纏いながらそう質問したお兄ちゃんに対し、けれど物怖じするでもなく真っ直ぐ見返してそう言った男の子。・・・の背後では女の子が戸惑い、更に背後では金髪の人が「なんか空気が怖いよお父さーん」「誰がお父さんだ!!」と言い合いをしていた。
・・・取り敢えず、黒い人はお父さんではないと言うのが判ったけれど。


「探し物、ね・・・それは別にいいけど、遠いところってどこ?」
「・・・・・・・・・」


その問いに、少しだけ顔を顰めた男の子。
・・・今はもう冷笑は浮かべず、何かを考えるように思案顔になったお兄ちゃんをそっと見上げると、


「澪?」


質問された。
―――少しだけ戸惑って、男の子と女の子、その腕に抱かれたままのぬいぐるみ、更に向こうにいる青年二人を見てから、静かに立ち上がって。
お兄ちゃんの問いに、答えた。


「・・・ちょっと、信じられないかもしれないけれど」
「うん」
「この人たち、異世界から来たみたい」


きょとんとした視線は、お兄ちゃんと女の子から。
他、男の子と青年二人には、驚いたような視線を向けられ、


「異世界?」
「うん。探し物は・・・」
「モコナがわかるのー!」


ぴょーん、と女の子の腕から飛び出してきたぬいぐるみは、そのまま男の子の頭の上にぽすっと乗る。


「でもね、めきょってなんないから、この世界にはないみたい!」


強い力も感じないよ! と、小さな胸を張り、えっへん、と言い切った。
直後に、男の子の後ろの女の子の更に後ろから、手が伸びてきて―――ぐわし、とぬいぐるみを握り締める。いつの間にか近くに来ていた、黒髪の青年の手だった(びっくりしてお兄ちゃんの後ろに隠れた)。


「だったらさっさと次の世界へ飛ばしやがれ白まんじゅう!」
「きゃー! モコナ黒鋼に食べられちゃうーっ」
「でもここって、魔女さんの所とちょっと似てるねー?」


そのままぬいぐるみの両方の耳を握り締め、みょーんと引き伸ばす黒髪の人―――ぬいぐるみ(しろまんじゅう?)が言うには、クロガネという人らしい。悲鳴にしてはやけに楽しそうな声を出すぬいぐるみに、おろおろとする男の子と女の子。一人暢気に金髪の人が辺りを見回して呟いた。


「あの時は雨降ってたし、正直それどころじゃなかったからあまり覚えてないけど」
「言われてみれば、確かに似てますね・・・建物のつくりとか、四角だったり三角だったり」
「小狼くんもそう思うー?」


へらっと笑った金髪の人に、はい、と律儀に返す少年。・・・シャオラン、くん?
・・・えーと、


「・・・お兄ちゃん、この人たちどうするの?」
「って言われてもね・・・話を聞いてる限りでは、自分たちで他の世界にいけるみたいだし、放っとくつもりだよ」
「放っとく? お兄ちゃんが?」
「・・・言うようになったね、澪」


じとり、と見下ろしてくる目に、そっと視線を逸らした。


「ま、別にいいけど・・・流石に昼食抜きは困るかな。お腹すいた」
「あ・・・お兄ちゃんの分、食べられちゃったんだよね。丸ごと」
「丸ごとね」


そう言って、興味をなくした様にもう一度座り込んだお兄ちゃん。倣って、私も隣に腰を下ろした。
私とお兄ちゃんが話している途中、異世界の人たちは騒がしかった。・・・具体的に一番騒がしかったのは黒い人とぬいぐるみで、金髪の人がそれを楽しんでて、少年少女はおろおろしていたけれど。


「・・・私のお弁当、食べていいよ。私、あまりお腹減ってないし」
「それじゃあ澪の昼食がなくなるだろう」
「―――・・・私は、別に食べなくても・・・」
「駄目だよ、ちゃんと三食食べなきゃ」
「う・・・」


お兄ちゃんは、たまに厳しい。・・・お兄ちゃんは男の人だし、私よりたくさん食べるのに。だったら、私よりもお兄ちゃんのお腹を優先したほうがいいのに・・・そもそもお兄ちゃん、お腹減りすぎて機嫌悪くなったら、その辺で群れてる人咬み殺しだすし。下手したら風紀乱してない人も被害に遭う。
平穏のためにそれだけは避けたいんだけどな。


「侑子がねー、三食ちゃんと食べて栄養取ったほうが、お肌もすべすべになるんだって言ってたよー!」
「ほら。ぬいぐるみもこう言ってる事だし」


しかもなんか、一匹増えた。
・・・ユウコって誰。


「ぬいぐるみじゃないー! モコナはモコナ!」
「・・・もこ?」
「ナ!」
「もこな」
「モコナー!」


ぴょーん、と飛び跳ねて、お兄ちゃんの頭に乗った、・・・モコナ、君?
ちょっと呆然として、・・・溜め息。


「・・・じゃあ、半分こで」
「うん」
「モコナも食べるー!」
「君はさっき食べただろう」
「んーん、今侑子が食べてるよ!」
「・・・誰?」


そう呟くと、お兄ちゃんは肩へと降りてきたモコナ君のお腹をじぃっと見詰めた。心なしか表情が硬い。
私も、モコナ君のお腹を見詰めた。・・・まさか、この子の胃の中に住んでる人とか言わないよね。


「ユウコさんってゆーのはね、モコナの飼い主? さんだよー」


・・・いつの間にか、彼ら異世界人の騒ぎは収まっていたらしい。いつの間にか近くに来て、しゃがみこんでいた金髪の人が―――やっぱり、へらっと笑って続ける。


「俺たちが異世界を旅できるのも、侑子さんが貸してくれたモコナのお陰なんだー。すごいでしょ?」
「・・・・・・・・・」
「・・・あれー?」


黙っていると、困った様に笑いながら首を傾げられた。そんなことされても困る。
・・・そんな時、我関せずに勝手にお弁当を広げ、先に卵焼きを食べていたお兄ちゃんが、咀嚼していた卵焼きをこくっと飲み込んだ後で口を開いた。


「この子は人見知りが激しいからね。しかも大人が嫌いだから、恐らく貴方たちとは会話しないんじゃないかな」


そう言って、今度はハンバーグにお箸を伸ばした―――時、「モコナもハンバーグ食べたい!」と言ったモコナ君の口に、小さめに切ったハンバーグをひょいっと入れていた。・・・モコナ君は、今度は丸呑みじゃなくて、ちゃんと「もぐもぐごっくん」と飲み込んでいた。・・・行き先が違うのかな。
私もお箸を取って、ご飯に箸先を伸ばす。・・・そう言えばお兄ちゃん、お箸は無事だったんだね。


「えー、俺お話したいのにー。ねーサクラちゃん」
「はいっ!」
「ひ、姫・・・!」


裏の見えない笑顔を向けられてから、へらっと笑って女の子・・・サクラさん? に問いかけた。サクラさんの方は、単純に私と話がしたいらしく、ぐっと両手を握り締めて頷いて、―――シャオランさんが、おろおろしている。
そんな様子を一瞥、少しだけ顔を顰めて。


「私は話すことなんてない」
「少しくらいいいでしょ? 何で俺たちが異世界から来たって判ったのか、それくらいは教えてよ」
「やだ」
「・・・厳しいなぁ」


困ったように苦笑する彼。・・・明らかに探られている目は、気分がいいものじゃない。
少し顔を顰めて、視線をお弁当に戻すと―――


「・・・怖い?」
「!」


見事に言い当てられて、驚いてサクラさんを見た。
傍にしゃがみこんで、私の顔を覗き込むようにしてくる彼女に戸惑って、何も言い返せなくなる。


「大丈夫だよ、小狼君もファイさんも黒鋼さんも、とても優しい人たちだから!」


ね、と続け―――ふわっと、心が温かくなるような笑顔に、けれど私は、心に皹が入った様にずきりと痛んだ。
・・・『誰か』を彷彿とさせる笑顔に、唇を引き結んで視線を逸らす。


「モコナもいるのー!」
「あ、モコちゃんも勿論可愛いよ!」
「きゃあー!」


そう言ってぎゅうっと抱きしめ合う(?)二人。・・・微笑ましいけれど、どうしよう、どう反応していいか判らなくて俯いた。
こういう、「春」みたいな空気は、苦手だ。―――私は「冬」で、だからこそ、その暖かさに解かされてしまいそうで怖い。
・・・どうしようもなく、泣きそうになった。


「澪、澪!」
「っ!? え、」


可愛らしい声に声をかけられ、びっくりする。
・・・声の発生源は、モコナ君だった。名乗ったつもりはないけれど、と考えて―――お兄ちゃんに呼ばれたっけ、と唇を引き締める。


「侑子がね、お弁当おいしかったって! いま四月一日がお弁当箱洗ってくれて、ついでに御礼のお菓子作ってるからちょっと待って、だって!」
「え、・・・え?」
「巫山戯んな! 『羽根』がねーんだったらこんな世界さっさとっ、」
「じゃ、じゃあもう少し澪ちゃんとお話しても大丈夫っ?」


ぐわっと勢いよく叫んだのは黒鋼さん。けれど、彼の言葉に上乗せする様に、嬉々とした表情でモコナ君に確認を取ったのはサクラさんだった。
きらきらと期待の篭った視線をモコナ君に向けるサクラさんに、小狼さんや・・・えっと、ファイさん? も、黒鋼さんも、唖然としていた。・・・私自身も、唖然。お兄ちゃんも少しびっくりしているみたい。
少し戸惑いながら、サクラさんに返した。


「・・・私なんかと話したって、面白くも何とも・・・」
「ううん、そうじゃないの。私ね、その・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・えと、・・・小狼君たちは、とても優しい人たちなんだよ。私の記憶を、一緒に集めてくれてるの。だから、誤解したままじゃ嫌だって思って」


笑顔でそういうサクラさんをチラッと一瞥、その後で小狼さんを盗み見た。―――少しだけ複雑そうに、切なそうに苦笑している。
それから、サクラさんを宥める様にそっと前に出て、


「姫、いいですよ」
「でも、小狼君・・・」
「少なくとも俺は気にしてないですから、大丈夫です」
「・・・・・・・・・」


困ったように、小狼さんと私を見比べるサクラさん。ね、と小狼さんが笑うと、サクラさんはおずおずと頷こうとして―――


「実は俺ちょっと傷ついてまーす」
「!! 澪ちゃんー!」
「ふ、ファイさんっ」


ちっとも傷ついた風でもなく、へらっと笑ってそう言ったファイさんに、サクラさんはまた私の方に戻ってきた。そのままの勢いでか、ぎゅうっと手を握られてびっくりして肩を竦める。サクラさんの向こうでは、おろおろする小狼さんが見えた。


「澪ちゃん、みんな優しい人たちなの! お願い、信じて!!」
「・・・優しい人なのはわかるよ」
「ふぇ?」


即座に返すと、少し潤んだ目をぱちくりさせたサクラさんが、真正面にいた。
少しの間、その目をじぃっと見詰める。―――首を傾げてから、目じりに浮かんだ涙を、そっと指先で払ってやると、それにびっくりしたのかサクラさんが少しだけ肩を上げた。
慌てたように、今度は両目で目元を擦ったサクラさん。手持ち無沙汰になった手を下ろすと同時、サクラさんはぱっと顔を上げて、


「あの、わかるって、どういうこと?」
「・・・聲が、綺麗だから。―――・・・沢田先輩と似てるの。優しい人の聲」
「こえ? って・・・」
「黒りーん、サワダセンパイって誰?」
「俺が知るか!!」


後ろの漫才はさておき。


「俺たちには聞こえない『声』のことですか? だったら姫も・・・」
「多分違う。私、サクラさんみたいに竜巻とお話なんてできないよ」


首を傾げながら言った小狼さんに、首を振って否を示す。―――と、また驚いたような三対の視線が向けられて・・・身を固めた。


「・・・何故、姫が竜巻と話をしたことを?」
「・・・・・・・・・」


小狼さんに少し硬い声色で聞かれ、唇を引き締める。―――サクラさんと手を握っているからか、私が知らないはずの彼女の記憶が混ざってしまったんだろう。
―――そうだ。私の話は、いつだって「私の記憶」や「知識」じゃなくて。誰もがみんな、今の小狼さんみたいに、探りの混ざった訝しそうな目を向けてきた。・・・どうして、忘れていたんだろう。


「・・・黙っていれば、随分といいご身分だね。この子の事を詮索するなんて」
「あ、―――いえ、俺は別に、そんなつもりは・・・」
「澪は確かに、君たちしか知り得ない事を知っているけど、澪だって知りたくて知ってるわけじゃない。問い詰めるのはどうかと思うよ」


だからこそ私は、他人を拒絶していたのに―――、


「違いますっ! 詮索とかじゃなくて、私、ちゃんと澪ちゃんと『お話し』したいだけです!」
「っ、・・・は?」


・・・え?


「小狼君も、ちょっと不思議に思っただけです! ね、小狼君!」
「え、あ、はいっ!」
「ほら!」


そんな自信満々に言われても、何て言い返せばいいのか判らないんだけど。
・・・でも、―――私とお話したい、か。・・・そんな事を言われたのは、初めてだと思う。
誰もが、私と話をすることを嫌がっていた、のに。


「・・・ありがと、」
「!」


ほんの少し、心の重荷がとれた気がして、そっと微笑んでみると―――サクラさんは一度きょとんとしてから、ぱぁっと大輪の笑顔を咲かせてくれた。直後、奇声を発しながら抱き付いてきたけれど、取り敢えず嫌がるでもなく受け入れてみる(お兄ちゃんが驚いていた)。
―――その時、めきょってなったモコナ君の口から、綺麗に洗われたお兄ちゃんのお弁当箱と、可愛らしい袋に包まれた、まだ少し暖かいカップケーキが飛び出してきた。ちょっとびっくりしたけれど、・・・少し怖いから原理は聞かないでおこう。
ちゃんと食べられるかどうか確認した後で(だってぬいぐるみから飛び出してきたものを、そう易々と口にするなんてできないし・・・)、足元に魔法陣を浮かべて、背に羽根を広げたモコナ君が、みんなを飲み込む直前。


「・・・あの、澪さん」
「?」


申し訳なさそうな顔をした小狼さんが、そっと、頭を下げた。


「・・・さっきは、すみませんでした。不躾に、失礼なことを・・・」
「俺もごめんねー? こういう性格なんだ」
「テメェはそれで本気で謝ってんのか」


その後ろでも、苦笑気味にへらりと謝ったファイさんと、静かに突っ込んだ黒鋼さん。おろおろするサクラさんに構わず、そっと首を横に振って、その言葉の拒否を示した。


「私は大丈夫、です・・・慣れてるから。・・・別に、気にしてない」
「・・・・・・・・・」


答えると、―――判っていたけれど、重苦しい沈黙が返ってくる。小狼さんがちらりと、私の背後に居るお兄ちゃんに視線を向けてから・・・もう一度目を伏せて「ごめんなさい」と言い直していた。


「・・・澪ちゃん!」
「っ、・・・?」
「また会えたら、絶対絶対、遊ぼうね! お話とか、たくさんしよう!」
「!」


なんだかすごい剣幕のサクラさんに気圧されて、こくこく、と何度か頷くと、サクラさんはぱぁっと―――また、笑った。
・・・「ばいばい」、そういって、モコナ君の口に、七色の風と一緒に吸い込まれた彼らと、


「侑子がね、傑にもよろしくって!」
「「は?」」
「お弁当ご馳走様でしたっ」


ぺこり、と頭を下げて呟いた、そのぬいぐるみ―――もとい、モコナ君。
不思議な爆弾を一つ残して、淡い光とともに、消えていった。






















すべてを取り戻す、物語。






■□■□■



別人くさいツバサキャラは突っ込まないでください。

そんなわけで、匿名様リクのツバサクロニクルのパロディでした。ありがとうございました!

…パロじゃないですね、はい。


以下おまけ。
モコナの伝言を、律儀にも「彼」に伝えに行った兄上。






























「・・・ねぇ傑、聞いていいかい」

「ん? なんだ?」

「―――君の知り合いに、ぬいぐるみの腹の中に住んでる人間とか・・・いる?」

「・・・。・・・そうか・・・雲雀。お前、疲れてるんだな・・・」

「ちょっと待て。その憐憫の眼差しは何」

「気にするな。お前はよく頑張ったよ・・・大人にも子供にも怖がられてるけど」

「話を逸らさないでくれるかな」

「って言われてもな・・・じゃあ聞くが、そのぬいぐるみの中に住んでる人間の名前は?」

「名前? 確か・・・ユウコ、って言ってたけど」

「ユウコ? 苗字は?」

「・・・さぁ」

「お前な・・・。ユウコなんて普通に有り触れた名前でわかるわけないだろ・・・」

「でも、ぬいぐるみが『傑によろしく』って言ってたよ」

「喋る無機物に知り合いは居ない」

「・・・・・・・・・。」

「で、何だよそのネタ? 何の本だ?」

「・・・もういい。莫迦らしくなってきた」

「うん?」



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