Survival morning



死活問題が発生しました。











―――窓から差し込む光が、絶望的なくらい眩しかった。


「・・・・・・・・・」


呆然とする頭で、枕元にある目覚まし時計とケータイを、片手ずつ握り締める。
目覚まし時計が指し示している時間は4時を少し過ぎたあたり。タイマーはセットされているけれど・・・秒針は、止まっていた。
次に、ケータイを見る。表示されているのは、実に時計から4時間弱、後の時刻で―――


「―――ち、こく・・・!!」


・・・青褪める頭を、そのままに。
私は、ベッドから勢いよく飛び出した。







Survival morning







その勢いで転がったんだろう、電池が切れた目覚まし時計を思い切り踏んづけてしまい、バランスを崩し、無様に床へと頭突きをお見舞いしてしまった。
痛む頭を抑えて涙目になりながらも、(私が踏んづけた所為か)電池の蓋が外れて中の電池が飛び出した時計を力強く睨み付けると、


「・・・っ」


ぷいっとそっぽ向いて、クローゼットを荒々しく開けた。
セーラー服を一着取り出して素早く着替え、既に準備できている鞄を握り締めて(昨日のうちに準備しておいて本当によかった!)足音を気にせず階段を駆け下りた。
いつもは粗相悪くするとお兄ちゃんから注意を受けるけど、今はお兄ちゃんは居ない。それよりも遅刻した方がお兄ちゃんに怒られる。だから、今だけは多少粗相が悪くても大目に見てほしい。


「(朝ごはんの暇なんてない。トイレも行きたいけど学校でいいや)」


鞄を足元に置き、素早く顔を洗いながらそんな事を考えて、続いて歯磨き。それも手早く済ませてからブラシを握り締めて少しだけ髪を梳いて。その程度で毛先がひょこっと跳ねた寝癖が直るわけはないけど、もうドライヤーとか使う暇さえない。適当に梳いたら鞄を握り締め、玄関へと駆けた。
身嗜みより、お兄ちゃんに怒られるほうが嫌だ。―――つくづく私は、お兄ちゃんを中心に考えているな、と現実逃避気味に自嘲。


「あ・・・!」


・・・なんて事考えているから、ケータイ忘れるんだよ!
履きかけた靴をもう一度脱いで、ばたばたと階段を駆け上がって自分の部屋に行き、ケータイを鷲掴んで再度階段を駆け下りる。玄関まで行くと、靴が片足だけ少し遠くでひっくり返っていた。・・・自分の所為だけど、少しイラッとした。
しっかり靴を履いてから勢いよく飛び出す。扉はオートロックするものだから(お兄ちゃんの希望でいつの間にか改造されてた)、勝手に鍵は閉まる。鍵はちゃんと持って、


「・・・ない!」


持ってない、そうだ、昨日学校終わってから買い物行って、そのときの服の上着ポケットの中のままだ!


「あ、わ、腕章も・・・!」


腕章もつけるの忘れた・・・。でも、鍵も腕章も取りに行く暇はあるだろうか―――いや、ないだろうな。
そう、鍵なんてお兄ちゃんも持ってるし、もし持ってなくても裏口からでも入ればいい、少し面倒だけど。腕章なら学校に予備がいくつかあったからそれでいい。
道の真ん中で一瞬立ち止まって振り返った私は、そう自己完結して学校方面へ向き直る、と同時に思い切り駆け出した。足音を消す余裕もなく、ばたばたと大きな音を立てて全力疾走。
―――なんか情けなくなって、走りながらも自己嫌悪・・・じゃなくて、自己嫌悪する前にやらなきゃいけないことがあった。


「兎に角、お兄ちゃんに連絡・・・っ」


ケータイを落とさないように持って、操作してお兄ちゃんへと電話する。数回のコールの後、不思議そうな声が聞こえた。


『澪、何やってるの。後5分で―――』
「つ、ついさっき起きて・・・寝坊して・・・今、走って学校に・・・!」
『―――・・・は?』
「(う!)」


低い声に、身を竦ませた。


『何、澪。まさか遅刻するとか言う気じゃないだろうね』
「違う、でも、間に合うか判らなくて―――」
『正当な理由のない遅刻は不許可だよ。それは知ってるだろう』
「知ってる、けど!」
『じゃあ頑張って定時内に正門を潜ってよ』
「・・・ぅ・・・お兄ちゃん、」
『そんな声出してもダメ。遅刻したら処罰の対象、それは澪も例外じゃない。他の生徒に示しつかないからね』


泣きたくなった。
続いた「流石に殴りはしないから安心して」なんて言葉に、まったく全然これっぽっちも安心できるわけがない。お兄ちゃんの場合、いつもは暴力で片付けるから逆に怖い。というか、他の生徒に示しつくようにしたいなら私も殴らなきゃダメだよお兄ちゃん。


『それじゃあ、楽しみに待ってるよ。頑張ってね、澪』
「ひ、ひどいよ!」
『仕方ないよ、澪を苛めるの楽しくてしょうがないからね』


くす。なんて、ケータイ越しに笑われた。なんかムカついたから一方的に通話を切ってやった。
直後、


「にぎゃあー!?」
「ッ!? あっ、ご、ごめん・・・!」


直ぐ足元から上がった猫の悲鳴に肩を竦めた。どうやら私は、道路の隅っこで丸くなってたらしい猫の尻尾を踏んづけてしまった様だ。何でこんな漫画みたいな事しなきゃいけないんだと思いつつ、崩れかけたバランスを持ち直しながら肩越しに振り返り、猫相手に謝罪する。
首輪はつけてなかったから野良猫か。飼い主に慰謝料請求される事はないだろうけど、後で何か餌持って行ってあげよう。


「うわ、あと、2分・・・!」


ケータイを落とさないように持って、確認。顔を顰めてまた前を見据えた。
―――そのとき、ちり、と頭に入ってきた聲と察知した気配に、急停止して、


「っ、」
「え、うわぁ!?」


・・・横の細い道から飛び出してきたのは、沢田先輩だった。
気付いた私は寸前で止まる事ができたけど、沢田先輩は逆に私に気付かなかったらしい。突然飛び出してきた私に驚いて、同時に避けようとしたのか、体を捻ったのが判った。けれどその所為で、ぶつかってもいないのにバランスを崩して地面に倒れこんでしまう。
―――それすら構っていられなくて、


「ご、ごめんなさい、沢田先輩っ!」
「ぅえ!?」


先輩を避けて更に走って。
もう一つ曲がり角を曲がると、もう学校の正門の正面の道に出る。ケータイで時間を確認することすら惜しくて、全力で走った。こういうとき腕時計って着けるべきって思う。・・・私の場合武器が取り出せにくくなるからつけないんだけど。


「・・・うぅ・・・お、おなか痛い・・・っ」


走ったときに起こる、独特のアレ。でも、どんなに脇腹が痛くても、減速は勿論、止まる暇なんてない。
あぁ、そういえば最近全力疾走してないな。体育もよくサボってるし・・・ちょっと、体力落ちたかもしれない。前はもう少し全力で走れる時間が長かったような・・・暇なときにでも筋トレでもするかな。勿論お兄ちゃんの目がないところで。
もし見られたら、お兄ちゃんのことだから面白半分に無茶な筋トレメニュー押し付けてくる。それで断れずに四苦八苦する私を、きっと面白そうに眺めるんだ―――あぁ、想像したらまたイライラしてきた。
絶対遅刻してやらない・・・!


「(よし、後は直進!)」


曲がり角を曲がって、全力疾走。その他数名、同じく走っている生徒が居るけど、私に驚いてる彼らにかまわず走る。
一瞬、校門のところに立ってるお兄ちゃんと目が合った。楽しそうに笑ってる目に更にムカついた。着いたら絶対文句言ってやる!―――という怒涛の勢いで走りぬき(途中数人の生徒とぶつかってしまったけれど相手を確認しないまま「ごめんなさい」と謝っただけだった)、そして。

キーンコーンカーンコーン・・・

「っは、はぁ、はぁ・・・!(せ、せーふ・・・!)」


校門に駆け込んでホッと息を吐き出した直後、頭上に降り注いだ鐘の音に時計を見上げて―――へなへなとへたり込んだ。
ぜぇ、ぜぇ、と肩呼吸。額に滲んだ汗は冷や汗なのか、それとも全力疾走したせいなのか・・・恐らく前者だ(だってお兄ちゃんが怒ると本当に怖いんだよ!)。ぐい、と袖口で拭うとグラウンドの土のにおいがした。あぁコレが俗に言う青春ってやつかなぁなんてやけくそ気味に胸中呟き、


「ワォ。ちゃんと間に合ったね」


やっぱり面白そうにかけられた声に、拳をきつく握り締めて。


「お兄ちゃん・・・!」
「寝坊したのは澪だよ」
「そっ、そうだけど・・・! そもそも、私が遅いって気付いてたなら電話くらい、」
「やだよ面倒くさい」
「うぅ・・・!」


キッ、と睨み付ける様に見上げても、効果なし。・・・判りきった事だけどね。でもその無駄に楽しそうな笑顔止めてほしいな、いい加減腹立つよ。


「ちゃんと目覚ましセットしたけど、時計が止まってたんだよ。朝だって気付かずに寝てたのは私だけど、時計の電池切れたのはわざとじゃないんだから、一日くらいの遅刻は免除したって・・・! 一般生徒だって、遅刻日数一日目だったら厳戒注意だけでしょ。別に、」
「ねぇ澪、」


遮って聞こえたのは、お兄ちゃんの静かな声で。
思わず口を閉ざすと、お兄ちゃんが目の前でしゃがみ込み、私に視線を合わせた。やっぱり、何だか楽しそうな笑顔で―――でも目は怒っているように細められていて、思わずびくりと肩を竦める。
そして、お兄ちゃんはそのまま、


「昨日の夜、随分遅くまで部屋の明かりついてたように見えたけど。―――寝たの、何時ごろだい?」


・・・・・・・・・。
バレてた?


「・・・に―――2時、過ぎ・・・です・・・」
「ちなみに何してたの」
「・・・本、読んでて・・・」
「ふぅん・・・(まぁいいか、)じゃあ、澪が寝坊したのは時計の所為? それとも、僕が電話しなかった所為かな」
「・・・私の、自業自得・・・です・・・」
「―――うん、いい子」


ぽん、と撫でてくれた手に項垂れた。・・・詰まるところ、私は、お兄ちゃんに反論とか反抗とか、そういう術をそもそも知らないんだろう。
・・・でもコレだけは言わせてほしい。


「お兄ちゃんの莫迦・・・」
「澪。何か聞こえたけどはっきり言ってごらん」
「! ご、ごめんなさい・・・っ」


「委員長にばかって言ったぞ、ばかって!」「流石澪さん・・・!」なんてその他風紀委員の尊敬の眼差しなんていらない。確かに私だから言えるものかもしれないけど、みんなだって言えない事もないんだ―――言った後に殺されるか怒られるだけかの違いだけで。


「・・・それにしても澪、本当に随分と急いでたんだね」
「?」
「髪、寝癖ついたままじゃないか。風紀の腕章も付け忘れてるし、スカーフもない」


え、―――スカーフ?
思わず目を瞬かせて、慌てて胸元を見下ろした。・・・確かに、セーラー服の襟の下にあるはずの赤いスカーフが見当たらない。腕章は最初から忘れてたけど、スカーフはちゃんとつけてきたはずなのに。


「あ、れ・・・? 落としたのかな」
「どっちも?」
「ううん、腕章は最初から忘れちゃって・・・でも、スカーフはちゃんとつけてきたはずなのに」


一生懸命走りすぎて、道すがら落としてしまったのかもしれない。腕章は予備があるからいいとして、スカーフは頼まないと来ないよね、きっと・・・。
はぁ、と肩を落とす。くすくすという笑い声が聞こえて、「笑わないでよ」と落ち込んだ声で呟くと、苦笑しながらごめんと謝られ、


「後で、新しいの買ってあげる」


その裏で「(何だか可愛くて、つい笑ってしまうんだよ)」という聲も聞こえて、口元を引き攣らせた。
かわ、いい。とか・・・どこが可愛いのかわからないし不意打ち発言は止めてほしいな、と思いながら小さく呻き、少し熱くなったほっぺたを無視して視線を泳がせる。
と、


「委員長、本日の遅刻者リストが上がりました」
「うん」


草壁先輩の声に立ち上がるお兄ちゃん―――と、ついでに私も手を掴まれて、一緒に立たされる。「いつまでも座ったままじゃだらしないよ」と言う聲に納得して、自分の足でしっかりと立ち、膝やスカートについたグラウンドの砂を払った。
隣では、お兄ちゃんが草壁先輩から一枚の紙を受け取っていて。砂を払い終わった後、全力で走って少し着崩れたセーラー服を調えながら、私もそれを横から一瞥。
・・・一番に目に入ってきた名前に、目を見張った。
慌てて顔を上げて、風紀委員に囲まれている数名の遅刻者を見やる。・・・その中に、諦めた表情で項垂れるススキ色の頭を見て、申し訳なさに顔を顰めた。
静かに唇を引き結んで、少しだけ考える。そうした後、お兄ちゃんの袖を控えめに握り締めて、軽く引っ張った。
無言で向けられた視線に、おずおずと唇を開く。


「お兄ちゃん、―――沢田先輩は、遅刻免除できないかな」
「・・・何で?」


む、と少し不機嫌になりながら返ってきたそれに、首を傾げながら。


「途中、ぶつかりそうになって。私は大丈夫だったけど、沢田先輩は転んじゃって・・・先輩が遅刻したの、きっとその所為だよ」
「それで免除しろって言うのかい。ぶつかってはいないんだろう、それで転ぶ方が悪いよ」
「でも・・・」
「それに、その証拠とかあるの。見知った人物だからって状況捏造は考え物だね」
「たかが遅刻に証拠って・・・」
「・・・澪?」


うんざりとしていると名前を呼ばれて、びくり、と体を竦めた。
見上げると、じとりと見下ろしてくる目に肩を竦める。慌てて「ごめんなさい」と謝ると、お兄ちゃんは小さく溜め息を吐き出して―――私は、思わず顔を顰めた。
本当のことなのに。信じてくれたっていいじゃないか。


「―――澪さん、」
「?」


項垂れていると、後ろから声がかけられて振り返った。
同時―――その、名も知らない風紀委員の手に握られているものに、私もお兄ちゃんも驚きに目を見開いて、


「2-Aの沢田綱吉からです。貴女が落としていったものだから渡してほしい、と・・・」


呆然としながら受け取ると、その風紀委員は一礼して去って行って。


「・・・お、お兄ちゃん、証拠!」
「・・・・・・・・・」
「ね!」


ハッとした私は、苦虫を噛み潰したような表情をしているお兄ちゃんの前に、それ―――赤いスカーフを広げた。
きっと、ぶつかりそうになったときに落ちてしまったんだ。それを、沢田先輩が拾ってくれたんだ!


「・・・わかったよ」
「!」


しぶしぶ、と言う風に肩を下げたお兄ちゃんに、それでも認めてくれたことが嬉しくて、思わず頬が緩んだ。
急いで遅刻者集団のところに向かい、先輩の姿を見つける。彼らを囲む風紀委員の間をすり抜け、「あれ?」なんて戸惑う先輩にかまわず、その袖を握り締めて学校側へと引っ張り、


「ちょ、澪ちゃんっ? 一体どうし―――」
「お兄ちゃんに言って、先輩は遅刻免除してもらったよ」
「えぇっ!?」


ぎょっとした彼に、微笑んだ。


「先輩、途中で私とぶつかりそうになったでしょう。その所為で転んで遅刻しちゃったんだよって言ったら、何とか納得してくれたの」
「ヒバリさんが?」
「うん。スカーフもありがとう、お陰で先輩の濡れ衣晴らせたよ」
「(濡れ衣?)あ、え、うん・・・どういたしまして?」


戸惑いながらの言葉が可笑しくて、変なの、と思わず小さく呟いて、


「ちょ、待てよ!」


その言葉に、その他遅刻者たちを振り返る。


「お、俺もお前とぶつかっただろ!」
「・・・俺もぶつかったぜ」
「あたしもー」


数名の、気の強そうな男女が不服そうにそう言う。
確かに、沢田先輩以外にも何人かの生徒にぶつかった気がする。それは否定できないけど、でも―――と、その進み出た生徒を何の気なしに一瞥してから、一度沢田先輩を見上げて、もう一度彼らを見る。
・・・うん。


「沢田先輩以外覚えてないよ」


事実をさらりと言い放ち、呆然とするその場を放って沢田先輩を引っ張って、来たときと同じように風紀委員の横をすり抜けた。


「・・・確認するけどさ、澪て一応無自覚だよね」
「?」


沢田先輩の袖を握り締めて引っ張りつつ、お兄ちゃんの方に歩み寄ると―――私たちのやり取りを見ていたんだろう、お兄ちゃんが何とも言えない表情で沢田先輩を見詰めていて、私も先輩を見たら何だか赤い顔して俯いていた。


「・・・先輩、どうしたの」
「き、気にしないで。俺が勝手に意味もなく自惚れてるだけだから」
「?(意味がよく判らない)」


首を傾げる。・・・あ、そういえば袖掴んだままだっけ、と今更ながらに気付いて手を離した。
直後、


「沢田綱吉、咬み殺しはしないから一発だけ殴らせて」
「えぇー!? ち、遅刻は免除なんじゃないですか!?」
「なんかむしゃくしゃする」


ちゃき、とトンファー構えたお兄ちゃんに、慌ててその手を両手で握り締めると―――むすっとしたままではあるけれど、先輩に殴りかかるような気配は消えたから、一安心。


「・・・そ、そういえば、澪ちゃんは大丈夫だったんだよね」
「?」
「その、遅刻」


お兄ちゃんを気にしつつの沢田先輩の言葉に、あぁ、と納得。無言で頷き返すと―――安心した様に笑って、「よかったぁ」、なんて言うから、すごくびっくりした。

―――やっぱり、沢田先輩は、すごい。
普通、自分が遅刻しそうなのに、他人の落し物を拾っていこうなんて考える人はいない。まして、その人の所為で転んでしまったりなんかしたら、余計に。例えそれが、知り合いだとしても。
しかも、私はちゃんと、遅刻せずに登校できていて。けど沢田先輩は遅刻扱いされて。それなのに、文句の一つも言わないで(・・・寧ろ諦めてたね、それもどうかと思うけど)。それどころか、「遅刻しなくてよかった」なんて言って、へにゃっと笑って。


「(・・・あたたかい、なぁ)」


ぽう、と心に明かりが灯される感じ。暖かくて柔らかい毛布に、ゆっくりとふんわりとくるまれるイメージ。


「(・・・やさしい。)」


じ、と沢田先輩の目を見詰め返して―――笑う。
先輩は、何も返さない私に、不思議そうに首を傾げるだけだった。






* * * *






「委員長大丈夫ですか」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・体調は悪くないよ」


いえそういう意味ではなく。
と続ける勇気は草壁にはなく、トンファーがみしみしと悲鳴を上げるほど強く握られた彼の手元をそっと一瞥した。
―――それから、背後の少し離れたところで小さく会話する、目の前にあらせられる最強の不良こと雲雀恭弥の妹君と、運動も勉強も全部がダメダメな通称ダメツナを見やる。彼らは無自覚だろうが、その周囲に小さい花が舞っている様に見えなくもないし、空気もうっすらピンクい気がしないでもなかった。
つまり、まぁ・・・うん、詳しくは知らないが多分きっとそういうことなんだろう。当事者がそれを自覚しているのか否かまでは、自分が首を突っ込む事ではない。そう胸中で納得させてから、草壁は改めて前を見据えて。


「悪いけど今物凄く世界の構造みたいなものに苛立ってるんだ、死にたい奴からかかっておいで」
「「「ヒィ!?」」」


残酷なまでに奇麗な笑みを浮かべて殺気満々で言い放った雲雀に、肩を落とした。・・・二人のやり取りを見るのは腹立たしいけど、妹の幸せそうな(楽しそうな?)表情を見ると何もできない、と言った所か。
―――さて。


「(澪さんがこちらの状況に気付いたころには地獄絵図か・・・)」


雲雀恭弥が何もできないのであれば、自分たちは尚更。
・・・かの妹君、もしくは沢田綱吉が、こちらの状況に気付いてくれるまでは、何も。

最強の不良、雲雀恭弥。時代がいくら移ろうとも、彼を『本当の意味で』止められる人物はきっと、今も昔もこれからも、彼のたった一人の妹だけだろう―――例え彼女が『誰かのもの』になってしまっても、それだけは唯一絶対、変わらないはずだ。
例えば彼女が今回のように風紀を乱してしまおうとも、それは彼女の本意ではないことは彼とて理解しているし、彼女も、今回のような不測の事態でも起きない限りは、自ら進んで風紀を乱しはしない。
いろんな部分が正反対で、いろんな部分が似ている。それでもって、きっとお互いが世界で一番大切な存在なんだ。
コインやカードの裏と表、そんな風に表現するには少々稚拙なような気もするが。
・・・そこまで考えて、草壁は思考を断ち切った。


「(せめて、死人が出る前に気付いてくださることを祈ろう)」


そもそもが愚問なのだ。
自分の仕事は彼らに付き従う事。彼らを一言で説明しうる代名詞を探す事ではないのだから。






















彼の一番は、何時だって彼女!





■□■□■



お待たせしました、妃埜さんリクの「現代で空悪兄妹(←)ツナ」です、妃埜さんリクエストありがとうございました!


…何を思ったのか、夢主の遅刻ネタ。世間の恋愛フラグ王道その1、ですが、それも我が子にとっては死亡フラグに早代わりする模様。兄上が雲雀さんなら致し方ありません。

ちなみに、アレってスカーフであってますか? もしかしてリボンなんですか?



以下、おまけ。

地獄絵図に気付いた妹ちゃん。




















「・・・って、お兄ちゃん待って、な、何してるの!」

「殺してんの。」

「(殺・・・!?)ダメだってば! なんか何時も以上に原形留めてないよ・・・!」

「仕方ないよ。イライラしてるからね」

「そ・・・っ」




ぐぅー。




「・・・」

「・・・」

「・・・」

「ぇと・・・朝ごはん、食べる時間、なくて」

「・・・草壁、その辺で何か軽食でも買ってきて」

「了解しました」

「応接室行こう、澪」

「うん・・・」

「「「(((どうしてこうなった!?)))」」」






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