ゼロ-1



とある休日。


「つっくん、ちょっとお使いお願いしてもいいかしら?」
「お使いって・・・また何か足りなくなったの? この前は醤油だったけど」
「そうなのよ。今日はケチャップとソースと・・・あ、あとパン粉も!」
「・・・まぁいっか。丁度欲しい漫画あったし」
「お願いね!」


―――なんて、母さんに笑顔で見送られたものの。
某凶暴犬に見付かって追い掛け回された挙句、財布を落とし、財布も中身も無事な状態で見付けたはいいけど―――スーパーに付いた頃には、既に一時間以上経過していた。
一時間あれば、何も無ければもう買い物も済んで家に着いたか着いてないか、くらいだろうに。


「はぁあー・・・」


重い溜め息をつきながら調味料が並ぶスペースに向かう。整然と並んだ調味料たちを目の前に―――えーっと。ケチャップとソースと、パン粉、だっけ。今日の夕飯は何なんだ、一体。パン粉を使うなら揚げ物かな? エビフライとか?
そんなことを考えながら、沢山並ぶ様々なケチャップを前に、どれがいいか判らずに首を傾げる。っていうかこのデッカイ缶は・・・これもケチャップ? 業務用なのかな。書いてある文字が日本語じゃないってことは、輸入品? 物珍しさに手にとってひっくり返し、ラベルを見てみると・・・あ、やっぱりケチャップなんだ。
ケチャップって言ってもいろんなのがあるんだな。・・・いや、醤油だってピンからキリまであるんだけど。
なんて考えながら適当にケチャップを選んでいると、同じ調味料のスペースにいた二人組の話し声が聞こえてくる。


「塩と砂糖くらいなのに・・・なんでついてくるかな」
「重いだろう」
「だから、重いのはその二つだけだってば。そこまで軟弱なつもりは無いもん」


最初にチラッと見ただけだけど、多分、俺と同じくらいの男女。キョウダイなのかカップルなのかはわからないけど、特に気にせずケチャップを一つ手にとってみる。


「だから、軟弱とかそういう意味じゃなくて・・・僕が手伝うって言ってるのに、何で突っぱねるかな」
「女の子扱いされてるみたいで嫌。気持ち悪い」
「別にそんなつもりは無いけど。あと気持ち悪いって何」
「兎に角っ、荷物持ちなんてしないでいいよ。いつもしてないくせに」
「・・・今日はやけに棘が多いね」
「う・・・」


会話からしてキョウダイか。何て頭の隅っこで考えながら、目の前のケチャップを吟味する―――前まで家にあったケチャップって、これだったっけ・・・? ・・・ダメだ、覚えてない。あ、こっちだっけ?
うっすらと覚えている我が家のケチャップを思い浮かべてみるも、曖昧で。・・・何でもいいんだろうか。どれも同じかな?


「・・・お兄ちゃんがスーパーの袋とか持ってる姿見たくないのっ」
「・・・・・・・・・。何それ?」
「あと、ティッシュとかトイレットペーパーとかも持ってほしくない。イメージ崩れる。壊れる」
「・・・よくわからないんだけど。今私服だからイメージも何も・・・」
「違う、私服のお兄ちゃんにこそ持って欲しくないの」
「だから、どういう意味?」


どんだけお兄さん大好きなんだ、この妹さんは。
って考えた瞬間、脳裏を某風紀委員長とその妹の姿が横切り、ケチャップを棚に返そうとした手を止める。いや待てよ俺ありえないアリエナイ、暗示を掛けるように胸中繰り返してゆっくりと二人組みの方へと視線を向ければ。


「学ランのお兄ちゃんなら持ってもいいよ、って言う意味」
「ねぇ澪、それ説明になってないよ」
「恐怖の風紀委員長サマがトイレットペーパー持ってる姿にギョッとする一般の人たち、見ていてすごく愉快なんだ」
「・・・それ、僕は不愉快になるよね」
「そうだね」
「怒るよ澪」
「こんな間抜けな事で怒られたって怖くないよ」
「・・・・・・・・・」


いい意味でも悪い意味でも見慣れてしまった、雲雀兄妹。くすくす笑う澪ちゃんにムッと唇を曲げたヒバリさん―――に、動く事もできず。
笑みが止まった澪ちゃんと、ぱちりと目が合って。


「あ・・・」
「?」


きょとんと呟いた彼女に、ヒバリさんも澪ちゃんの視線を追って俺を視界に入れる。
かちん。今度こそ体が固まった俺を見て、一度目を瞬かせたヒバリさんは―――軽く口角を吊り上げて笑い、俺を見たまま澪ちゃんに確認した。


「・・・ねぇ、澪。話を戻すけど」
「え、うん?」
「僕には荷物、持って欲しく無いんだよね?」


・・・。
俺、荷物持ち決定。









±ゼロと言う事で。






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