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《 Side:黒 》










Nero


名前を呼ばれた気がして、振り返ると。
つい先程、「夜」に飛ばされて未来に行っていたらしい「雲」が、真っ直ぐ俺を見詰めていた。


「・・・・・・・・・」


薄暗い中、光を失わないふわふわさらさらの髪が、俺は好きだ。
一度触ってみたいけど、彼は絶対触らせてくれないし。触りたいと言っても、そもそも言葉が通じないから妙な目で見られるだけ。だからと言って、髪を触りたいがために「夜」に通訳を頼むのも申し訳ないし、何だか気恥ずかしくて。
そっと首を傾げて薄く微笑み、『なに?』と聞いてみる。すると「雲」は、澄んだ氷の様な目を細めて。


「君に良く似た人間に逢ったよ」
「・・・・・・・・・」
「あれは、『君』かい?」


驚いた。
彼はてっきり、俺との意思疎通を諦めているものだと思っていた。唯一のコミュニケーションが身振り手振りなんて、「雲」の性格上ありえないんだろう、と思う。「雲」は「夜」を苦手としているらしいから、他の守護者たちの様に通訳にと「夜」を引っ張ってくる事もない。
「雲」だって、知ってるだろうに。守護者たちがそうしているのを知っているだろうに。彼はそうしない―――彼は、彼女が嫌いだから。


「その人間は、日本語を喋っていた」
「・・・」


そんなことを考えながら、思う。
―――彼が、こんなにも俺に向かって話しかけてくれているのに―――こんなにも、彼が俺に言葉を投げかけてくれたことなんて、今まで一度もなかったのに。
俺は、その言葉を一つも受け止められなくて。


「・・・―――、・・・」


無表情で、感情の浮き沈みが読み取りにくい眼差しで、身振り手振りもなく、ただ静かに耳に入っては理解できずに通り抜ける言葉に。悲しくて悔しくて、苦しくて。喘ぐように苦笑する。
そうして、小さく『君の言葉がわからないよ』と呟けば。


「・・・そうだね。君は、そう言うやつだった」


彼は何事か呟いて、俺から視線を逸らした。




























「お前は、であることを受け入れた」

「澄み渡るも、鳴り響くも、降り注ぐも、視界を隠すも、漂うも、吹き荒ぶも―――みんなを、受け入れた」

「そして、こんな俺の事も―――更には、全てを闇で包む夜ですら受け入れた」

「―――だからこそ。ご免な・・・お前はそうでも、俺は」


澄み渡る蒼穹に、微笑みかける。


「絶対に、受け入れはしない。たった一人になったとしても―――」


最後まで、抗う道を選ぶよ。
そう呟き―――笑顔で、蒼穹を睨み付けた。







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