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《 9 》











訝しそうにしながらも、一応電子音に応えたらしいアラウディさん。
ロールを捕まえつつ、お兄ちゃんの袖を引っ張って攻撃しないようにしながら、私は首を傾げた。


「・・・なんで、アラウディさんの通信機が使えるんだろう」
「―――ねぇ澪ちゃん、さっきから思ってたんだけど、あの外人と知り合いなの?」
「アラウディさん? ・・・知り合い、なのかな・・・」
「え?」
「あの人、初代『雲』だよ」
「えぇ!?」


そう考えると、今この瞬間、本物の雲のリングが二つ存在していることになる。何だか不思議だ。
けれどそれに納得しなかったのか、獄寺先輩が思いっきり顔を顰めた。


「何寝惚けた事言ってやがる、ンなわけねーだろーが」
「でも」
「例え本人だとしても、あんな若ェ姿でここに居るわけねぇ」
「知らないよそんなの。未来旅行でもしに来たんでしょう」
「「未来旅行!?」」
「おっ、すげーなそれ! タイムマシンか!?」
「(なんか目すごくキラキラしてる)・・・ごめんなさい、山本先輩。期待を裏切るようだけど、初代夜空がそういうのできるらしくて」
「あ、そか。成る程なー」


そこで納得するあたり山本先輩らしい。沢田先輩も獄寺先輩も私の「未来旅行」発言にびっくりして目を丸くしてたけど、山本先輩に「それで納得するのか」とでも言いたげな目をしていた。
私はそんなことよりも、いい加減お兄ちゃんがイライラしすぎて怖かった。・・・けど私がお兄ちゃん放置したらどうなるんだろう。アラウディさんは大丈夫だろうけど、逆に先輩たちが妙なとばっちりを受けそうだ。何時もの如く。


「・・・何、それ」


低い声が聞こえて、アラウディさんの方を見上げた。
―――見る見るうちに彼の纏う空気が強張っていく。無表情のまま、空気だけがどんどん硬く冷たくなっていくのを肌で感じ取り、私は少しだけ怖くなった。
引き攣った呼吸をすると、冷えた空気が肺を満たしていく。お兄ちゃんの袖を握る理由が、「お兄ちゃんを抑えるため」じゃなく「お兄ちゃんに縋るため」に代わった。
お兄ちゃんに半分隠れるように寄り添い―――そして。


「・・・わかったよ。仕方ない」


低い声で呟いたアラウディさん。それから通信を切ったのか、ふぅと小さな溜め息を吐き出して―――。
私を、睨むように見詰めてきた。


「・・・!」
「・・・・・・・・・」


びくり。肩が震えたけれど、お兄ちゃんから更にイライラした空気が増幅。お兄ちゃんがそんなんだからだろうか、ロールもムッとした様に顔を顰めて「クプ〜・・・!」と威嚇らしき事をし出した。可愛いけどどうしよう、アラウディさんも怖いしお兄ちゃんも怖いしで何も出来ない。


「ねぇ『夜空』」
「っ、・・・?」
「君は、澪って言うんだね」


不機嫌そうな声に、それでいて予想もしない言葉に、慌ててアラウディさんを見上げれば。
彼は私を睨み付けたまま―――違う、私を通して誰かを睨み付けたまま。


「僕らの『夜』が、澪ならよかったのに」


憎々しげに、独り言に近い言葉を呟いて。深い溜め息を、一つ。
―――パシュリ。不意に、そんな軽い音が聞こえたと思えば、


「・・・あれ?」


そこに、彼の姿は既になかった。






























「―――澪。」

「っ、・・・お兄ちゃん?」

「・・・八つ当たりしていい?」

「!?」







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