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《 6 》










「―――というわけなんだ。同じ『夜』として、君は如何思う?」
「・・・仲、悪かったんですね」
「うん。最高に悪かったね」


この人は、初代『雲』らしい。名前はアラウディ。・・・さん。
私を攫ったのは、現代のボンゴレファミリーに「喧嘩を売る」ため。理由は、初代『夜空』にそう言われたから。指示されるのは不本意らしいけど、この状況から推測するに。


「『高値の喧嘩』を売らないと帰れないってこと、ですか・・・」
「それが条件らしいからね」
「条件?」
「彼女が設定した時空転移(タイムトリップ)の自動発動条件」
「・・・・・・・・・」
「そういう事だから。君に―――」


過去の人間であるこの人から、近未来な言葉が出てきた気がする。
時空転移。しかも条件付きで自動的に発動する、とか。如何しよう笑えない・・・と言うよりも、何も言わない方がいいんだろう。無駄に疲れるだけなのは目に見えている、深く考えず受け入れよう。
・・・あ、今ランボ君の十年バズーカの事思い出した。確かあの時も理屈を飲み込んで無理矢理に理解したんだっけ・・・。


「―――・・・ねぇ、聞いてるの」
「っう、ぇ・・・!?」


思い出を遠目で振り返っていたら、アラウディさんに顔を覗き込まれてギョッとする。
さらりと揺れた白金の髪、蒼氷色の目。お兄ちゃんに似ている容姿は、とても奇麗で―――


「逃げるな」
「っ、や、おおおろ、下ろし・・・っ!!」


顔が熱くなっていくのがわかって咄嗟に距離を取る―――いや、取ろうとしたけど、その前に首根っこを捕まれて猫の様にひょいと持ち上げられた。
上から被るタイプのセーラー服、首根っこを捕まれた状態で両手挙げたら明らかに脱ぐような格好になってしまう。首根っこを掴む手を外そうと頑張るのは早々に諦めた。
そんな私を欠片も気にすることなく(ちょっとは気にしてほしい・・・)、アラウディさんは私を真っ直ぐ見詰めたまま続ける。


「聞いてなかったね。もう一度言ってあげようか」
「その前に降ろしてください」
「喧嘩売らなきゃ帰れないんだ。君は人質役」
「・・・人質、役・・・」
「・・・不満そうだね?」
「当然です」


何処か楽しそうなその目を、顔を顰めて見返して。目で訴えれば、アラウディさんはくつりと小さく笑って私を下ろしてくれた。
ホッと息を吐きながら服を直していると―――しゃらん。私の手元で、無骨なはずの鎖が思いの他奇麗な音を立てる。


「たかが『役』なら、こんなのつけなくても・・・」
「ダメだよ」


一刀両断。
すっぱりした断りにぐっと詰まれば、アラウディさんは―――酷く楽しそうな笑みを浮かべた。


「ただ何もしないで僕の傍に居られるよりは、手錠の一つでもしていた方が“らしい”だろう」
「そんな・・・」
「その方が、喧嘩も高くなる」


確かに、そうだけど。
込み上げてくる思いに耐える様に、自らの手首に視線を落とす。手錠をされた直後こそ無理に外そうとしたからか、お陰で私の手首は少しだけ赤くなってしまっている。一部の皮膚が軽く剥離してしまっているけど、早々に諦めたからか、血が滲むほどじゃない。
困り果てて見下ろしていれば―――不意に「ねぇ、」とかけられる声。


「・・・あまり、そういう顔をしないで。苛めたくなるんだ」
「―――は?」


もう一度笑ったアラウディさんの言葉に、素っ頓狂な声を上げた。
見上げると、やっぱり楽しそうに笑うアラウディさんに―――背筋を冷たい指先で撫ぜられた様な感覚を覚えて、肩を跳ね上げる。


「ねぇ、『夜空』。」
「っ・・・は、ぃ」


笑っているアラウディさん。アイスブルーの目も、見惚れるくらい奇麗な笑みを刻んで。
・・・奇麗過ぎるから、こそ。


「例えば―――君の顔とか。思い切り殴れば、もっと、高くつくかな」


紡がれた言葉が、すごく、怖かった。






































「・・・・・・、・・・」

「・・・・・・・・・」

「・・・っ・・・・・・」

「・・・嘘だよ。無害な子供を殴る趣味はない」

「―――、・・・〜〜〜ッ・・・」

「・・・そんなに怖かった?」

「・・・っ!」

「・・・(やりすぎたかな・・・)」







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