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《 4 》










三崎先生は、職員室には居なかった。その他、いそうなところも行ってみたけど居なかった。念のため1-B教室にも行ってみたけど、まだ昼休み中だし、当然不在。―――他には見当も付かない。
取り敢えず、こうしてその辺を何となく歩いているわけで。


「何処に居るんだろう、三崎先生・・・」
「居そうなところは全部回っちまったしな」
「まさかアイツ、俺たちが十陰を探してるの知っててワザと出てこないんじゃ・・・」
「そんな・・・」


リボーンは何か考え込んでるのか、山本の肩に座ったまま何も言わない。ちょっと雰囲気が硬いような気がするのは、やっぱりコイツも攫われたらしい澪ちゃんのことが心配だからだろうか。
と思っていた直後。

ドバァン!

「ぅえ!?」
「おっ?」
「な!?」


俺たちが歩く少し先にある空き教室の扉が、吹き飛んだ。
その音にびくりと肩を竦めて―――でも。


「・・・三崎先生!?」
「―――ん?」
「はははっ、やっと見付かったな!」


吹き飛んだ扉と一緒に床を転がる姿に、叫んだ。
転がると言っても、一応受け身を取っていたらしい先生は直ぐに起き上がった。少しだけ乱れた髪と、でもホコリ一つ皺一つ付いた様子がないスーツと、「お、沢田と愉快な仲間たち」と暢気に笑って片手を挙げる先生自身、それら全てに突っ込みを入れたくなりながら。
でも突っ込む前に、獄寺君が先生を睨みつけ。


「十陰、テメェ今まで何処に・・・!」
「悪り。今取り込み中」


遮った先生に―――いや、言いつつ隣に転がる扉をひょいと持ち上げ、それを盾にするように「何か」から身を隠した先生。
目を丸くしたと同時。
先生が身を隠した「何か」が、空き教室から飛び出してきた。


「って、ヒバリさん!?」


トンファーを振り上げたヒバリさんが、先生が盾の様に構えた扉ごと先生を殴りつける―――と思った直後、先生は扉を飛び越えるようにしてくるっと宙返りしながらヒバリさんの頭上へと飛び。
またもや吹き飛んだ扉に一瞬同情。ヒバリさんは瞬時に反応し、頭上に居る先生に向かってトンファーを振るって。
先生はそれを判っていたかのように、焦りも見せずにトンファーを足の裏で受けると―――。

たんっ。

ヒバリさんのトンファーの勢いをうまく利用して跳び。
軽やかな音を立てて、危なげもなく、俺たちの目の前へと降り立った。


「・・・身軽・・・!」
「先生すげーな!」
「どーも。褒めても安くはならんぞ」


先生は笑ってそう言った。―――けど。


「ヒバリさん来たー!!」


勿論、ヒバリさんが諦めるわけがなくて。いや、何でそんなに・・・怒ってる? のかは判らないけど。


「褒めてもらっておいて何だが、悪いな沢田」
「え!?」


同時、ぐいっと引っ張られ、どんっ! と突き飛ばされた。
―――結果、俺はヒバリさんの前へと―――


「邪魔!」
「げふっ!?」


まぁ、こうなるよな・・・。
・・・って言うかヒバリさん、怒ってるっていうより・・・焦ってる?


「なっ、十陰! テメェ今十代目を―――」
「獄寺、沢田がまた殴られそうだぞー」
「んなぁ!? 巫山戯んな果てろヒバリ!!」


騙されないで獄寺君! そして反射的に爆弾投げないで!
なんて必死の思いは通じる事は今回もなく、ダイナマイトが放たれる。
それでもヒバリさんは怯むことなく、速度を下げることもなくトンファーを構えて三崎先生へと走り―――爆発と爆風と爆炎は、いつかのようにトンファーで払った。
直後、


「おい、落ち着けよヒバリ!」


きんっ、と言う甲高い音と同時、山本のバット・・・じゃなかった、時雨金時が(って何で持ってるの山本、さっきまで持ってなかったよね!?)ヒバリさんのトンファーと火花を散らした。
ヒバリさんが一層顔を顰めて、更にトンファーを繰り出すけど―――山本が慌てて対応し、ヒバリさんがそれ以上進めなくなる。


「山本ナイスっ」


山本の背後で、先生が笑顔で親指立てた。なかなかシュールだ。
けれど、直ぐに踵を返した先生に―――山本の刀を弾いて一度距離を取ったヒバリさんが、らしくもなく声を上げる。


「待て傑!! 僕は納得なんて―――」
「待つのはお前だ、頭冷やせ」
「傑・・・!」
「おい黄色いの」


先生が、山本・・・いや、ヒバリさんの方を見据えながら、誰かに声をかけた。
―――それに反応したのは、いつの間にか山本の肩から降りて、廊下に直に立って状況を見守っていたリボーンで。


「放課後まで『ソイツ』の足止めをしろ」
「!」


途端。
あのリボーンが、動いた。


「ッ!!」


ついに山本を抜いて、三崎先生へと向かっていたヒバリさんの前に、リボーンが割って入り。あろうことか―――ヒバリさんの目の前で、ヒバリさんに銃を向けて、それに驚くヒバリさんに構わず、至近距離で発砲した。


「リボーン!!」


咎める声を上げるが、反動で宙を一回転して奇麗に廊下に降り立ったリボーンはそれに動じる事はない。
ヒバリさんはギリギリ防ぐことが出来たらしく、リボーンから距離を取ってトンファーの構えを少しだけ解いた。―――トンファーの一部が凹み、そこから薄っすらと煙が上がっているのが判る。


「・・・赤ん坊、どういうこと。何で、」
「あいつが希望した『報酬』だ。情報提供の対価だな」
「―――彼は澪の居場所を知ってるんだ!」


声を荒らげたヒバリさんに、俺も、山本も獄寺君も目を丸くする。
・・・こんな、こと。今まで一度も、


「ああ。だから、それを教えてもらうために今は我慢しろ」
「ッ・・・!」
「俺もアイツにそれを聞きに来たんだ。今のアイツに問い詰めても、アイツは絶対に答えないぞ」
「―――じゃあ」


少しだけ冷静になったのか。ヒバリさんがトンファーを完全に下げて、でも人を殺せそうな目でリボーンを睨み付ける。


「何時になったら、彼は答えてくれるの。それまで澪が無事で居る保障はないのに」
「アイツだって澪に死なれちゃ困るはずだ。少なくとも、あいつがこうして黙ってる限り澪は無事だと思うぞ」
「彼がずっと何も言わなかったらどうなる。無事ではあるけどずっと囚われたままでいろ、って?」
「『十陰』は詐欺師じゃねぇ、情報屋だ。それはヒバリが一番知ってるはずだぞ」
「その情報をくれるのは何時で、その後助けるまであの子が無事で居る保障は何処にあるか聞いてるんだ・・・!」


―――焦ってる。
あの、ヒバリさんが。
俺は息を呑んで、ヒバリさんとリボーンのやり取りを見守る。ヒバリさんから漂う怒りだとか、悲しみだとか、焦りだとか―――そういうのを全部混ぜたものを、びしびしとリボーンに向けられているのを俺でさえ感じるのに。それでも平然としているリボーンは一体どういう神経してるんだ。俺だったら絶対涙目だよ・・・。


「・・・さっき言った通り、あいつが黙ってる以上は無事だぞ」
「だからっ、」
「放課後だ。」
「「「「!!」」」」


え。


「放課後になったら教えるそうだ。それまで俺がヒバリを足止め―――つまり、『十陰』に近づけさせなければ、な」
「・・・成る程。それで、あの台詞か」


あの台詞。ヒバリさんのその発言に、俺もハッとする。
放課後まで、ソイツを足止めしろ。って、三崎先生はリボーンに言っていたのを覚えてる。―――放課後になったらヒバリさんを足止めしなくてもいい、って言う事で。それはイコール、放課後になったら教えるって意味なんだ。


「・・・わかった。大人しくしてあげる」
「頼むぞ」
「その代わり。」


一度は緩んだ敵意が、今日一番強くこの場を支配する。
ひっ、と息を呑んでヒバリさんを見上げたけど、ヒバリさんの目はリボーンを睨みつけていた。


「もし澪に何かあったら―――傑も、君も、絶対に許さないよ」
「・・・なら、俺からも一つ言っておく」


でも、リボーンはヒバリさんのプレッシャーに怯むことなく、逆にニッと口角を上げて。


「放課前に『十陰』が澪の情報を教えてきたら―――その時点で、澪は無事じゃないと思え」


・・・・・・え、・・・?
放課後になる前に、先生が、澪ちゃんのことを教えてきたなら―――澪ちゃんが、危ないってこと?
目を見開いて、リボーンを見る。それからヒバリさんを見て、
―――冷たく笑うヒバリさんに、もう一度息を呑んだ。


「安心しなよ。・・・そのときも、僕は君たちを許さないから」


そう言ったヒバリさんは、一度リボーンをしっかりと睨みつけてから―――踵を返して。
廊下の向こうへ、消えていった。


「・・・な、にが・・・何だか・・・」


判らない。
威圧感が消えて、へなへな、とその場に座り込む。慌てて駆け寄ってくる獄寺君と、未だにぽかんとヒバリさんが去った方向を見つめる山本に。
神妙に帽子を押さえて、何かを考えるリボーン。
―――三崎先生は。
いつの間にか、居なくなっていた―――。
































(三崎先生、なんで、教えてくれないの)

(先生は澪ちゃんに―――助かって欲しくないの?)







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