これで最後だけどずっと愛してるよ

××

時刻はもう夜の11時

どんどん町の明かりが消えていって、暗闇に近い

太陽もとっくの昔に沈んでいて、寒くて震える

もう十年、十年も経った

十年のうちに、私の知る太陽は大人になっていった


「亜紀」


ベンチに座っていると、階段の方から私を呼ぶ声が聞こえてきた

懐かしい、暖かい声


「よかった、覚えてくれてたんだな……円堂」


ベンチの隣にはタイヤが吊るしてあった木が

昔から、自然とここが私と円堂の集合場所だった

それは十年経っても変わっていなくて

その変わらないものが、たまらなくうれしい


「亜紀、だよな、本当に」


震える声で私の名前を呼んで、泣きそうな顔をしながら私に手をのばす

私だって本当はすぐにでも円堂に抱きついきたい

もう二度と離れないように、もう二度と消えないように円堂の側にいたい

だけど、無理

もう、時間なんだ


「円堂、目、瞑って」


「亜紀!!」


私の言うことを拒否するかのように円堂が叫ぶ

わかってる、そんなことしたら私が消えるから


「円堂、お願い」


一歩ずつ円堂に近づく

円堂もその度に私に近づいてくる

離れたくない

抱きしめられたい

愛して欲しい


「大丈夫だから」


円堂の頬に手を当てる

朝に私と出会ったときから、ずっと私を探し続けてれてたのだろう

頬は氷の様に冷たくて、冷えた手では少し痛い


「亜紀」


「お願い」


もう一度だけ、円堂の目を見てお願いする

円堂は少し戸惑った顔をし、いくらか悩んだあと、目を瞑ってくれた

10年も経てば円堂の身長だって私よりずっと高くて、つま先立ちしながら円堂の顔に自分の顔を近づける

変わったものが、たくさんあった

この鉄塔広場だって、円堂だって、変わった

私だけ、変わらなかった

だけど、一番変わらなかったのは


「円堂、愛してる」


触れ合う唇から伝わる体温

柔らかな感触と、紅潮していく頬

全部全部、変わらない

何秒経ったのかわからないけど、漸く円堂から離れ、言う


「円堂は?」


「亜紀っ」


円堂が目を開けた時には、もう私はそこには居なかった

だけど、答えなんか知ってる


「俺も、ずっと」


だから、浮気したら許さないからな

××

急いで木枯らし荘まで走ろうとするけど、節々が痛みを訴える

それと同時に体温もどんどん上昇していって辛い

時刻は11時58分

あと二分だ


「はぁっ、はぁっ、つらっ」


まさか、元に戻るのにここまで痛みを伴うとは

たしかに、別の姿になるのは相当大変だとは思っていたけど

それにしたって割に合わない

時刻は11時59分

木枯らし荘の目の前

真っ暗な部屋と、明かりの点いてるリビング

ここが、今私の帰る場所

少しずつ髪が短くなっていくのを感じながら、ドアに手を掛ける

たとえ10年経っても、別の姿になっても

変わらない、大切なものは確かにあったよ


「ただいま、秋さん」



一日限りの奇跡に愛を


(狩屋君!!どこに行ってたの!!)

(少しだけ怒っていて、だけどどこか安心したような秋っちの声)

(そして私の帰る部屋があるこの家が)

(今の私の居場所なんだ)



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