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これはいくらなんでもないでしょ
××
12月24日、朝
クリスマス・イブなどと言われるリア充(ヒト科人類の敵)が活発化する日であると同時に全国の子供たちがはしゃぎ回る日だ
この日は機嫌の悪い親たちも子供のために豪華な料理を用意したり、みんなでケーキのうえの飾りを奪い合ったりする
そして夜になるとサンタさんと呼ばれる謎の老人が煙突から侵入してみんなに夢を分け与える
そんなすばらしい日の朝のことである
私はいつものように目を覚ました
今日はクリスマスなので部活もない
だけど木枯らし荘でクリスマスパーティーをするのでてんまきゅんと一緒に飾りつけをしなくてはいけないのだ
その為早めに起きて体を起こすと、なんだか違和感を感じた
なんだかいつもと少し何かが違う気がする
具体的に言うと、私の髪、ここまで長かったけ?
いつもなら肩に付くぐらいのだが、今日に限って腰の辺りまである
もしや昨日音無先生にもらったジュース(198円)がマッドサイエンティストによって作られた全国の親父さんの味方、毛が長くなる薬だったのだろうか
そう思うと不安になるもので、私は急いで鏡を取り出し、覗き込んでみた
そして、
「な、なんでだー!!」
木枯らし荘に、一つの叫び声が響いたのであった
××
ドタドタと走ってくる音が聞こえてくる
私はその音に気が付くとすぐさま部屋に鍵をかけた
理由は簡単、今の姿を見られたらヤバイからだ
「どうしたの、狩屋君!!」
ドア越しに秋っちの心配する声が聞こえてくる
私は絶対に中に入られないよう鍵がかかっているドアノブを握り続けながら答えた
「だ、大丈夫です!!なんでもありません!!」
「でも、さっきの悲鳴……」
「あれはちょっと部屋でカラスの泥沼劇が繰り広げられていただけで……」
「それはそれでどんな状況!!」
なんだか苦しい言い訳をすることになってしまったが仕方ない
あれが混乱している状況で出来た最善の理由だったのだ
……最善かどうかわからんが
「ともかく、俺は大丈夫なんで!!」
「そ、そう?ならいいんだけど……」
秋っちを騙すのは心苦しいが、この際仕方ない
心が痛むとか、この際言ってられないのだ
「じゃぁ、私は一階に行くけど……何かあったら呼んでね?」
「はい」
秋っちが遠ざかっていくのを聞きながら、私はやっとドアノブから手を離した
………本当になんなのだ、これは
聖夜とは言え、これはないだろう
私は先ほどまでのことが夢だったら良いのに
そう思いながら鏡をのぞくと、やはり先ほどと同じ顔が映る
「………マジで、なんでこうなったんだ?」
音無先生からもらったジュースが謎のマッドサイエンティストに作られたものというのはあながち間違いではなかったのかもしれない
ただし、作られたものは毛を長くする薬などではなく
「……………どうしろってんだ」
鏡の中の私が困ったような顔をする
その姿は、まさしく風丸亜紀そのものだった
××
……一旦整理しよう
朝起きたら私の姿は狩屋亜紀から風丸亜紀になっていた
原因として考えられるのは音無先生からもらった謎のジュースだろう
……あれ?で、どうすればいいんだ?←
とりあえず、この姿で困ることと言えば円堂たちだろう
この姿で外を出歩けばすぐさまものすごい自体になる
それもそうだろう、十年前に行方不明になった人が年をとらずにそのままの姿で居るのだから
で、次の問題は何時狩屋に戻るのか
ずっとこの姿のままだと絶対に困るときが来るだろう
そりゃ、この姿なら気兼ねなく円堂たちと一緒に居られるだろうけど……
でも、そうなったら狩屋亜紀はどこにいってしまうのだろうか
せっかく天馬たちと仲良くなれたのに、なのに別れも言えず、消えるのはあまり良くないだろう
そう考えると私はしばらくの間天馬たちとも円堂たちとも接触を避けなければならない
でもこのまま部屋に閉じこもっているのも限界が来るだろう
じゃぁ……どうすれば?
思考に行き詰まってベッドに倒れこむ
ここまで考えたことなど無かったので頭がフリーズしそうだ
困り果てていたとき、ふとクローゼットの中にフード付きパーカーがあったことを思い出す
フードで頭を隠して、サングラスとかで顔を隠せばよくね?
そんな考えが頭の中を横切った
そしてそんな考えが生まれると更に欲が出てきてしまう
確かに円堂たちとは会えないけど、だけど、今日この日、風丸亜紀が確かに存在していたことを残したい
そして今日はくしくもクリスマ・イブ
何かをするにはもってこいの日だ
「…………そうと決まれば、早速行動に移してみるか」
つまり、サンタさん大作戦の開始である
なんと奇跡が198円で売られてました
(突然始まった奇跡の一日)
(このたった24時間しかない日)
(私はどう過ごす?)
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