第九悔

errare humanum est.

××

円堂side

失敗した

まさか古タイヤを手に入れるためにほかの人を巻き込んでしまうなんて…

もう少し周りを見渡すんだった……

少し前の自分の行動を反省しつつ、今はトラックに乗ってしまったサッカーボールを追いかけることに専念する

慣れていない、しかも知らない場所でトラックを追い続けるのでどうしても距離が縮まらない

このままではどんどんトラックが遠のいてしまう

そして、トラックが消えてかける直前だった


「待ってください!!」


先程まで一緒に走っていた少年がいつの間にかトラックの前にいた

さっきまで自分と一緒に走っていたのに……

その時、初めて世界と自分たちの差を知った


「な、なんじゃいきなり!!危ないだろ!!」


「すみません、貴方のトラックに俺のボールが乗ってしまって……」


トラックの窓から顔を出していた老人はそこまで聞くと「ボール?」と、言いながらトラックを止め、後ろの荷台の方へ向かう

俺はそれを見て慌てて、老人と少年の方へと行き、自分の要件を言った


「あの、すみません!!」


「なんだ?」


「その古タイヤ…俺にくれませんか?」


××

秋side

なにも恨まずに生きていくって、どうしてこんなにも難しいんだろう

誰かを憎まず、恨まず、嫌わず、そんな生き方私にはできなかった

私には普通に嫌いな人や苦手な人がいる

例えばクラスの隅に居るような暗い女の子は正直どう話したらいいのかわからなくて苦手だし

逆にケバケバしい女の子はキツイ言動が多くて嫌いだ

でも表面ではソレを絶対にださない

さっきまでその子の悪口を言っていたのに、その子の前では普通に仲良くお喋りする

みんなそうやって生きてきた、私もそう生きてきた

だけど、本当はそんな生き方良くないって知ってる

第一、そんな汚い生き方を好きな人に知られたら私は悲しくて悲しくて、とっても辛い

だから私は、円堂君の前では面倒見のいいお姉さんでいた

だって、円堂君に汚い私を見せたくなかったから

綺麗で、優しくて、理想な女の子を見せたかったから

だけど、それって結局……玲姫ちゃんと同じだった

玲姫ちゃんも、汚いところを見せずに綺麗なところだけを見せて、みんなに好かれたかった

だから私は、彼女のことを嫌いだと思いつつも自分と同じなんだと思ってる

そりゃ、苛めとか辛かったし、円堂君に信じてもらなかったのも辛かったし、みんなに信じて貰えなかったのも辛かった

私たちはずっと一緒に頑張ってきたのに、あの程度で壊れるんだと思った

だけど本当は知ってる、強固な絆なんて何処にも無いって

だって、私だって友達が誰かを傷つけて、みんながその子の敵になったら私だってその子の敵になる

1人は怖いから、その子の味方をして裏切られ、私が苛められたら怖いから

私たちは脆いよ、誰よりも脆くて、酷く残酷

だから、私たちはあの子を平気で生贄に捧げた

知ってたよ、貴方が私たちを見捨てられないって

知ってたよ、貴方が私たちの代わりになるって

知ってたよ、貴方が必ず傷つくことを

知ってたよ、貴方が居なくなれば私の恋が実る確率が高くなるって

知ってたよ、貴方が誰も恨むことのできない人間だって

知ってたよ、貴方が最後まで私たちを助けるってことを

知ってたよ、貴方が最後には自分の命を犠牲にするって

知ってたよ、貴方が誰よりも優しく、他人を思いやる人だって

知ってたよ、私たちはみんな知ってたよ

知ってて、私たちは貴方を犠牲にして幸せになりました


「知ってても、私たちが弱いってこと……貴方は知っていた」


ねぇ、貴方の目はどんな風景が映っていたのですか?

××

円堂side

何とかして目的の古タイヤを手に入れた

だけど今の俺はそんな事がどうでも良くなるくらい、さっきの老人の言葉が頭の中で木霊していた


『お前のサッカーはどこにある』


……俺のサッカーは、ここに在るはずなんだ

確かに、俺はじいちゃんの技ばっか習得してきた

だけど、それがなんだ、確かにじいちゃんの技だけど、それを習得するまでの努力は全て俺のものだ

俺の努力は誰にも否定できないはず、なのにその言葉が木霊する


……どうしろっていうんだよ


深い溜息を吐き、海を眺める

世界はとてつもなく広い

さっきの少年もそうだった

軽いフットワークに素早いスピード、そしてフィールド全てを見ることのできる目

何もかもが俺たちよりレベルが高かった

だけど、それを驕ることなくアイツは俺のことを対等として見てくれた


「俺はフィディオ・アルデナ、よろしく守」


あの時、アイツはそう言って手を差し出してきた

……俺は、握り返せなかった

俺が一方的に建てた物凄く深く溝が、高い壁が俺とアイツとの間にあった

だから俺は無理やり話しかけて誤魔化した

何も見なかったフリして、笑顔で「よろしくな!」と言った

それがどんなに最悪なことなのかわかっていたのに


「っ、ほんとに、どうしたらいいんだ」


……こんな風に悩んでいると、いつもはいつの間に隣にアイツが座っていて、俺の話を聞いてくれていたっけ

もう居ない筈の水色が一瞬、俺の隣に座っているような錯覚に陥る

何時ものように明るい笑顔を向けて、それでたくさん話しかけてくる

そんなありもしない幻が、俺の体にナイフとなって突き刺さる


「わっかんねぇ…俺たちは、どこで間違えたんだ?」


あの日から、ずっと夢に出てくる

なんで、アイツはあの時俺を庇ったんだろう?

俺はアイツの事を散々傷つけてしまった

そして、その結果、アイツは崖から落ちるとき、俺にこう言ったんだ

憎しみのこもった目で、泣きながら、アイツは悔しそうに


『お前が―――





 



 












「死ねばよかったのに」』








errare humanum est.


(間違う事(迷うこと)は人間的だ。)

(間違えて、違えて、絡まって)

(一体、どうしたら解けるのだろう)



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