Clap



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「そうだ、汽笛を聞きに行こう!」

それは、年の瀬も迫る明くる日のこと……最年少幹部である太宰治、その人が言った言葉が発端であった。

此処、ルパンに通うようになったのは彼、太宰君に誘われたのがきっかけである。当時、すでに幹部であった彼は部下にどこか敬遠されるような人物であったのだが、首領の秘書である私をそのような場所へ誘うとは驚いた。歳が近いこともあり、誘いやすかったのではあろうが。その時に、此処で彼の友が最下級構成員である織田作之助だと紹介された驚きは並々ならぬものであった、と同時にどこか納得も出来た。これでも、首領(ボス)の秘書を務める為にポートマフィアの末端まで構成員は頭に叩きこんでいる。勿論、彼の異能力”天衣無縫”がとても優れた能力であることも知っていた。それからよく三人で飲む機会が増えたのだが、月日が流れ太宰君と織田君が新たに人を連れてきた。

それが……坂口安吾である。正直、首領に紹介された時に表情に出さないようにすることは難しいことではなかったが、二人がこの酒場を連れてきた時の驚きといったら…表情を失くすぐらいには驚いた。だから同期としての安吾でもなく、坂口君と呼んでいる。違和感はなくならないが仕方がない。今の私は彼を呼び捨てにするほど付き合いが長いわけでも、仲が良い訳でもないのだから。そんな彼を加えた4人で迎えるであろう初めての大晦日を前にした話であった。







「……汽笛、ですか?」

太宰君が口にしたその言葉に安吾が不思議そうに言葉を繰り返した。それは、そうだろう。これは、此処横濱に住んでいなければ体験することはあまりないのだから。

「太宰、大晦日の除夜の汽笛のことか。」
「あぁ、そうだ!いつも聞いている汽笛とは違って船が一斉に鳴らす汽笛。なんと壮観なのだろう!」

何処か恍惚気に言う太宰に対し、安吾が若干顔を引攣らせていることに笑った。恍惚気ということは、また何か自殺する方法でも考えているのだろうか。これ以上2人に任せても、安吾が望む明確な答えは出ないであろうから私もグラスを置き、口を挟むことにした。

「毎年、年越しと同時に港に停泊している船という船が一斉に汽笛を鳴らすんですよ。だから、除夜の鐘ならぬ除夜の汽笛なんです。」
「朔さん、説明ありがとうございます。でも、太宰君…そのような汽笛なら此処に居ても聞けるのでは?」

メガネのブリッジをくい、と上げた安吾の発言は最もであった。湾岸部に近い場所ならば横濱のどこであろうと聞くことが出来る。

「安吾、それじゃあ大晦日を感じられないだろう!」

ふふふ、と何か企むように笑う太宰を見て身の危険を感じないほど付き合いが浅いわけではない。何処か諦めたような織田君の溜息が耳に残った。

「ということで、皆大晦日の夜は予定を空けといてくれたまえ」







そして、迎えた大晦日当日。太宰君に言われた通り、仕事は全て終わらせておいた。元々、首領が大晦日はエリス嬢と過ごすために仕事をしたくないと駄々をこねていたのでスケジュールを前倒しにしていた。ポートマフィアはカラーがブラックなだけでなく、勤務状況もブラックなのだ。最も特務課も似たようなものであるのだが。

「安吾は来ないのか?」
「仕事が立て込んでるみたいですよ。」

太宰君に指定された集合場所に来れば、先に織田君が羅針盤をモチーフにしたという噴水に腰掛けて待っていた。太宰君はまだ来てないらしい。年の瀬ということと、海に近いことで潮風がより寒く感じさせるので、マフラーを引き上げ顔を埋めながらそう答えた。安吾の仕事とはポートマフィアではなく特務課への報告であるようだが、そう答えるわけには勿論いかないので、曖昧に言えば「そうか。」と彼らしい言葉を返された。この時初めて顔を合わせて話した(それまで俯きながら織田君の元へ行った)のだが、そこで私の顔を見て織田君が目を丸くした様子があまりにも可愛くてつい笑ってしまった。

「…笑わないでくれ、ずいぶんと印象が変わるものだな、眼鏡がないと。」
「仕事はオフなので。」

というのは建て前で、この時期に眼鏡をしていると割と曇るのだ。だからわざわざ仕事をしない日まで(マフィアの動向の監視という意味では仕事中であるが)伊達メガネはしなかった。

「太宰のやつ、遅いな…」
「えぇ…彼も今日は仕事は入ってないはずなのですが。」
「さすが、首領の秘書なだけある。若しかして、構成員の仕事は全て覚えているのか?」
「そうですね…織田君の仕事内容も把握してますよ?」

と笑えば「すごいな」と感嘆の声をもらされた。正直、この記憶力と事務能力があったからこそ、こうしてポートマフィアに潜入することになったと考えると皮肉なものである。そうこう話していると、太宰君が走ってきた。いつの間にか雪がちらつき始めていたようで、走ってきた太宰君の頭には薄っすらと雪が積もっていた。

「いやぁ、すまない…」

どこからともなく現れた太宰君は、いつも通り飄々としていて、謝ってはいるがあまり反省の色はない。

「これを買っていたら遅くなってしまってね!大晦日の一晩限定の甘酒だ。」
「若しかして、太宰。お前の目当てはそれか?」
「さすが織田作!私はこれを一度飲んでみたくてね。」

そう言い、有無を言わせずに湯気が立ち込める甘酒の入った紙コップを渡された。太宰君が持っていたコップは3つだった。

「……坂口君が来ないこと分かっていたんですか?」
「まぁ、ね。」

安吾が太宰君に連絡したのか、はたまた頭の回転の早い彼のことだから安吾が来ないことを予測していたのか。

「それより、早く飲み給え。折角並んで買ってきたのが冷めてしまうだろう?」
「…それなら乾杯しませんか?」
「何に乾杯するんだ?」
「…ストレイドッグス?」
「いや、安吾が居ないから別のものに乾杯しないか?」

織田君がそう言い終えたところで、港に停泊する船が一斉に汽笛を鳴らした。

「年を越したか。」
「なら、新年に乾杯しようじゃないか。」
「そうですね。」
「新年に、『カンパーイ!』

舌を火傷しないようにふーふーと冷ましながらその液体を喉に流し込んだ。

「美味しい。」

同時に口にしたその言葉に、太宰君が満足気に笑む。普通の甘酒よりも滑らかな舌触りと、生姜による辛みが絶妙である。そして、その生姜が芯まで冷えた体を温めてくれるようであった。

「あけましておめでとう」






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