ちょっと変わった性癖を持つ俺の友人、中澤楓を言葉で表わすならば。
「節操がない」
この一言に尽きる。
『俺、男でも女でもイケるんだよね』
入学した高校で、たまたま同じクラスになって、席も近くて、なぜだか一方的につきまとわれて。
その上、聞きたくもない突然のバイセクシャル宣言をされてから、3ヶ月。
中澤楓が繰り出す性の遍歴は、とどまることを知らない。
大きな目が印象的なきれいな顔と人懐っこい性格を併せ持つ楓は、男女問わず徒らに惑わす無敵のオーラを放つ。
清楚でかわいい女の子と付き合っていたかと思えば、いつの間にか別れて2学年上のイケメンと唯ならぬ雰囲気で校内を歩いている。
下校時間に正門前に立っていた学生風の美男美女カップルが楓の知り合いだったらしく、3人で仲睦まじくどこかへ消えて行ったこともあった。
もはや何がどうなってるのか、いちいち訊くのが怖くて触れられないレベルだ。
そんな楓がどうして俺につきまとっているのかも謎だった。
楓が言うには、「蒼ちゃんはトクベツ」らしい。
「俺、友達いないんだよね。蒼ちゃんは俺のこと偏見とかないし、何でも話聞いてくれるし、余計なことは訊いてこないし。蒼ちゃんといると落ち着くから、好き」
そう言って、へへ、と屈託無く笑う。
ちゃん付けはやめろと何回言っても、訊く耳を持たない。
楓は俺にとって宇宙人。未知の生物だ。
*****
「蒼ちゃん、俺ちょっとサボるね」
昼休みが終わって5時間目が始まる直前、突然そう言い残して楓はどこかへ行ってしまった。
5時間目は自習だった。健全な高校生にとって、自習なんて自由時間と同義だ。
ざわめく教室の中で、俺は退屈を持て余しながらズボンのポケットに手をやって ─── ふと気づく。
携帯電話が、ない。
反対側のポケットを弄る。入っているのは、愛用してるミント味のタブレットケースだけだ。カバンの中も開けてみたが、見つからない。
記憶の糸を手繰れば、すぐに思い当たった。図書室だ。
俺は読書の習慣が皆無なのに、不可抗力で全くガラでもない図書委員をさせられていた。
さっきの昼休み、図書室で当番の終わり際に、メールが入ってきて携帯を取り出したことを思い出す。
きっと、受付のカウンターだ。
俺は自習時間をいいことに、教室を抜け出して図書室へ向かった。
白い引き戸に手を掛けると、ガタリと引っ掛かっていて動かない。
どうやら授業中は図書室に鍵を掛けているらしい。
司書教諭が管理しているはずだったが、授業中にそこまで取りに行くほどの気概はない。
諦めて教室に戻ろうとした瞬間、ふと思い出す。
図書室のカウンターに近い窓の鍵が、壊れているはずだった。
窓側は続きのベランダになっている。俺は非常口から一旦外に出て、図書室のベランダに入り込んだ。
カウンター側に回って窓越しに中を見た俺は ─── 息を飲む。
人影が、見えた。
「……っ、あ、あ……ッ」
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