the 4th day[16/21]

心地よい体温に包まれながら、僕は本音を漏らす。こうしているうちにも少しずつ陽が傾いていくのがわかる。斜陽は強く輝きながら僕達を照らしていた。

「……サキは僕を赦さない」

「もしそうだとしても仕方ない。そうは思わないか。そもそも、あいつがお前を赦すかどうかを決めるのは、お前じゃない」

唐突に投げ掛けられた言葉に僕は黙り込む。そのとおりだと思ったから。
サキの命を奪った僕の過ちは、赦されることではない。それは、至極当然のことで、僕がどう足掻こうと紛れもない事実だ。

「ここであと一歩を踏み出してみないか。俺はお前をここから連れ出したいんだ、アスカ」

切実な声で名前を呼ばれて、ふと全てをミツキに任せて寄りかかりたい欲求に駆られた。
そうすれば、僕は楽になれるのだろうか。
抱きしめられたまま、身体をゆっくりと弛緩させていく。余計な力を抜けば、強張る心も少し解れた気がした。

「お前の時間は今、お前のものじゃない。俺が預かってるんだ。だから、こっちにおいで」

ミツキがこの時間を誰から預かっているのかを、僕は知っている。
自分自身と最後の契約を交わしたその人の顔を、脳裏に思い浮かべる。
この四日間は、ユウが仕掛けたのだ。いや、もしかすると、それだけではないのかもしれない。

初めから、ユウは全てをわかっていた。

サキを失ってからの僕が辿ってきたのは、ユウが描いたシナリオだった。
きっと、初期の段階からユウは僕を今日へと導こうとしていたに違いない。
この考えがもしも正解であれば、この先に待ち受けている何かは、僕が出逢うべきもののはずだ。
終わることがないと感じられるほどに永かった、サキのいない時間。ここがその果てになるのかもしれない。

「うん……わかった」

ゆっくりと身体を離して、俯いたまま僕はそう告げる。失くした途端温もりが恋しくなるのは甘えだとわかっていながら、その我儘な感情を素直に受け入れることができたらどれだけいいだろうかと思えた。
手を引かれてゆっくりと車から降りる。美しく緑のけぶる山が連なって見えた。小高い丘陵のここからは、夕暮れの街が見渡せる。
吹く風は髪が靡くほど強いのに、どこか優しい。草木の香る、生命の匂いがした。
今見ているこの景色を、生涯忘れることはないだろうと感じた。
ここに、サキがいる。
ミツキに導かれるまま、僕は足を進めていく。きれいに整備された駐車場を出て、細い小径を辿る。
陽が徐々に傾き、街の彼方へと近づこうとしていた。痛みを覚えるほどの眩しさに目を細めながら、僕は傍にいる人の横顔に話しかけた。

「ミツキは、何を知ってるの」

答えを期待していたわけではない。けれど、何か言葉を交わしておきたいと思った。ただ黙ってこの道を歩くことが、ひどく不安だったからだ。

「俺は何も知らされてないんだ。この四日間で俺が指示されたのは、言われたとおりにアスカを案内すること。何も知らされてないことはもどかしく思ったけど、こういう機会を与えられてすごく光栄だったと思ってる。アスカにとって大切な時間を共有できたことが、本当に嬉しいんだ」

ミツキが傍にいてくれたことには確かに意味があった。この四日間で、僕たちはそれぞれ抱えていたものに少しずつ決着をつけていくことができたのだから。
何かに後付けで意味を持たせようとするのはとても簡単なことだ。本当のところ、僕たちがこうしていることに、それ以上の意味などないのかもしれない。
それでも共に過ごしたこの四日間、僕は確かにミツキと大切な過去を旅してきた。

「僕はミツキでよかったと思う」

そう小さな声で言えば、ミツキは嬉しそうに微笑んで僕を見下ろす。
一度は訣別したはずだった。それでも、こうして傍にいてくれることは奇跡だと思う。

「ありがとう」

素直に感謝の気持ちを伝えれば、歩みがほんの少し遅くなる。

「やめろよ。別れの挨拶みたいで、洒落にならない」

冗談めかしてそう返してきたけれど、それは恐らく本音なのだろう。もう別れを繰り返したくないと、ミツキは心底感じてくれている。
それは、僕も同じだ。
緩やかな坂道を登って、僕たちはそこへと辿り着く。まだ新しい墓地は、きれいに整備されている。その奥へと進むうちに、僕はいつの間にか目線を下げてしまっていた。
ミツキが僕よりも半歩先を歩く。その後に続いて俯きながら、まだ新しい墓石が並ぶ中を通り抜けていく。
地面を一歩一歩踏みしめて、長く伸びた影を見つめていると、不意に名前を呼ばれた。

「──飛鳥」

聞き慣れた、懐かしい声。
瞬時に僕は足を止める。後退りしそうになるのを、ミツキは構わずに腕を引いて僕をその場所へと導く。





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