the 2nd day[5/16]

ミツキがしばらく借りる約束をしたというお姉さんのコンパクトカーは、ワンボックスタイプの軽自動車だった。車内が広く感じられる作りになっていて、ゆったりと座ることができる。
きれいなメタリックカラーが陽射しを反射して青空によく映えている。子どもの頃に飲んだソーダを彷彿とさせる、明るく爽やかな色だ。
助手席のシートから、フロントガラスに映る明るい空をぼんやりと眺める。ミツキと二人きりでこんな狭い空間にいることに、まだ僕は慣れることができずにいた。

「行きたいところがあるんだ」

ミツキの言葉にただ頷く。どこか目的地があるのなら、その方がいいと思った。手持ち無沙汰に移りゆく街並みを見ているうちに、意識がじわりと浮上していく感覚がした。
僕と会っていない間、ミツキはどう過ごしていたのだろう。
二人で過ごした四日間を想い出す。午前0時を超えたあのとき、僕のことを待つと言ってくれたミツキを突き放した。あんなにひどい別れ方をしたのに、普通ならば恨まれていてもおかしくないと思う。
涼やかな横顔をチラチラと見ていると、正面を向いたままミツキが薄く唇を開いた。

「アスカは俺と一緒にいるの、嫌か」

唐突な問いかけだった。ミツキはミツキなりに、この四日間を過ごすことに対する葛藤があったのかもしれない。

「そんなことはないよ。だけど」

「……だけど?」

追及されてどう言おうかと迷って、結局思う言葉を紡いでいく。

「まだちょっと、戸惑ってる。この状況に」

「なら、よかった」

控えめに笑いながら、ミツキはゆっくりとブレーキを踏みしめる。

「こうしてるのが嫌じゃないなら、それでいいよ」

今はね。
溜息のように小さく吐き出された言葉に目のやり場が見つからず前を向く。よそよそしく、くすぐったい時間だった。
運転席までの空間がもどかしい。これ以上詰めるべきではない距離だということはわかっていた。昨夜ベッドでしたように肌を密着させたところで、僕たちの関係は何も変わらないだろう。
進むことも、後退することも赦されない。

「……ユウは、何て言ってた?」

ミツキと僕をこうして再会させたのはユウの目論見に違いない。けれど、僕はその意図を汲むことができずにいる。
考えもなく僕のことをミツキに託すはずがない。ユウがすることにはいつも必ず意味がある。それは、今まで一緒に過ごしてきた僕が誰よりもよくわかっていることだった。

「気になる?」

赤信号で停車し、横断歩道を渡る通行人を眺めながら、ミツキはそう訊き返してくる。素直に頷くと、眩しいものを見るように少し目を細めた。

「秘密」

悪戯っ子のようにそんな言葉をこぼして微笑む。ここに至るまで、ミツキはユウとどんな会話を交わしたのだろう。僕には想像もつかないけれど、それでも二人の関係はけっして悪くないように思えた。

「俺、もう一度やり直したかったんだ。あの四日間を。だからあの人にはチャンスを与えてもらったんだと思ってる」

青のシグナルに合わせて世界が再び流れ出す。共にいる人によって風景の見え方が変わることを、僕は知っている。ここにはカラーが存在していて、街は生きているように見える。
それは、僕の鼓動がミツキの隣できちんと時を刻んでいるからだ。

「チャンス、ね」

ミツキがあの四日間をどう過ごしたかったのか。それを訊くのはひどく躊躇われた。
もう一度同じように時を重ねたとしたら、僕たちの間で何かが変わるのだろうか。

「これは俺の四日間でもあるけど、アスカの四日間でもあるんだ」

僕の四日間。それは、昨日からずっと感じていたことだった。
この世界で僕は、僕の意志で動いていながら、誰かのシナリオどおりに動かされている。僕の思考は誰かに操作されているような気がしてならない。今、この瞬間も。
郊外へと走る車の中で、僕は窓の外を眺めながらミツキに聞こえないよう小さく息をついた。






長い階段だった。コンクリートをしっかりと踏みしめながら、足を進めていく。
断続的にエスカレーターは設置されているけれど、それを使わずに歩いて行こうと言ったのはミツキで、それでいいと頷いたのは僕だった。
手入れの行き届いた立派なお寺の境内には多くの人が行き交う。鮮やかな朱塗りの手摺に黄色の土壁がきれいなコントラストを作っていた。
土曜日だからだろう。小さな子ども連れの家族に、年輩の人たち。多くの参拝客で賑わっているけど、僕たちのような年代は珍しかった。

「ここへはよく来るの?」

そう問いかければ、ミツキは少し考え込んで口を開く。

「そうでもないな。年に一、二度ってとこか」

ミツキの住むところからすぐ近所というわけでもないから、その頻度ならむしろ多いぐらいだろう。観光地でもないのにミツキがあえてここへ来るということは、それ相応の理由があるに違いなかった。




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