Moonless Kiss side A[3/3]

「駄目かな」


僕の頬は、のぼせたみたいに火照ってくる。


「ううん。すごく嬉しい」


軽くキスすると、また体温が上がっていく。

もうすぐ僕は沙生と同じ大学に通う。沙生は遺伝子工学の研究が忙しいから、大学ではきっとそんなに会えない。

それでも、キャンパスで一緒にいられるときは、沙生と手を繋いで過ごす。

そんなことを想像するだけで、心が満たされていく。

僕は右手で沙生の左手を取って、しっかりと握りしめる。


「沙生、離さないで」


沙生の微笑みは、本当に優しくて。

このまま時間が止まってしまえば、どれだけ幸せだろうか。


「飛鳥」


大好きな沙生の声が奏でる言葉は、僕の涙腺を刺激する。


『愛してるよ』







「アスカ」


闇の中でぼんやりと僕の顔を覗き込む瞳が見えた。

小さな頃に遊んだガラス玉のような、煌めく鳶色の瞳。

でもそれは、サキの瞳じゃなくて。


「ユウ……」


親指で目尻を拭われて、自分が泣いていることに気付く。


「サキの夢を、見てた」


言葉にすればそれが夢だったことがはっきりと感じられて、僕はゆっくりと絶望していく。

優しく抱き寄せてくれるユウの体温は、夢の中のサキのものに似ていた。

夜の空気を吸い込みながらまばたきをすれば、また涙が溢れ出す。

本当は、ここが夢の中なのかもしれない。

僕は今、サキのいない世界の夢を見ているのだ。

でも僕はもう気づいている。

これは醒めることのない夢なのだと。

夢の中から引き摺り降ろした甘い熱が、僕の身体に燻っていて。

その熱さに堪え切れずに、僕はユウの身体にしがみ付き懇願する。


「ユウ、抱いて……」


与えられるのは、どこまでも優しい口づけ。

僕は罪のないユウを闇へと誘う。

ユウは何もかもを押し殺して、ただ僕の身体に沈んでいく。


抱かれることで全てを忘れたいのに、抱かれる度にサキを思い出す。


月のない漆黒の夜が、僕たちに覆い被さる。

夜明けはまだ、見えなかった。




"Moonless Kiss side A" end



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