今の俺は、何かに似ていると思う。
熱に浮かされなから、どうにか冷静な部分を残しておきたくて自分のことを客観的に見ようとする。 ちゃんと呼吸しているのに、息苦しい。 必要なはずの何かが足りない気がして必死にもがくけど、身体は思いどおりに動いてくれない。 そうだ、陸に水揚げされた魚みたいだ。
意志とは関係なしにビクビクと跳ねる身体を持て余しながら、ぼんやりとそんなことを考える。 厳密に言えば自由を奪われているわけでもないのに、俺はもう完全に支配されてしまっていた。
「ん……あ、は……ッ」
股間でさらさらと揺れる髪が、肌に触れるのがくすぐったい。 那津の力は俺が想像していたよりずっと強かった。細く締まった身体にはしっかりと筋肉が付いている。きめ細かい肌は汗に濡れてキラキラと輝く。
半身をずっぽりと喉の奥まで咥え込まれて、反射的に閉じようとした脚は簡単に押さえ込まれてしまう。 那津の口の中は少しひんやりとしていた。低い温度が却って気持ちいい。ぬるぬると全体を覆う強烈な感覚に、俺のそこは今にもはち切れんばかりに震えていた。
「あ、も……っ、やっ」
那津の口内は、まるで弾力のあるゼリーみたいだ。柔らかくて、ぴったりと肌にくっついている。果てしない快感にずるずると引き摺られて、敢えなく溺れていくことしかできない。 閉じていた目をうっすらと開ければ、那津は熱を帯びた眼差しで俺を見つめていた。艶かしい上目遣いにまた心臓が高鳴る。
どうしてそんな瞳で俺を見るんだろう。
ずるりと口から昂ぶりを吐き出して、那津は俺の先端を愛おしそうに吸ってからそっと唇を離した。一連の動作は滑らかで色っぽく、つい見惚れてしまう。
「気持ちいい?」
初めて他人に触れられたそこに与えられる刺激は、あまりにも強かった。じりじりと限界まで焦らされた挙句突然放り出されたことに、気持ちよりも身体が戸惑いを覚える。
喉が渇いて水が欲しいと感じるのと同じように、身体の奥が何かを求めて疼いている。 何をどうすれば、この飢えが満たされるんだろう。その答えを知ることが怖かった。
「……ん、あッ」
濡れた指先がゆるりと後孔の襞をなぞっていく。何も使っていないはずなのに、潤滑剤が塗り込まれているみたいに滑りがいい。 その指をほんの少し中へと挿し込まれて、反射的に腰が引けてしまう。
「ちょ、何……っ」
慌てて肘をついて頭を浮かせれば、興味深そうに股の間に顔を近づけていた那津の目がこちらを向いた。俺の様子を窺うように、潤んだ眼差しを向けて微笑む。
「息を止めずに、口から吐いて」
ぬるっと滑るように指が侵入してきて、ゾクリと背筋が震える。強烈な異物感に変な声がこぼれた。
「あ……ッ」
痛みはなかったけれど、慣れない感覚に身体が吊ってしまったように強張っていた。それにもかまわず那津はゆっくりと中に指を這わせていく。やがて奥まで到達すると、試すようにグリグリと押し広げられてしまう。微弱な電流に似た、甘ったるい痺れが身体の中を駆け巡る。
「や、あ、っ……」
「大丈夫だから。息を吐いてごらん」
那津が上体を起こして、空いた掌で俺の頭をそっと撫でた。首筋を食まれて、ビクリとまた身体の芯が震える。 言われたとおりに詰めていた息をゆるゆると吐き出せば、身体の緊張が少しずつ解れていく。 じわりと中に水分が広がるのがわかった。その冷たさに小さく身を捩れば、那津は手を伸ばして宥めるように俺の腹をさすった。
「ここの力を抜くんだ、わかる?」
ふるふるとかぶりを振れば、那津は肩を竦めてそっと笑いかけてきた。
「余計なことを考えずに、頭の中を空っぽにしてごらん。気持ちよくしてあげるから」
軽く指を抜き挿しされて、勝手に腰が動いてしまう。むずむずと疼くこの変な感覚を、どうすれば抑えられるんだろう。 これを快感だと認めることが恐ろしかった。だいたい俺は、誰ともこんなことをしたことがない。だから、本来こうあるべきだというのもわからない。
どうして俺は宇宙人とこんなことをしてるんだろう。
そんな至極馬鹿らしい疑問は、ぬちぬちと響く卑猥な音に呆気なく掻き消される。中を優しく穿つ指があっという間に2本3本と増えて、急速に解れていくのがわかった。 ずるずると身体の中をおかしな生物が這いずっているみたいだ。そう思った途端、それが比喩でも何でもないことに気づいた。
那津は、人類にとって未知なる生物に違いない。
頭の中がだんだんと明るく白んでいく。けれど、肝心の部分は放り出されたままだから、イくにイけない。那津の指を咥え込んだまま、そこを放置され続けて勝手に腰が浮いてくる。
苦しい。早くイきたい。
喘ぎながらそう思った瞬間、那津は中を犯したまま、ダラダラと先走りをこぼしていたそこを握りしめて何度か扱いた。ぬちぬちと水音が響いて、何かが爆ぜる感覚に襲われる。天地がひっくり返るような目眩がした。
「あ、やッ、ああ……あ!」
ドクドクと先端から勢いよく熱が飛び散っていく。何度かに分けて放出されたそれは、那津の身体を濡らしてしまう。 ずるりと引き抜かれた指の感覚にまた喘いで、荒く息をついた。ちゃんと達したはずなのに、火照りは収まる気配がない。 ぐったりと弛緩していく身体の内側には、まだ快感が渦巻いている。 頬に触れる空気が冷たい。那津がここに来てからというものの、室内がやけに湿っている気がした。
「うん、感度がいいね」
そう言って那津は俺に覆い被さり、満足げに微笑んだ。前髪が額を優しく撫でる感触に、じわりと身体が疼いてまた吐息がこぼれる。
「ねえ、ひかる。自分が今どんな顔をしてるかわかる?」
意地悪な言い方だと思った。力なくかぶりを振れば、魅惑の瞳がゆらりと光を湛えて煌めく。
「すごく発情してる顔」
何だよ、それ。 言い返そうとした言葉は唇で封じ込められる。当たり前のように挿し込まれた舌を、俺は無意識に舌で絡め取って吸っていた。 さっき果てたばかりなんだから、満足していたっていいはずだ。なのに、もう新しい熱が生まれて体内に滾っている。 口の中がぬるぬると唾液で満たされていく。こんなことが気持ちよくてたまらない。全部が性感帯になったみたいに、与えられる刺激を余さず拾って反応してしまう。
「……ん、は……ッ」
胸の突起を摘ままれて、ピクリと身体が戦慄く。中が意志とは関係なくギュッと動くのがわかった。
「いい子だ」
那津は唇を離すと、頑張った子どもを褒めるようにそう囁いて身体を起こした。その両手が履いていたハーフパンツを下ろした途端、ぷるんと勢いよく昂ぶりが飛び出してくる。 他人のものをこうして至近距離でまじまじと見るのは初めてだった。テラテラと濡れて光るそれは俺のものよりもずっと大きくて、ひどく淫猥だ。
那津は本気で俺と最後までするつもりらしかった。もしかすると俺は、宇宙人とセックスをする最初の人類になるのかもしれない。
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