胸の頂を口に含むと、吐息が漏れる。
舌先で転がせば、赤く熟れた小さな果実が健気に快楽を主張してピンと勃つ。
「あ……蒼ちゃ……」
後孔の入口を指でぐるりとなぞると、楓は身を捩らせた。
「挿れて……」
涙目で訴えられて指をゆっくりと挿入すると、中は既に潤っていて、容易く異物を飲み込んでいく。
それが別の男とした行為の余韻であることは疑いようもなかった。
ーーー苛ついた。
「……あっ! や、あぁ……ッ」
指を3本に増やして一気に突き立てると、楓の身体が跳ねた。
バラバラと指を動かしながら奥を刺激すると、楓の中は悦んで締め付ける。
「や……ダメッ、すぐ、イッちゃ……んっ」
唇で言葉を塞いで楓の一番弱い部分を執拗に刺激していくと、くぐもった声と共に身体が小刻みに痙攣した。
「は……っ、あ、ぁ…ッ」
唇を離せば楓が息を吐きながら抱きついてくる。
「ん……蒼ちゃん。中、ヒクヒクしてる……」
熱を含んだ囁きが、耳朶をいたずらにくすぐる。
「蒼ちゃんの、ちょうだい」
楓の額に色素の薄い伸びた前髪が張り付いている。それを掻き上げながら顔を覗き込むと、楓は嬉しそうに笑いながら脚を開く。
その間を割って、とうに復活したものの先端を後孔にあてがうと、吸い込まれるように奥へと沈めていった。
「あぁ……っ、あ、ふッ」
ゆっくりと最奥まで挿れると、中がねっとりと絡みつきながら更なる快感を求めて蠢く。
楓の中は、いつも熱くて。一旦咥え込めば、最後まで離さない。
報われない愛への不満を、楓は俺との行為で発散してるらしかった。
そうやって俺を捌け口にして精神のバランスを保とうとしてることに、自分ではきっと気づいていない。
「あ、んっ、アァ……っ」
細い腰を抱えるように持ち上げて深く挿入すると、中の締め付けが一層強まった。
そのままじっとしてると、楓は目を開けて俺を見上げる。
「……動かないの?」
そう言って、ユサユサと自分で軽く腰を動かし出す。繋がってるところが擦れる度に小さな熱が生まれては重なる。
「蒼ちゃんってさ」
快楽に潤む瞳が官能的に揺らめく。
「普段クールで淡白っぽいのに、エッチのときはいやらしくて激しかったりするよね。そういうとこ、好き」
好き。楓はそう簡単に言葉にするけど。
「はいはい」
俺は適当に受け流す。腰を両手で抱えたまま突き上げるように揺さぶると、悲鳴のような嬌声がこぼれた。
「あ、ん、あっ! 蒼ちゃ……ダメッ!」
激しいところが好きだと言っといて、ダメだなんて我儘を言う。
欲の滾るままに腰を打ち付けていくうちに、中が激しく収縮しながら俺を強く締め付ける。
楓のものが触れてもないのに白濁を放った。
「あ…あ……っ」
余韻に揺蕩いながらベッドに身体を預ける楓を、俺はそっと抱き締める。
「……汚れちゃうよ」
掠れた声でそう言う楓は、それでも嬉しそうに見えた。
「どうせもうベタベタだ」
汗と体液に塗れながら、俺は律動を再開する。楓の熱に飲まれて高みへ昇り詰めるのにそう時間は掛からなかった。
シャワーを浴びて部屋に戻ると、先に出たはずの楓の姿がなかった。
掃き出し窓がガタリと動いて、ベランダから楓が入ってくる。
「帰ったのかと思った」
「帰るわけないじゃん。一緒に寝よ」
俺の部屋着に身を包んで、もうベッドに転がっている。
「あー、なんかスッキリした」
幸せそうに笑う楓の横に俺は滑り込む。
「楓。俺、女ができたんだ」
さりげなくそう言うと、楓は一瞬表情を曇らせた。
「……じゃあ、彼女が来てるときは遠慮しないとね」
花が咲くように笑って、言葉を続ける。
「俺のこと、浮気だなんて思わないよね。男同士はノーカンだし」
軽い口調で言ってるものの、不安げな瞳をしてることに、俺は気づいてる。
俺がどうして女を作ったのかなんて、楓はきっと考えない。
こんな危ういバランスの関係が、いつまでも続くはずがないのに。
「別にいいよ。楓の好きにすれば」
俺の答えを聞いて、楓は嬉しそうに抱きついてくる。
窓の外にはきれいな月が見えていて、楓が外に出ていたのはあれが見たかったからかもしれないと思った。
青みがかった半月に、満たされることのない想いを馳せて。
楓と俺は、形の違う半月同士なのかもしれない。
「蒼ちゃんのそういうとこ、好き……」
楓が満足げに微笑んで目を閉じる。
いびつな部分を強引に重ね合わせながら、俺たちは夢の中に堕ちていく。
fin.
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