PLASTIC LOVE[2/3]

男同士だからってデートが特段変わってるかというと、多分そんなことはない。少なくとも俺の場合は、何も変わらないと思う。

お互いに観たいと思ってた映画があるから一緒に行くことになって、待ち合わせたのはいいけど上映時間にはまだ早いから、適当に時間を潰そうと繁華街をあてもなく並んで歩く。
映画を観たらどこか適当なところで食事して、多分その後ホテルに直行してエッチする。明日の朝の予定がないかを訊かれたから、そのまま1泊するつもりなのかもしれない。

雑踏の中だからまあいいかなんて思ってそっと手を繋いでみれば、ちゃんと握り返してくれる。そういう反応を返されると、何となく安心できて嬉しい。
違う大学の、ひとつ上の人。2週間前に始まったばかりのレンアイにワクワクしてる。付き合って間もない時期が1番愉しいと俺は思う。上澄みだけを掬って口にする、そんな関係がおいしくて気持ちいい。

「楓って、ああいうの似合いそうだね」

「ん、どれ?」

指をさすその先に見えるのは、高級ブランドのショウウィンドウ。細身のジャケットとパンツを着たマネキンの首元には、ブルーのグラデーションがきれいなストールが巻き付けられてる。

「そうかなあ。でも、そんな高いの俺には似合わないよ」

うん、確かにいいと思う。でもこのブランドの商品は学生が簡単に買える値段じゃないのは知ってる。

「ゆうくん」

ふと背後から聞こえてきた声に、繋いでいた手がパッと外れる。その慌てた調子に嫌な予感がして振り返れば、知らない女の子が嬉しそうな顔で俺たちを見てた。
同年代ぐらいのかわいい子だ。流行りのアイドルを意識したようなふわふわした服装に、一見ナチュラルだけどパッチリしたアイメイク。へえ、かわいいじゃん。俺の好きな感じじゃないけど。

「わあ、やっぱりそうだ! ねえ、今日バイトって言ってたよね?」

突然現われたその子を前に、俺の隣でこれ以上ないぐらい焦ってる様子が手に取るようにわかった。

「ああ、うん。急に休みになってさ」

「なんだあ。連絡くれればよかったのに。ゆうくんが誰かと歩いてるのが見えたから、もしかしたら浮気してるのかなって、すごくドキドキしたんだから!」

ちょっと舌足らずの甘えた声。あー、こういう女の子がタイプだったんだなあなんて、青褪める“ゆうくん”の顔を見ながら俺は妙に冷静に考えてた。

「でもよかった、男の子で。ゆうくんにこんな芸能人みたいな友達、いたんだね。知らなかった」

うん、本当によかった。今なら全然引き返せるしね。

「へえ。俺こそ、祐にこんなにかわいい彼女がいるなんて知らなかった。さっき偶然会っただけだし、俺もこれから約束があるんだよね。このまま2人でデートすればいいじゃん」

俺の言葉に女の子が満更でもない様子で笑ってる。大丈夫。ちゃんと返してあげるからさ。

「いや。楓、ちょっと」

引き止めようとする祐に、俺はそっと首を振る。修羅場なんてごめんだった。
踵を返そうとしたその時、唐突に低く艶やかな声が俺の名前を呼んだ。

「 ──── 楓」

振り返れば、そこにいるのは知らない男の人だった。
背が高くて、びっくりするぐらいきれいな顔をしてる。年は幾つぐらいだろう。30歳前後かな。
とにかく、全然見覚えのない人だ。こんなに目立つ人、会ったことがあれば忘れるはずがない。

「ほら。行くぞ」

だけどまるで当たり前のように差し出された手を、俺は縋るように取ってしまう。

「うん」

繋いだ手は、大きくて頼もしい。
ぽかんと口を開けてこっちを見る祐の顔をちらりと見てから、俺は手を引かれるままにその場を立ち去った。


*****


「助けてくれてありがとう」

声を掛けられた場所からすぐ近くのカフェの中で、冷たいカフェラテを注文してからそう言うと、その人は目を細めて俺の顔を正面から見据えた。
うわ、何かドキドキするんだけど。

「いい余興だったな」

そう言って薄く笑う。皮肉っぽい言い方だけど、瞳は優しい。
助けてくれたお礼にと思って勢いで誘ったのはいいけど、これって俺がナンパしたみたいになってない?

いや、結構タイプなんだけどね。失恋した矢先にそんなことを考えてしまうなんて現金なのはわかってるけど、それぐらいこの出逢いはインパクトが強かったし、目の前の人は魅力的だった。
結婚指輪はしてない。見た感じは、ちょっと遊んでそうだ。こんな人なら、きっと相手には困ってないんだろうな。

「………悪いが」

低くて心地いい声が、滑らかに言葉を紡いでいく。

「間に合ってるんだ」

値踏みするように見てたのもしっかりバレてたらしくて、舌を巻いてしまう。

「ホントに何でもお見通しなんだね。心の中が読めるの?」

思わずそう言うと、俺を見る瞳にゆらりと優しい光が浮かんだ。その色が、ほんの少し薄いことに気づく。
淡い茶色をした瞳は、光を反射してキラキラと輝く。すごくきれいなんだけど、カラーコンタクトかな。

「だって、俺の名前も知ってたし」

「連れの男が呼んでただろう」

あ、そっか。
種を明かされてみれば簡単なことだった。それでも、よく人を見てるんだなと感心する。


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