RIMLESS FREE[1/5]

「伊吹、気持ちいい?」

ぐちゅぐちゅと派手な水音に混じって聞こえてくる声は嫌になるぐらい甘く熱っぽい。
四つん這いになって指を突っ込まれて、額をシーツに押しつけながら散々喘がされて、それでもこんなんじゃ物足りないとか思ってる自分がマジでどうかと思う。

気持ちいいに決まってんだろ、と言ってやりたいけどそんな余裕はもう全然残ってない。

「ん、あっ、あぁ……ッ」

ぐるりと中を掻き混ぜる指先が一番敏感なところを刺激する。腰に回された腕にがっちりと動きを封じ込められて、与えられる快楽には逃げ場がない。いつものことながらびっくりするほど簡単に瀬戸際まで追い込まれていく。

「や……、イく……っ」

背中に覆い被さってきた身体の熱さを感じた途端、身体に籠っていたものが弾けてしまう。ビクビクと何度も収縮する中が咥え込む指を締めつけるのを感じながら、荒く息をついて引いていく波に身を委ねた。

「は、あ………」

ずるりと引き抜かれる感覚に情けない声が漏れる。何も入ってない状態がフツウなのに、なんでこの瞬間はこんなにも足りない気分になるんだろう。
背中に触れる衣服の感触に、なんで俺だけ裸でお前は脱いでないんだよと文句のひとつも言いたい気分だった。

「ああ、こっちはまだか」

ぐるりと身体を反転させられて、組み敷かれる。レンズ越しに見下ろす視線の先には、今にも破裂しそうなぐらい張り詰めた俺の半身が心許なく揺れていた。そう、こっちはまだだから苦しいんだって。

「海里、早く」

腕を伸ばして一言そうねだれば、察したのか少し前屈みになってくれる。ようやく届いた眼鏡のフレームに指を掛けてそっと外してしまえば、その下から俺の大好きな素顔が現われた。

縁のないこの眼鏡をリムレスと呼ぶんだって教えてもらったのはいつだっただろう。
いや。いつ、どっちが、教えてくれた?

いろんな記憶が時折ごちゃ混ぜになるのは、お互いの家が向かい同士で幼馴染みで、しかも海里には双子の兄がいるからだ。

ドクドクと鳴る心臓の音がうるさい。眼鏡を枕元に置いて首の後ろに手を回し、こちら側に頭を引き寄せる。触れ合う唇がもどかしさを感じる前に、舌を差し伸ばして唇の隙間から侵入していく。

口の中って何でこんなに熱いんだろう。捕らえたはずの舌先はぬるりと逃げて、今度はこっちに入ってくる。歯列をなぞり、上顎をくすぐられて、攻めたつもりがいつの間にか逆転してる。いつも主導権を握ってくるところが気に喰わない。
腹立ち紛れに両手を伸ばして海里の着ているシャツのボタンを外していけば、ゆっくりと唇が離れていった。絡み合う視線の先にあるのは憎らしいぐらい愉しそうな微笑み。

「がっつくなよ、エロガキ」

「うるさい、不良公務員」

このきれいな顔で、このふてぶてしい性格で今付いてるのが役所の窓口サービスだというんだから世の中は間違ってる。愛想を振りまきながら、戸籍謄本だとか住民票の写しだとかを交付するのが仕事らしい。それだけじゃないって言うんだけど、そんなのはどうでもいい。自分が窓口に立つと回転率が悪くなるというのが海里の言い分だ。そういうところもムカつく。

ぼんやりとそんなことを考えてる間に着ているものを全部脱いだ海里が、濡れた瞳で静かに俺を見下ろす。ああ、悔しいけどその顔はやっぱり好きだ。

両脚を掲げられ、ぬるりと後孔に先端があてがわれる感覚に息をつく。たったそれだけで身体の内側が痺れたように疼くのは、俺がこのいけ好かない幼馴染みの掌の上で転がされて培われた条件反射だ。

「あ、早く………」

ふくらはぎに唇を押しあてられて、チクリと刺すような痛みを覚える。妙な痕を付けたらあとで怒るからな、と心の片隅で唱えた文句は与えられた快楽に流されてすぐに立ち消える。

「 ──── あ、あぁ……ッ」

ずん、と勢いよく奥まで貫かれて腰が砕けそうなぐらいに感じてしまう。息をつく隙もなくリズミカルに揺さぶられて、思わず閉じてしまった目を必死に開けて両腕を伸ばす。
前屈みになったその背中に腕を回して抱きついて、不自然な体勢でガンガン突かれる度に抑えきれない上擦った声がこぼれてしまう。
擦れる部分からゾクゾクとした感覚が生まれる気持ちよさに頭の中がぐちゃぐちゃになっていく。ぼんやりとした意識に乗せて口にするのはバカみたいな告白。

「………万里、好き、万里……」

ああ、本当にバカみたいだ。顔が同じだっていうだけで中身は違う人間なのに、俺は海里をこうして行き場のない想いの捌け口に利用してる。

「ん、好きだよ。伊吹」

適当に合わせてくれてるだけなのはわかってるのに、吐息交じりに耳元でそう囁かれることが嬉しくて仕方ない。回した腕をほんの少し緩めてからまたしっかりと抱きつく。触れ合う肌を重ね直した途端、俺は堪え切れず半身から熱を迸しらせていた。





澤村万里と澤村海里は、我が家の向かいに住む双子の兄弟だった。うちの母さんは俺が小さな頃から病気で入退院を繰り返していたから、俺は気のいい澤村家の人達に甘えて育ってきた。まるで1番下の弟のように家に入り浸って、食卓もしょっちゅう一緒に囲ませてもらってた。7歳上の万里と海里は頭も顔も面倒見もよくて、一人っ子の俺は自慢の兄が2人いる気分で毎日を楽しく過ごすことができた。

万里と海里は一卵性双生児で同じ顔をしてるけど、性格は全然違う。真面目で優しいのが兄の万里で、チャラくてちょっと嫌味なのが弟の海里だ。
海里にからかわれた俺をいつも庇ってくれるのが万里だったから、俺は子どもの頃から断然万里の方が好きだったし、カルガモの子のように後をついて回ってた。


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