K00 : prologue[1/2]


人の心は月の満ち欠けみたいだ。

誰かに対する想いって、ずっと一定じゃなくて毎日少しずつ変化していく。

満ちていったり欠けていったり。長い間同じではいられない。

だから俺は永遠の愛なんて信じない。

抱き合いながらの『ずっと好き』だとか。

セックスの最中の『愛してる』だとか。

そういう言葉も、その場の盛り上がりで口にしてるだけだって、ちゃんとわかってる。

世界は変化を続けながら流転する。

その中で、誰かをずっと好きでいることなんてありえない。

それは俺が1番よく知ってるんだ。




「あ……ぁ……ッ」

奥の1番感じるところを指で執拗に刺激され続けて、何度も果てた身体はもう違う熱を欲しがってる。

「あ……っ、お願い……」

息も絶え絶えに言いながら腕を伸ばして目の前の身体にしがみつく。

覆い被さるようにキスをされて、それに応えて吐息を漏らしながら口を開けば温かく濡れた舌が入ってくる。

「ん、ん…ふ……っ」

指先で引っ掻くように奥を擦られて跳ね上がる身体は、深い口づけと共にベッドに押さえつけられる。

縺れ合うように絡まる舌から感じる刺激も俺にはもう焦れったくて、堪らずに顔を逸らして催促してしまう。

「はや、く……ッ」

いつもこうだ。

限界まで追い詰めて、この人は俺が心底欲しがるのを虎視眈々と待ってる。

サディスティックな一面は、肌を合わせなければ絶対に知ることはなかっただろう。

「ちゃんと言ってごらん、楓」

俺の中で快楽を引き出すためだけに蠢いていた指がゆっくりと引き抜かれて、浅いところをくりくりと小さく動き出す。

そのもどかしさに上擦った声が漏れていく。

「あ、あ……多田さん……ッ」

「楓」

咎めるように名前を呼ばれて、俺はうっすらと目を開ける。

伸び過ぎた前髪の隙間から、端正な顔が見えた。

普段はセックスなんて生殖行為だと言わんばかりに理知的で穏やかな雰囲気。なのに、身体を重ねるときは艶やかな瞳で俺を見て、余裕たっぷりに微笑む。

それでも俺の中に入るときは、いつも息をつきながら快楽に顔を顰めてくれる。

その顔が見たくて、ただそれだけのためにこの関係を続けてるのかもしれない。そんな錯覚さえ起こしてしまう。

「遥人(はると)、さんの……挿れて」

素直に呼べない名前を駆け引きの末に口にすれば、その先にはぬかるんだ快楽が待ち構えてる。

「───ああ、あッ」

腰を浮き上げるように抱えこまれたかと思えば疼きの止まらない後孔に熱い昂ぶりをあてがわれて、ゆっくりと挿入されていく。

なのに、欲しくて欲しくて堪らなかったものは、浅いところでピタリと動きを止めてしまう。

「……や…っ、はる……と、さ……」

じりじりと灼けつくような熱さが、欲しい快感を得られる手前で留まってる。

これ以上焦らされたら、きっと頭がおかしくなる。

全部を飲み込みたくて手繰り寄せるように自分で腰を動かしていけば、愛しい人は小さく息を吐きながら俺に笑い掛けてくれる。

「楓、かわいいね」

その笑顔に、心臓がドクリと大きく跳ね上がる。

ちゃんと俺のことを欲しがってもらいたくて、甘ったるく零れる吐息混じりに必死に訴えかける。

「奥まで、挿れて……」

求めてるのは俺だけじゃないって安心させてほしいから。

遥人さんは少しだけ目を細めながら手を伸ばして、俺の顔に触れる。

火照った頬を少し冷たい掌が包み込むように何度も撫でていく。

過敏になった身体はそんな刺激にさえ反応してしまって、背筋をゾクゾクと快感が駆け抜ける。

「……ふ、あっ」

浅い呼吸を繰り返しながら身体の震えを押さえつけようとじっと堪えてたら、そんな俺を見つめる遥人さんの瞳にゆらりと焔のような熱が滲んだ。

「楓……」

「はる、と…さん……」

視線を絡ませながら、大好きな名前を囁く。
本当は、いつも名前で呼びたい。

でも、言葉には力があるから。大好きな名前を口にし続ければ、きっと俺はもっと深みに嵌ってしまう。

こんな関係が、永遠に続くわけじゃない。

だから、少しでいいんだ。

愛し合うこのひと時だけ赦されれば、それでいい。

その顔に浮かぶきれいな微笑みにうっとりと魅入れば、次の瞬間、腰を勢いよく引き寄せられて一気に奥まで貫かれる。

「───あぁ、あ……ッ!」

肌が打ち付けられたその弾みで、散々焦らされ続けた前から熱が迸った。

痙攣する身体に白濁が派手に飛び散る。

荒い呼吸を塞ぐように遥人さんが俺を抱きしめてキスをしてくれる。息苦しくて、なのにそれがすごく気持ちよくて、くぐもった声が鼻に抜けていく。

合わさる肌が、俺の放ったものでぬるりと滑る感触に肌が粟立つ。

ちょっと痛かったり苦しかったりするぐらいが気持ちいいかもしれない。そんな自分の性癖に気づかされたのは、この人とこんなことをするようになってから。

身体の力が抜けてしまってぐったりとベッドに身を預けたまま、与えられるキスを堪能する。

口を開けて息を漏らしながら舌を絡めているうちに抽送が再開されて、湧き起こる波にまた下肢が震えだす。

初めの幾度かは、様子を窺うみたいにゆっくりと。緩やかな動きに合わせて中で泡立つような濡れた音が鳴って、その度に快感が全身を這いずり回る。



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