温かな吐息が唇をくすぐる。少しずつ、少しずつ。2人の距離が、縮まっていく。
「この子と、もっと一緒にいたいと思った……」
その名を唱えようとした唇が、優しく塞がれる。
ようやく触れ合えた唇が離れないように。押しつけるみたいにしっかりと抱きつく。わずかに空いた隙間から入ってきた滑らかな舌を、悦んで受け容れる。
熱くて柔らかくて、蕩けそうなキス。緩やかな口づけを交わしてるだけなのに、お互いの昂ぶりがふたつの身体の間で抑えの効かない欲情を主張してる。
多田さんが俺のことをそんなふうに想ってくれてたことが、本当に嬉しくて。
何度も角度を変えて深いキスを繰り返してるうちに、自然と笑みが零れてしまう。
俺は今、してはいけないことをしてる。
それは、多田さんのことでいっぱいになってても、頭の片隅でわかってた。
多田さんには、大切な人がいる。
それでも、今の俺にはこの人が必要だし、もう欲しくてたまらないんだ。
今だけでいいから。この人を、俺のものにしたい。
言い訳のようにそう思いながら緩やかに舌を絡め合えば、甘い吐息が漏れる。
温かな掌が滑らかに背中をさするように降りて腰に触れ、その下の曲線を辿ってから、ゆっくりと前に手が回された。
するりと滑り込んできた掌に包み込まれたそこは、もう期待に熱く濡れそぼってる。
「……ん、ふ……、んっ」
ずっと待ち侘びていた感覚を与えられたことが嬉しくて、優しい感触の掌にそこを押し付けるように、自然と腰が揺れてしまう。
握り込んだその手に不意に力が篭ったかと思えば、急に快感を最大限まで引き出すように巧みに扱かれていく。
高いところへと導かれていく感覚に翻弄されて、どうしても我慢できなくなった俺は唇を離して顔を背ける。
必死にしがみつきながらその胸に震える身体を押しつけ、押し寄せる波に飲まれて溺れていった。
「───あぁ、あ……、も、イク……ッ」
限界を超えて弾けた熱が断続的に迸って、それに合わせて何度も声が漏れる。
身体中をやるせなく廻り続けていた欲の渦からようやく解放されて、快楽の余韻は心地よく後を引きながら俺をふわりと包み込む。
荒く息をつきながら目を開ければ、艶やかな笑みを浮かべた多田さんが俺の顔を見下ろすように覗き込んでいた。
「かわいいね」
どくりと高鳴る胸を刺すように魅惑の眼差しが注がれて、その唇から零れる次の言葉が俺に追い討ちをかける。
「 ─── 楓」
うわ、呼び捨てにされた。
甘い声で名前を呼ばれればまた心臓がキュッと縮まって、激しい鼓動はもう止まりそうにない。
多田さんは起き上がって俺が吐き出した白濁を掌から中指で掬い取る。
屈み込んだ多田さんに唇を軽く啄ばまれて、小さく音を立てながら何度もそれに応えていく。不意に濡れた指をそっと後孔に押しあてられる感触がした。
「───ん、……っ」
触れるが触れないかの手つきで優しく円を描きながらなぞられて、時折真ん中の窪みを軽く押さえられる。
自分の中からじわりと何かが浸み出していくみたいだ。
もっと強い刺激が欲しくて、涙が滲んでくる。意志とは関係なく疼く中は、質量を求めて自分でもわかるぐらいにいやらしく蠢いていた。
「や、あっ……、多田さ……」
なんて意地悪な人なんだろう。でも何をされたって愛おしさが増していくばかりだ。
こぼれる喘ぎ声のトーンは高くて、こんなにも余裕がないことが恥ずかしくて。
じわじわと与えられる快楽を必死に断ち切って強引に起き上がれば、多田さんはちょっとびっくりしたような顔をした。
「どうしたの?」
ああ。ただ見つめられるだけで、どうしてこんなに胸が高鳴るんだろう。
この人が俺のことを求めてくれてるなんて、大袈裟じゃなく奇跡だと思った。
「俺も多田さんのこと、気持ちよくしてあげたい。俺だけよくしてもらってるなんて、ダメだよ」
熱に浮かされて掠れる声を絞り出すようにそう言えば、多田さんは何も言わずに少しだけ目を細めて魅惑の微笑みを浮かべる。
甘やかな情欲の滲んだその眼差しに、俺は容易く囚われてしまう。
目線を合わせたまま唇を重ねて軽く舌を絡ませながら、多田さんの上体に体重を預けるようにゆっくりと押し倒した。
息継ぎをするみたいに、何度も唇を離しては重ね直して。唇も、舌も、肌も。合わさる部分から感じたことのない感覚が生まれては全身をやわやわと刺激するように拡がっていく。
ただキスしてるだけでこんなにも気持ちいいなんて、嘘みたいだ。
終わらせるのが名残惜しくて小さな吐息を絡ませるように唇を離していけば、そんな俺を見て多田さんが優しく微笑む。
余韻に酔いしれながら、俺は多田さんの首筋に唇をそっと押しあててみる。
キスを落としながら首筋から鎖骨を辿り、きれいに筋肉の付いた胸もとに舌を這わせる。脇腹に軽く吸い付けば、多田さんはそっと息を吐いて俺の頭を撫でてくれた。
欲しかったものをようやく手に入れた子どもみたいにくすぐったい気持ちを抱きながら、丁寧に身体を辿っていく。
そのまま下の方へと降りていけば、硬くそそり勃つものが目の前でしっかりと欲を主張してた。
ちゃんと欲情してくれてるんだと思うと、すごく嬉しくて。
掌で包み込むように握りしめて、ちゅ、と音を立てて先端にキスをする。
そのまま大きく口を開けて舌を這わせながらゆっくりと奥まで含んでいけば、俺を煽るように大きな熱い塊が口の中で生き物みたいにピクリと動いた。
根元の辺りを握って上下させながら、軽く吸い上げるように扱いていくうちに、頭上から快感を逃がすように息を吐く音が聴こえてくる。
早く挿れてほしくてたまらないけど、その前に多田さんを気持ちよくしてあげたいと思った。
俺がどれだけ多田さんのことを求めてるかを、ちゃんとわかってもらいたくて。
そっと顔を上げて様子を窺えば、こちらに向けられた静かな眼差しが、ゆらりとくゆるように揺らめく。
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