Stigmatic Kiss side A - introduction -[5/9]


そっと口から引き抜きながら、最後の一滴までを搾り取るように先端を吸い上げる。

身体を起こしてから何度かに分けて口の中のものを嚥下すれば、特有のにおいが鼻を抜けていった。

この何にも例え難い苦味が、僕は嫌いではなかった。

セックスは、他者と自分の境目を融かす行為だ。

こうして身体から放たれたものを僕の中に入れることに、むしろ堪らなく興奮する。


「アスカ、おいで」


仰向けになったユウに誘われるまま覆い被ると、腰を引き寄せられてまたキスされる。

甘くて苦い口づけは、即効性のある媚薬のように僕の情欲を駆り立てていく。

熱い身体を抱きしめられて舌先で優しく唇を舐められれば、背筋がまた小さく震えた。

起き上がったユウは反転しながら僕の肩をベッドに縫いつけるように押し倒して、サイドボードからおもむろに取り出したボトルを逆さまにして手の内に中身を零していく。

少し粘度のある透明な液体を転がすように掌で暖めながら、ユウは僕の顔を見下ろしてそっと微笑んだ。

見えない糸で縛り付けられて仰向けになった僕は、ぼんやりとしながら高鳴る鼓動の音に耳を澄ます。

視界が小さく揺れるのは、知らず知らず瞳が潤んでいるからだ。

きっと物欲しげな顔をしているのだろうと思うけれど、自制することができない。

欲しくて堪らずに疼いているところがユウから見えるように、僕は恐る恐る脚を開いていく。

途端にそこへと纏わりつく視線を感じながら声には出さず眼差しでねだれば、伸ばされた指先で後孔の周りをそっとなぞられた。

ぬるりとした感触に、息を吐く。


「あ、あ……ッ」


与えられるもどかしい刺激に、はしたない声が漏れだす。そんな僕を煽るように、指先がひだをなぞり円を描く。

時折窪みに嵌るそれは、中に入ってくるかと思えば次の瞬間には余韻を残したまま離れていく。焦らすような動きに下肢がじんじんと痺れて、苦しさに涙が滲んできた。


「あ、ユウ……、挿れて……」


我慢できずに腰を揺らしてそう訴えれば、ユウはその言葉を待ち受けていたかのように軽く口角を上げた。

小さな圧迫感を伴いながら、長い指が少しずつ僕の中に入ってくる。

中の熱を確かめるかのようにぐるりと掻き回されて、思考を蕩けさせる刺激に腰がピクリと跳ね上がった。


「……ん、あ…ぁ…ッ」


奥を引っ掻くように指先が曲げられて、思わず大きな声が零れる。

深く、浅く。内側を侵食していく感覚が、僕の官能を喚起する。

でもまだ、足りない。もっと確かな熱が欲しい。

自ら腰をくねらせて動きを促せば、やがて1番感じる場所を的確に擦り上げながら抽送が繰り返されるようになった。

湧き起こる快楽は、僕を甘く犯していく。


「あっ、も、イキそ……ッ」


頭の中が次第に白んで、強張った下肢がぶるぶると震えだす。

シーツを掻く手に濡れた手が重ねられて、その暖かさに安堵した途端堪えきれず達していた。


「……あ、あぁ…っ、ん、は……ッ」


咥え込んだ指を締めつけながら、中は収縮を繰り返す。体重を掛けないよう覆い被さってくる身体に、僕は両腕を回していく。

その確かな存在を確かめたくて、強くしがみつきながら押し寄せる余韻に浸った。

ぼんやりとした意識を抱えたまま少し身体を離せば、乱れた呼吸を閉じ込めるように唇を塞がれる。

このまま息の根が止まってしまえばいい。甘美な誘惑に一瞬だけ意識が流されては、泡のように消えていく。

短いキスを終えた唇はすぐに耳元へ滑り落ちて、耳下から首筋を降りていった。

ずっと僕の中に入ったままだった指が、再び中でゆっくりと動き始める。

爆ぜた後の身体はまだ熱を籠らせていて、そんな緩やかな動きにさえ敏感に反応してしまう。


「……あ、あ……」


首筋をきつく吸われて、チクリとした刺激に思わず声を漏らす。

顔を離したユウは僕の目の前で艶やかに微笑んで、今まで唇をあてていたところに指で触れた。

何度も、何度も。確かめるように。

それで僕はようやく気づく。ユウが、僕に所有印をつけたことに。


「ユウ……」


すぐには、信じられなかった。

びっくりして、まじまじとユウを見つめてしまう。

そんな僕の瞳を覗き込みながら、ユウはまた中に挿れている指で奥をぐるりと掻き混ぜていく。

そこから生まれる気持ちよさに小さく息を漏らせば、ユウは首筋の一点を愛おしげに撫でて、僕の名を呼んだ。


「アスカ」


さらりとした髪が頬に触れて、また唇を啄ばまれる。

今まで幾度も身体を重ねてきたけれど、ユウは僕の身体に痕のつくようなことをしたことがなかった。

それはきっと、僕がユウと契約した人のところへ行かなければならないからだ。

そして、僕が契約した相手の元から愛された痕跡をつけてここへ戻ってきたときは、いつもそれが消えるまでユウは誰とも契約を交わすことはなかった。

まっさらな状態で、僕の4日間を買ってくれた人のところへ行く。その僕が誰かに抱かれた証を付けた状態でここを出ることは、あってはならない。少なくともユウはそう考えていたに違いなかった。

もう一度唇が首筋を降りて、舌先が肌をなぞっていく。そんな微弱な刺激にさえ反応して、僕は何度も息を吐く。

目を閉じてゆっくりと抽送を繰り返す指の感覚を追いかければ、頭の中は白く官能に染まっていく。鎖骨の辺りを強く吸われて、その熱さにまた身体がわなないた。


「ん……ッ」


肌に唇が触れる度に、身体の芯が快感に震えてしまう。



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