the 2nd day[18/18]

ぼんやりと俺を見つめていたハルカの目が一段と大きくなる。そんなことを言われるなんて、思ってもみなかったんだろう。

「俺も、多分そんなに保たないから。少しの間だけ、噛んで声を抑えて。痕が付いても、血が出てもいい」

「タクマさん、何を……」

「ハルカの中でイきたいんだ」

まるで駄々を捏ねるガキみたいだったが、それが俺の本心だった。
ハルカは俺の顔を探るように見つめる。やがて躊躇いを振り切るように、ゆっくりと口を開けていった。
柔らかな果実をそっと咥えるようにハルカが俺の親指の付け根に軽く歯をあてると、硬い質感が肌に触れた。

「思い切り噛めばいいよ。痛くても大丈夫だ。ハルカがくれる痛みなら、俺は悦んで受け入れるから」

頭を撫でながらそう言い聞かせれば、ハルカは少し安心したような表情で頷く。舌がぬるりと皮膚を刺激するように動いてくすぐったい。

そのまま腰を押しつけて、俺は再びハルカの奥へと入っていく。ぞわぞわとした快感を経て最奥まで到達した途端、熱くただれた内壁が俺を強く締めつけてきた。途端にこのまま熱を吐き出したい欲が込み上げてくるのを必死に堪える。
ゆらゆらと緩やかな波を送り込むように、抱きしめた身体を揺さぶっていく。

「 ─── ん、ぅ、んん……ッ」

少しずつ速さを増す律動に合わせて、ハルカがくぐもった声を漏らす。弱い部分にあたるように奥深くを突き上げれば、細い身体が堪え切れずしなやかに跳ねた。

「ん、ふ……っ、あ……!」

「ほら、離したらダメ」

動きを緩慢なものに抑えて唇から零れた手を再び口元へと持っていくと、熱い吐息が皮膚を刺激する。ハルカは赤ん坊がするようにちゅるりとそこに吸いつき、また離した。キラキラと光る唾液が宙で糸を引いて滴り落ちていく。

ハルカが俺に対して遠慮していることは、手に取るようにわかる。けれどそんな思いやりはいらなかった。
俺はただ、確かなものが欲しいんだ。

汗に濡れた首筋に舌を這わせて辿れば、ハルカは小さく声を出して身じろぐ。いたいけな子どものように無防備な姿を曝け出すのが堪らなくかわいい。

「しっかり噛めばいいよ。痕が付こうが血が出ようが、そんなことは何でもない。むしろそうして欲しいんだ。俺にハルカの印を付けて」

苦しげな表情を見下ろしながらそう言うと、ハルカは目を閉じて呼吸を整えるように大きく息をついた。

「印………?」

「そうだ。ハルカと俺が今愛し合ってる、証だ」

言い聞かせるために、ゆっくりと言葉を唱える。美しい人は眩しい光をそっと見るように薄く目を開けて、前を向いたまま俺の言葉にただ頷いた。

「………うん、わかった」

掠れた声で呟いて、ハルカはもう一度さっきと同じところを咥える。今度はしっかりと歯があたる感触がした。

「いい子だね」

そう言って髪を撫で下ろすと、きれいな瞳で俺を一瞥する。心なしか恥ずかしそうで、けれど嬉しそうな表情だ。汗で貼りついた前髪を掻き分けて額に軽く口づけると、擽ったそうに吐息を漏らした。
何度か穏やかな抽送を繰り返してから、もう一度ハルカの感じる部分を狙って穿っていく。

「─── ん、んっ……」

ハルカの中は本当に気持ちいい。翻弄されるままに意識を快楽に委ねてしまえば、歯が皮膚に喰い込む感覚さえ快感にすり替わっていく。
絶え間なく背筋を這い上がってくる欲求を、もう押さえつける術がなかった。

「ハルカ、もういい?」

返事を待つつもりもない問いかけに、ハルカは律儀に頷く。その身体は必死に堪えるように小刻みに震えている。艶かしく曝け出された首筋に噛み付くように口づければ、ずっと恋い焦がれてきたあの匂いが鼻腔から流れ込んできた。
意識を擽られて呼び覚まされるのは、淡い夢のような感傷だ。

「 ──── っんん、ン、ふ……あぁ……ッ」

ひときわ締めつけが強くなって、内壁がビクビクと何度もうねりながら収縮を始める。痙攣する身体を強く抱きしめて最奥まで腰を打ち付けた瞬間、俺はせり上がってくる欲の全てをその中に放っていた。

特有の気怠さを伴う解放感に深く息をつく。
果てたばかりでぐったりとしたハルカはもう口から俺の手を離していて、荒い呼吸を繰り返しながら腕の中でじっと目を閉じていた。

「……大丈夫?」

心配になって顔を覗き込むと、うっすらと目を開けたハルカが俺をそっと見上げる。
その瞳はまだ情事の余韻に濡れていて、ドキリとするほど色っぽい。

「ん……、気持ちよかった……」

桜色の唇から吐息混じりに零れた言葉に、まだ中に埋めたままの半身が小さく疼く。ハルカは一体どれだけ俺を煽れば気が済むのだろう。まだ抱き足りない心地がして、飽くなき欲求を抑え込みながらそれを紛らすように軽く唇を重ねた。
唾液で濡れた自分の手に視線をやれば、くっきりときれいに歯型が付いている。

「ごめんなさい。痛かったね」

そう言いながら、ハルカは俺の手を取り、愛おしげにその部分を舐めていく。擽ったい感覚が小さな快感にすり替わって、俺は慌てて手を引っ込める。

「だから、そういうことをしたらダメだって」

咄嗟に思ったことを声に出せば、ハルカは顔を上げてきょとんとした表情を向けてきた。さっきまでとはまるで違うあどけない仕草につい笑ってしまう。

「またしたくなるから、ダメ。わかった?」

まだ赤く火照る頬に掌をあててそう言えば、ハルカは目を細めて眩しいほどにきれいな微笑みを返してきた。

「ハルカは優しいね。全然痛くなかったよ。もっと噛んでもよかったんだ」

こんな痕なら、すぐに消えてしまうだろう。
さらりとした髪を手で掬って頭を撫でてから、俺は枕元に手を伸ばした。何枚か取り出したティッシュペーパーを重ねて繋がった部分を押さえたまま、ハルカの中からゆっくりと半身を引き抜く。

「……ぁ、……っ」

吐く息に悩ましい喘ぎ声が混じる。濡れた後孔をそっと押さえて溢れ出す白濁を受けとめながら、俺は今更ながらミチルの存在を意識していた。

目を覚ましていたら、気づいたかもしれない。
壁の向こうにいることがわかっていたのに大人気なく自制心を飛ばしてしまったことを、俺は今更ながら後悔していた。やるせなく溜息をついたところで、もはやどうしようもない。
横たわるハルカの顔をそっと覗き込めば、うっすらと開いた瞼の下から覗く瞳に、鋭い光が宿る。

「ハルカ?」

異変に気づいて声をかける俺には目もくれず、上体を起こしたハルカは乱れた衣服を軽く整えてベッドから降りた。足を踏み出して、水面を歩くように静かに歩き出す。
まるで猫のような足取りで、明白に何らかの目的を持ってハルカは部屋の扉へと歩み寄っていく。
俺はただ、呆然とその後ろ姿を見守ることしかできない。
ドアノブに掛かった手が、扉を内側に引いた。

「 ──── ミチル」

開け放たれたその向こうで、いたいけな少年は何かに怯えるように膝を抱え込んで疼くまっていた。







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