the 1st day[10/20]

「……あ、っ……」


しなるように仰け反る背中を片腕で支えたまま、甘い匂いを辿って唇で細い首筋を下りていく。

何度も息を詰める気配を感じながら、くっきりと浮き出た鎖骨を軽く吸って舌を這わせた。


「タクマさん……、仕事は……」


途切れ途切れにそう口にするハルカのものに手を伸ばせばそこはもうしっかりと反応している。布越しにゆっくりと揉みしだきながら、耳元で答えを囁いた。


「最近、辞めたんだ。しばらくはハルカとずっと一緒にいられる」


だから、俺にはお前を逃がす隙なんてないんだ。


「 ─── っ、あ、あッ」


下着の中に手を挿し入れて熱い昂ぶりを直に握りしめれば、先端がうっすらと蜜を纏っているのがわかった。


「ハルカ、もう濡れてるよ。エロい身体してるね」


誰がお前をこんな風に躾けた?

そう訊きたいのを必死に堪えて、柔らかな耳朶を軽く食んでみる。腕の中の身体が小さくわなないて、力が抜けたように膝が折れた。


「あ……、タクマさ……っ」


するりとそこから手を引き抜いて、華奢な身体を両腕で抱き上げる。ハルカは思っていたより軽かった。そのままリビングのソファまで抱えていく。

寝起きからこんなに盛って、何やってんだ。

頭の片隅ではちゃんと冷静にそう思ってるのに、俺の身体はすっかり反応してしまっていた。

ソファの上にそっと寝かせて、体重を掛け過ぎないように気遣いながら覆い被さっていく。


「ハルカ、しようか」


意向を尋ねるような言い方をしたものの、返事を待つ気はさらさらなかった。答えを紡ごうとしたのかうっすらと開いた桜色の唇を、急いで塞いでしまう。

けれどハルカは躊躇いを見せることもなく、性急な口づけに応えてくれる。舌を絡めて唾液を混じらせれば、組み敷いた身体が焦れるように身じろいだ。

その全身から漂う甘い香りに酔い痴れながら、俺はハルカを貪り尽くすように愛していく。





『ここには4日間しかいられないんだ』


昨夜初めて愛し合った直後に、ハルカはそう言って儚く微笑んだ。


『4日経てば、僕はこの世界から消えてしまうから』


『冗談はよせよ』


薄く笑いながらそう諌める俺を、ハルカは憂いを帯びた瞳でじっと見つめる。


『多分、その時が来ればあなたにもわかるはずだ』






お伽噺の世界から出て来たハルカは、4日経てば泡になって消えていく。

そんなバカな話があるわけがない。

けれど今のハルカはもう、あの時自分がそんなことを言ったことさえ憶えていないかもしれない。

それを証拠に、こうして俺の熱を受け容れてくれている。


『お伽話のお姫さまが閉じ込められるのは、いつも塔のてっぺんだ』


昨夜ハルカが話していたことを、心の中で反芻する。

天国に近い場所。

ハルカは塔の上で叶わぬ夢を見ているのかもしれない。


「……ん、あっ……」


濡れて熱く蠢くハルカの中は、緩急をつけながら俺に絡みついてくる。ギリギリのところまで引き抜けば、それを拒むように切なげな声を漏らして僅かに繋がる先端をいっそう強く締めつけてきた。素直な反応を示す身体が、俺の欲望を煽っていく。


「ハルカ、一緒にイこう……ちょっとだけ我慢できる?」


そう言って顔を覗き込むと、今にも涙が溢れそうなほど潤んだ瞳で俺を見つめて、こくりと小さく頷いた。


「いい子だね」


柔らかな髪に指をうずめながら口づけて、身体の奥深くに楔を打ちつけていく。

合わさる唇の隙間から苦しげな喘ぎ声が漏れてきて、絡めていた舌をずるりと抜けば、それと同時に上擦る声が限界を訴える。


「 ─── タクマさ、もう……、あっ」


「ん、いいよ」


汗の浮かんだ額に軽く唇を押しあててから、必死にしがみついてくる華奢な身体をしっかりと抱きしめる。

ハルカのいる場所に追いつくように腰を動かすうちに、熱く熟れた内壁がドクリと一際大きく動いて収縮を始めた。


「……あぁ、ア、あ……ッ!」


その動きに引き摺られるように迸らせた欲を、緩やかな抽送と共に最奥へと流し込む。次第に力の抜けていく身体をベッドに預けて、ハルカは荒く息を吐きながら俺の名を口にした。


「あ……タクマさん……気持ちいい……」


焦点の合わない瞳を揺らめかせながらうわ言のようにそう漏らす姿が、かわいくて愛おしくて堪らない。

小さく開いた桜色の唇に、整わない呼吸を邪魔しないような軽いキスをする。

どうにかしてハルカを逃がさないように、この塔のてっぺんに縛りつけておきたい。

快楽に痺れた頭の片隅で、俺はそんなことを考えていた。






「ハルカ、料理が得意なんだね」


身体を重ねている間にすっかり冷めてしまったハムエッグは、口に運べば優しい塩加減で美味かった。トースト、コンソメスープ、サラダ。あり合わせのものでハルカが作ってくれた朝食は、身体を動かしたことで強く感じていた空腹感を満たすにはじゅうぶんなものだった。

ダイニングテーブルを挟んで俺の向かい側に座るハルカは、頬杖をつきながらこっちを見つめている。


「ハルカは本当にいらないの?」


「僕、朝は食べられないんだよね」


そう言って、ふわりとあどけない微笑みを見せる。何も食べずに朝からあれだけ動いておきながら腹が減らないなんて、俺には考えられない。


「大丈夫だよ、ちゃんとお昼は食べるから」


「無理なら朝は食べなくてもいいけど、その代わり昼はしっかりとらないと駄目だよ。ハルカは細いから、もうちょっと肉を付けた方がいい」



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