遮光カーテンの隙間から零れる朝陽が、柔らかく部屋を照らしながら僕たちを優しく包み込む。雲の上のような寝心地のベッドに横たわれば、久しく訪れることのなかった気怠い微睡みがゆっくりと僕の身体を巡っていく。意図的に極限へと追い込まなくても、ちゃんと休むことができそうだ。疲労の果てに倒れ込むように眠りに堕ちた日々が、終わりを告げようとしていた。僕は心の中に溜め込んでいたものをゆっくりと吐き出すように息をついて、ようやく自然な眠りにつけることに安堵する。「ユウ」隣にいる人の名を呼び、そっとその手を取って握りしめる。少しひんやりとした感触が心地いい。握り返されて目線を上げれば、美しい淡色の双眸に僕が映っていた。ユウの瞳は本当にきれいで、こうして見つめられる度に僕は同じ瞳をした人のことを想い出してしまう。ねえ、ユウ。僕はもう、決めたんだ。「今日は、抱いてもらわなくても大丈夫だから」そっとそう告げれば、少し黙った後でユウは目を細めて微笑んだ。「わかった」毎日求めるままに与えられてきた苦しいほどの快楽でも、何もごまかすことはできなかった。ありのままを受け容れて、その先には何があるのだろうか。居心地のいいこの場所に縋るのは、いい加減終わりにしよう。この関係は、永遠には続かない。僕はユウから離れる準備をしなければならない。ユウには、ユウの人生がある。この人を、いつまでも僕の犯した過ちに付き合わせるわけにいかない。決意した想いを反芻すれば、胸の辺りがキリキリと痛くなる。けれど、これは遅かれ早かれ僕が覚悟しなければならないことに違いなかった。溜息ともつかない息を吐きながら、ぬくもりを求めてユウの傍へと身を寄せていく。残り僅かな束の間の安らぎを、心に刻み付けるように。窓から射し込む白い光に照らされた冷たい空気は、粉が舞うようにキラキラと光っている。その繊細な輝きに見惚れていると、不意に抱き寄せられて耳元に吐息が触れた。「ずっとここにいればいい」囁きは、甘く奏でられる音楽のようだ。顔を上げればそこにあるのは、プラチナの光を反射した鳶色の瞳。その中に閉じ込められた僕は、ひどく狼狽えた顔をしている。「ユウ、どういう意味……?」震える声を押さえつけながら問い掛ければ、答えの代わりにゆっくりと唇が重ねられる。戸惑う心とは裏腹に、与えられる餌を貪るように僕はその口づけを受け容れてしまう。唇から流れ込むのは、音もなく燃える焔の情動。いつもとは違う熱に翻弄されて漏れる吐息は、味わい尽くすように残らず絡め取られていく。離れる寸前、濡れた僕の唇を優しく啄ばんだユウは、うっすらと目を開けて僕をじっと見つめる。何もかもを見透かす深い眼差しがまっすぐに注ぎ込まれれば、僕はもう呼吸さえままならないぐらいに ─── 。「俺の傍にいてくれ、アスカ」クリスタルガラスのように煌めく瞳に、捕らえられていた。"Platinum Kiss" end - 50 - bookmarkprev next ▼back