the 1st day[3/5]

「あぁ、あ……っ」

まだ触れただけ。なのに、先端からこぼれる先走りが僕の手をしとどに濡らす。手を上下に動かせば、その快感は余りにも強くて、もう出すことしか考えられなくなった。

「……っ、あ、ん……っ」

ユウの薬は僕の脳まで達して理性を容易に灼き切っていく。
サキと最後に身体を重ねた日から、処理していない。思い出せばまた涙が溢れて、僕は泣きながら自分を追い詰めていく。その時間は、本当に短かった。

「ん、くっ……ぁ、イく……ッ」

ビリビリと痺れるように全身に快感が拡がって、呆気なく達した。迸る白濁を掌で受けようとしたのに、こぼれ落ちてシーツを濡らす。

「ごめん、なさい……」

息も絶え絶えにそう謝ってから僕は気づく。果てたはずなのに、身体の疼きは全く消えていないことに。
ねっとりとした何かが皮膚を這っていくような感覚は、むしろ増幅していた。

「ユウ……ッ」

絶望感に襲われながら、僕はユウを見上げる。無表情な顔は彫刻みたいにきれいだった。

「アスカ。お前一人じゃ無理だ」

僕は必死に首を横に振る。抵抗する権利はないのかもしれない。それでも。

「いやだ……」

こぼれ落ちた涙が、頬を伝っていく。
ユウの手が下肢に向かって伸びてきて、僕のものを包み込むように握りしめた。その感触は、あまりにも冷たい。

「あ……っ」

たった今欲を吐き出したばかりのものが、一瞬で頭をもたげ始める。その手がゆっくりと半身を扱き出せば、眩暈を引き起こすようなめくるめく感覚が僕の全てを浚っていく。

「ん、ん……ッ」

「我慢するな。声、出せよ」

ユウが耳元で低く囁く。耳朶をねっとりと舐められて、また身体が震えた。
与えられる快楽に翻弄されて、頭が真っ白になっていく。そして僕は──いつの間にか、目を閉じてサキを思い浮かべていた。
クリスタルガラスのように煌めく、あの鳶色の瞳。

『アスカ』

甘く優しい声で僕の名を呼びながら、高みに連れて行ってくれた手の温もり。失った今でも、鮮明に憶えている。

「あ、んぁ……ッ、あっ」

二度目の吐精は、さっきよりも強い余韻を引き摺る。
熱を放ったはずなのに、まだ熱くて堪らない。更なる刺激を求めて、身体の奥が強烈に疼いていた。
閉じていた目をうっすらと開ければ、僕の放ったものをティッシュで拭い、サイドボードを開けるユウの姿が見えた。その手に持つものが何なのか、僕はもう気づいている。

「アスカ。脚を開け」

ユウは小さなボトルの蓋を開けて、手に透明な液体を塗り込んでいく。

「ユウ……」

自分の声が、甘く掠れていることを自覚する。やめてほしいと願う気持ちとは裏腹に、身体は快楽を欲している。そんな自分を認めることが怖かった。
それでもぐずぐずと熱をこもらせる部分を曝け出すように脚を開けば、ユウの手が伸びてきて後孔をそっとなぞる。

「あ、あ……ぁ……っ」

もどかしい刺激にヒクヒクと中が蠢く。延々と繰り返される円を描くような動きに苦しくて顔を上げれば、ユウはただじっと僕を見つめていた。
待っているのだ──僕が、降伏するのを。
じわじわと追い詰められて、戒められた熱は解放を求めて体内を巡り、僕の意識までをも支配していく。

「あ……、ユウ、お願い……」

僕は喘ぎながら、懇願する。

「挿れて……」

消えてしまいたい。羞恥と屈辱に打ちのめされる僕の顔を見て、ユウはうっすらと微笑んだ。片腕で抱き寄せられれば、過敏になった身体は大きく震える。
ゆっくりと、僕の中に長い指が侵入してきた。

「あ、ん……ッ、あっ」

身体の奥から湧き起こる、全てを攫っていくような強い感覚に、僕は息を吐いて堪えながら目を閉じた。
ユウの指の形は、サキと似ている。そう感じてしまうと、もう懐かしくて堪らない。奥まで辿り着いた瞬間、堰を切ったように限界に達してしまう。

「……っ、あ、あぁ……ッ」

後孔が急に締まって、じわりと弛緩した。何度も何度も、物欲しげな収縮を繰り返す。
シーツを握るだけでは頼りなくて、両腕を伸ばして目の前の身体に縋りつく。僕より低くて、でも心地好い体温だ。
しどけなく甘えるように身を預ければ僕の意識は淡く潤み出し、錯覚を起こしてしまう。

──サキ。

ドロドロに融けた思考の中でその名を唱えれば、本当にサキが還ってくる気がした。
サキ。訊きたいことがあるんだ。

「あ……ッ、ん、ふ……ぁ」

追い詰める指は、僕の一番弱い部分を的確に擦り上げる。幾度も果てて、その度に奥の疼きは増していく。
快楽を感じる感覚以外の全てを放棄し、ただその身体にしがみついて淫らな快楽に溺れ続ける。

ねえ、サキ。僕はサキにとって、必要なかった? 一緒に過ごせる残りわずかな時間さえ手離してしまうほどに。

「も、ダメ、イく……ッ、あ、あぁッ……」

朦朧とする意識の中、最後の糸が切れるまで僕はサキのことを想い続けた。








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