the 2nd day[4/6]

昨夜と同じように、ユウと一緒にベッドへ潜り込む。
確かな体温を感じながら、雲の上のような優しい弾力のマットレスに身体を沈める。
天上に近いこの場所からも、サキのいる天国には届かない。
ユウが僕の耳元で話しかける。

「アスカ、死にたいという気持ちは変わらないか」

「変わらないよ」

僕の頬を撫でる手に、そっと手を重ねる。

「サキの生命を奪った僕には、生きる資格なんてないんだ。それに、サキがいなくなった世界に生きる意味もない」

だから、僕は死を渇望する。単純で明白な理由だった。
この決意は揺るぐことがない。だって、サキのいない世界を生きていくことが、僕には想像できないから。

「死にたい……。早く、サキのところに行かないと」

死は甘く密やかに僕を誘う。サキは待ってくれているだろうか。それとも、僕を受け容れてはくれないだろうか。
白い天井を見つめていると、ユウが覆い被さって唇が重なった。宥めるような、優しいキスだ。
不意に、触れる先から伝わる体温がゆらりと揺れた。

「ん……ンっ」

性急に唇を割って舌が挿し込まれ、その熱に僕は悶える。

「……ユウ……っ」

必死に顔を背けて名前を呼べば、追い掛けるようにまた唇を塞がれる。絡まる舌が、咥内を弄りながら蹂躙していく。唾液が混ざり合って、舌先から融けていくような錯覚がした。

「アスカ。脱げよ」

唇を離して耳元で囁く、その低く冷ややかな響きに身体が震えた。ゾクゾクと背筋を何かが這う感覚に身を捩らせる。

──どうして。

心の中で問い掛けても、答えは見つからない。また僕の知らないユウが目の前に現れる。

「お前、死ぬまでつまらない純潔を守る気か」

思わず目を見張る僕に、ユウは畳み掛けるように続けた。

「俺と寝て、あの世でサキに言ってこいよ。これでお互い様だってな」

その言葉を、僕は悪夢を見ているような心持ちで聞いていた。

「ユウは……本当に僕としたいと思ってる?」

震える声を懸命に抑えつけてそう訊けば、答えの代わりにユウは僕の手首を掴んで下肢へと導いた。手にあたる昂ぶりは硬く屹立していて、その熱さに僕は息を飲む。

「アスカ……」

甘い囁きと共に首筋にキスを落とされれば、身体が熱を持ち始める。今度は薬のせいではない。僕は紛れもなくユウに欲情していた。鎖骨を舌でなぞられて、吐息が漏れる。

「ユウ、ダメ……ぁっ」

「じゃあ、抵抗してみろよ」

できるわけがなかった。ここで拒んだところで、僕には行き場がない。
力なくかぶりを振ると、ユウは顔を上げて艶めかしく微笑んだ。泣いたってどうしようもないのに、涙が溢れてしまう。

「ユウ、僕を憎んでるの? 僕が……サキを殺したから」

鳶色の瞳がゆらりと揺らめく。ユウは鼻先の距離でゆっくりと首を横に振った。
それを見て僕は心底安堵する。身勝手なことはわかっている。それでも、ユウには嫌われたくなかった。こんな僕のことを受け容れてくれる唯一の人だから。

「アスカ。何も考えるな」

低く響く声が、僕の耳朶を甘く刺激する。

「頭の中を真っ白にして、快楽だけに意識を集中させてみろ」

言葉の後に耳の中を舌が這って、その感覚に喘ぐ。
そんなことは無理に決まっている。ユウは何を考えてるのだろう。不安で堪らないまま、それでも僕は抗う術を知らない。
ユウが僕の身体を抱き起こして、じっと見つめてくる。何かを言いたげなのに感情の読み取れない瞳だ。

「アスカ」

促すように名前を呼ばれた。ぬるい目線を感じながら、僕は服を脱いでいく。手がひどく震えた。
そんな僕に視線を留めたまま、ユウも着ているものを全て脱いでしまう。露わになったギリシャ彫刻のような美しい身体に、僕は目を奪われる。
ダウンライトがひとつ、仄かな灯りを放って僕たちを闇に浮かび上がらせる。
ベッドの上に膝立ちすると、ユウは僕の頬にゆっくりと触れた。そこから一気に押し倒されて、組み敷かれる。
深い口づけを交わす。舌が絡み合って、熱くて蕩けてしまいそうだ。なのにユウの心は流れて来ない。何度も角度を変えて貪るようなキスを繰り返すうちに、僕の中心は熱を持ち始める。
相手がサキじゃなくても、僕の身体は感じている。
ユウの手が勃ち上がってきた僕のものを握り込む。その掌の熱さに息を吐いた。そのまま何の躊躇いもなく強い力で扱かれて、僕は身を捩らせる。

「あ……、んっ、あぁッ」

上下に動かされながら胸の突起を舌で転がされれば、身体の芯を震わせる快感が積み重なる波のように増幅していく。
僕は気づく。この行為がただ、最短で快楽を与えることだけを目的としていることに。ここには情緒なんて介在しない。
やがて乾いた摩擦がなくなり濡れた音が耳に届く頃には、僕は完全に快楽に身を委ねてしまっていた。

「あ、あっ、ユウ……ッ」

追い詰められて喘ぎながら名を呼べば、先端からまたしどけなく先走りがこぼれる。僕の身体を知り尽くしているかのような手つきに、ひとたまりもなく高みへと連れて行かれる。
何かに掴まりたい衝動に駆られるままシーツを握りしめようとするのに、きれいに張られていて手繰り寄せることもできない。それに気づいたユウが、するりと僕を抱き寄せる。熱を持ったその身体に、我を忘れてしがみついた。




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