epilogue[1/3]

店を逃げ出してから、三日が経った。
まだ俺を追ってくるような奴らは現れてなくて、今のところは平穏に過ごしてる。そうすぐには見つからないと思うけど、油断はできない。
俺が店からもらう給料を貯めてた振込口座には、借金の返済で毎月かなりの額が引かれてたけど、それでも結構な額が残ってた。あの店で稼いだ金を遣うのは気が引けたけど、生活していくために目先の現金は必要だった。
一人暮らししてた下宿先の家賃を、直近二ヶ月分滞納してることがわかったから、まず大家さんに連絡を取ってからきちんと払い込んだ。部屋を引き払う手続きをして、しばらくは雄理の部屋に居候させてもらうことになった。俺がまた拉致されないように、雄理が傍で守ってくれるんだって。
俺は別に守られるようなキャラじゃないけど、確かに雄理は俺よりずっと強いし、傍にいると少しは安心かなと思ってる。それに、雄理といればきっと近いうちに綾乃と連絡が取れるはずだ。
ユイにはまだ連絡してない。多分優しいユイのことだから、俺が急にいなくなってすごく心配してるだろう。でも俺が連絡することでユイに迷惑が掛かるかもしれないと思うと、まだ動けずにいる。
いつか落ち着いたら、必ず。ユイは俺の大切な友達だから。
大学は、まだどうするか決めてない。多分このまま辞めると思う。自分が勉強できるような立場じゃないことはよくわかってた。
そうやって、俺は少しずつ前に向かって動き出そうとしてる。





「……バー?」

裸のまま布団に包まりながら、俺は隣に横たわる雄理の顔を見上げる。肌に触れる綿の感触が気持ちいい。

「お前を捜すのに、最初は探偵を頼もうと思ってたんだ。だけど、学生に手が届く金額じゃなかった。ネットでいろんな情報を集めるうちに、アスカの噂に行き着いた」

散々セックスした後でまだぼんやりしてる頭を奮い起こしながら、雄理の話に耳を傾ける。

「アスカは契約すれば四日間で必ず仕事をやり遂げる。だから俺は、アスカと契約できるというバーに行って、そこのマスターに事情を話したんだ」

俺はアスカから聞いた話を思い出す。人には四日目に変わる機会が訪れる。だから、契約は四日間。

「俺の話を聞いたマスターは、『ちょうどいい』と言っていた」

ちょうどいい。何のことだろうか。
俺は雄理のきれいな眼差しを見ながら、訊いてみる。

「なあ、そのマスターって三十歳代ぐらいで、すごく雰囲気のあるイケメンじゃなかった?」

「そうだな」

頷く雄理に、俺は確信する。
あの男だ。アスカと抱き合ってた、スーパーカーの持ち主。何もかもを見透かすような、淡い色の瞳をした男。
アスカは恋人じゃないって言ってたけど、俺にはあの男がアスカのことを愛おしんでるように見えた。
あの男が、アスカの死んだ恋人の兄。二人が一緒にいる理由は、もしかしたら──。
俺は気づいてしまったのかもしれない。アスカが閉じ込められてる籠の正体に。

「陽向」

耳元で名前を呼ばれて、我に返る。

「ああ、ごめん。考え事……」

言葉はキスで遮られてしまう。熱を持った舌が口の中に入ってきた。味わうように舌を絡み取られて吸われると、冷めてきてたはずの身体がまた急速に火照り出す。
でも、今日はもう無理。さっきので疲れてヘトヘトだし。
なのに妙にキスが濃厚で、危険を察知した俺は焦って大きな身体を押し退けようとする。

「ちょっ、も、やっ……ん、あっ」

それでも下肢に伸びてきた手が後孔を弄れば、身体はすっかりその気になって疼いてくる。

「どんだけ体力あるんだよっ」

「お前が他の男のことを考えてるから」

妬けてきた、と真顔で呟かれて呆れる。ああ、ホントにバカだな。

「あ、ぁ……ッ」

疲れ切ってるのに手加減なしで弱いところを刺激される。思考がぐちゃぐちゃになっていくのを感じながら、俺は今日何度目になるかも知れない絶頂に備えるために雄理に抱きついた。








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