俺には場違いなバーに、意を決して乗り込んだのはいい。
「覚悟はあるか」
えらく顔のいいマスターから威圧的にそう言われたことが無性に苛立った。
「覚悟って、何ですか」
「お前、アスカの何だ」
余裕たっぷりな口振りでそう訊かれて、この男がなぜか俺を敵視していることをひしひしと肌で感じる。
「……友達です」
「お友達には、無理だな」
あっさりと鼻であしらわれた。値踏みするような鋭い視線が突き刺さる。 馬鹿を言うな。俺がどんな気持ちでここまで辿り着いたと思ってるんだ。 絶対に――絶対に、引き下がるものか。
「俺が、アスカを救います」
午前8時。指定した時刻ちょうどにインターフォンが鳴った。 部屋も大掃除並みに片付けたし、ちゃんと布団も用意した。初めて彼女を部屋に呼んだときだって、こんなに緊張しなかった。 心臓が痛いぐらいに高鳴る中、俺は玄関の扉を開ける。
目が合った瞬間、呼吸が止まりそうになった。ずっと捜し続けていた、きれいな顔をした友人がそこに立っていた。 こちらを見つめる澄んだ瞳は、隠し切れない戸惑いを滲ませる。
「……ミツキ?」
桜の花弁のような唇から俺の名前が零れる。呼んでいるのは同じ名前なのに、前よりも無機質な響きだと思った。
「久しぶり、アスカ」
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