prologue[1/1]

俺には場違いなバーに、意を決して乗り込んだのはいい。

「覚悟はあるか」

えらく顔のいいマスターから威圧的にそう言われたことが無性に苛立った。

「覚悟って、何ですか」

「お前、アスカの何だ」

余裕たっぷりな口振りでそう訊かれて、この男がなぜか俺を敵視していることをひしひしと肌で感じる。

「……友達です」

「お友達には、無理だな」

あっさりと鼻であしらわれた。値踏みするような鋭い視線が突き刺さる。
馬鹿を言うな。俺がどんな気持ちでここまで辿り着いたと思ってるんだ。
絶対に――絶対に、引き下がるものか。

「俺が、アスカを救います」





午前8時。指定した時刻ちょうどにインターフォンが鳴った。
部屋も大掃除並みに片付けたし、ちゃんと布団も用意した。初めて彼女を部屋に呼んだときだって、こんなに緊張しなかった。
心臓が痛いぐらいに高鳴る中、俺は玄関の扉を開ける。

目が合った瞬間、呼吸が止まりそうになった。ずっと捜し続けていた、きれいな顔をした友人がそこに立っていた。
こちらを見つめる澄んだ瞳は、隠し切れない戸惑いを滲ませる。

「……ミツキ?」

桜の花弁のような唇から俺の名前が零れる。呼んでいるのは同じ名前なのに、前よりも無機質な響きだと思った。

「久しぶり、アスカ」





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