今にも達しようと細やかな蠕動を繰り返しているそこから最後の刺激を与えることなくぬるりと指を引き抜けば、千捺は喘ぎながら脇に転がった。震える身体を持て余すかのように、浅い呼吸を繰り返す。身体を起こして顔を覗き込めば、涙目で睨みつけてくる。盛大にお預けを喰らったんだから、無理もない。その顔がゾクゾクするほどきれいだと思う俺は、歪んでいるのかもしれない。「も……意地悪……っ」宥めるようにそっと口づければ、一瞬で舌を挿し込み絡めてくる。身体だけで繋がった、不健全な関係。それでもこうして肌を重ねているうちに、何かを錯誤してしまいそうになる。膝裏に手をあてて体重を掛けるように脚を開かせる。ゆらゆらと瞳に光を湛えながら浮かべる微笑みは、妙に挑戦的だった。「今日の子、すごくかわいかったよ」こんなタイミングで何の話かと思えば、合コンで喰った女の子のことだ。「見た目は清純なんだけど、挿れるとおっきな声出してどんどん腰振っちゃってさ。ああいう子とエッチしてドロドロに溺れてくのを見るの、好き」最低な男。女から見れば間違いなくそうであるはずなのに、千捺はその評価を物ともしないどころか、うちの大学で堂々と女たらしを売りにして生きている。「奏もそういう子、タイプじゃない?」煽るようにそう投げ掛けてくる。どういう返事を期待してるのか知らないが、答える義務も義理もない。「千捺、息止めるなよ」先端を後孔にあてがって、奥まで一気に貫く。その瞬間から、収縮は始まっていた。「 ─── あああ、あぁ……ッ」上擦った声と共に、千捺の先端からぱたぱたと白濁が零れ落ちる。限界まで焦らされてようやく与えられた刺激に、一溜まりもなかったんだろう。痙攣するように身体を何度も震わせて、目尻から涙を零す。「ん、は…ぁ……っ」引き摺られそうになるのを必死に堪えて、波が収まってから腰を動かしていけば、千捺はきゅうきゅうと俺を締めつけながらそれに応えてくる。爆ぜた余韻に薄い腹筋が小刻みに震えている。蕩けた表情で俺を見るその瞳は、もう欲に染まり切っていた。「あ、気持ちいい……、あぁ……ッ」手加減なんてするつもりはなくて、欲望のままに腰を打ちつけるけれど、そんな俺を千捺はちゃんと受け入れていく。揺さぶる度に唇からだらしなく零れる声が、泣きじゃくる子どものそれに変わっていく。そんな千捺をずっと見ていたいと思ってしまう俺は頭がおかしいのかもしれない。イく、イく、と何度も叫ぶのにかまわず抽送を繰り返していくうちに、俺を包み込む中が絶え間なくビクビクと蠢いて止まらなくなってくる。もうイってるのか何なのか、自分でもわかっちゃいないんだろう。「……ッああ、あっ、死んじゃう……」身体を前に倒して、呼吸を閉じ込めるように口づける。千捺は大きな口を開けて、喘ぎながら本能のままに舌を絡め取ってくる。律動を緩やかなものに抑えてやれば、至近距離でうっすらと目を開けて、縋るように俺を見つめる。「奏、好き、好き……」これが意識の飛んだ合図だなんて、全く笑えない。世界一軽い好きを聴きながら、俺はずっと我慢して溜め込んだ欲を解放するために千捺の1番感じるところを抉るように突き上げる。ぐちゅぐちゅと泡立つような音が鳴って、一層強く中が締まっていく。「 ─── ああ、ア、あぁ……ッ」ビクビクと搾り取られるままに、何度も奥に熱を吐き出す。この後に訪れるのは罪悪感だとか後悔だとか、そういうマイナスの感情でしかない。いつまでこんな関係を続けるつもりなんだろう。俺も、千捺も。苛立ち紛れに千捺の湿った髪を梳いて、汗ばんだ額に唇を押しつける。どうせ意識は朦朧としてるに決まってるんだ。だから俺も、適当に告白する。「好きだよ、千捺」いい加減で、淫乱で、きれいな千捺。お前のせいで、俺は他の誰も抱けない。 - 4 - bookmarkprev next ▼back