「かーなで! 奏!」真夜中だというのに派手に名前を呼びながらインターフォンを鳴らされて、慌てて玄関のドアを開ければ酔っ払った同居人が満面の笑みで勢いよく抱きついてくる。慌てて踏ん張って抱きとめると、その髪から漂ってくるのは酒と煙草と知らない香水のにおい。外に目を向けて、腕の中の身体がしっとりと濡れているのは雨が降り出しているからだと気づく。「お前、19だろ。あんまり羽目外してると面倒なことになるぞ」そう咎めれば、トロンとした二重瞼の下から淡い茶色の瞳が覗く。「何、2つしか違わないのにお説教? 俺だって誕生日が来たらハタチだもんね」口調は不満げだけど、へらへらと笑ってる。足下もおぼつかなくて、相当酔ってるのは違いない。靴を脱がせて肩を抱えながらとりあえずこいつの部屋まで連れて行けば、ベッドにだらりと仰向けに寝そべりながら、俺の手を引く。「ねえねえ、奏。エッチしようよお」「どうせしてきたんだろ」もはや習慣となっている合コンからの帰りだ。この男、笠原千捺(かさはらちなつ)はこんな時間まで皆とワイワイ呑んでるような穏やかな性格じゃない。どうせいつものように、気に入った女の子とやることをやって帰ってきてる。「だって、相手は女の子だし。奏としたい」さも当然のようにそんなことを言いながら、俺の手を引いて誘ってくる。「奏は俺としたくないの?」「したくない」「嘘だ」差し伸ばされた手が股間に触れて、形を確かめるようにさすり出すから思わず腰を引いてしまう。「ほら、勃ってきた?」「うるさい」愉しげに笑いながら、千捺は艶かしい瞳で俺を見上げる。こいつのこういうところが嫌いだ。「じゃあさ、頑張ってシャワー浴びてくるから、その後エッチしようよ。奏に挿れてほしいもん」きれいな顔で、さらりとねだってくる。この顔にいつも騙されて、流されてしまう。「わかったよ。湯舟には浸かるな。溺れても知らないからな」溜息をつきながらそう言えば、嬉しそうな顔をして勢いよく起き上がってくる。「やった。奏、好き」一瞬だけ、唇が触れ合う。こんなに軽い好きが世の中に存在するだろうか。ふらついた足取りで部屋を出て行く千捺の後ろ姿を見送りながら、俺はもう一度深く息をつく。***** - 1 - bookmarkprev next ▼back