部屋に招いて、用意した缶ビールや酎ハイ、乾き物のつまみを広げていく。
「珍しいな、航」
「うん。ちょっと、そんな気分なんだよね」
僕たちは互いの部屋で呑んだことはなかった。僕がそれを避けてきたからだ。
互いに缶ビールを手にして、プルトップを引く。乾杯、と缶を傾ければ、ふと頭の中にイメージが浮かんだ。
僕たちは大学を卒業し、各々どこかの会社に就職している。スーツを着て、仕事帰りに待ち合わせた居酒屋でビールジョッキを片手に上司の愚痴を言い、社内で1番かわいい新入社員の話をしながら笑い合う。
そんな未来だってあったはずなんだ。
「彼女とは、どう」
缶を開けては飲み干してを繰り返していくうちに随分お酒が回ってきたみたいで、圭介は頬をほんのりと蒸気させながら少し眠そうな目をぱちぱちとさせる。
「うん、うまくいってる」
「そっか」
頷きながら、僕は深呼吸する。こういうことを軽く聞こえるように言うのは、そんなにうまくないと自分でもわかっていた。
「僕もね、彼女ができそうなんだ」
「え、そうなのか?」
「うん」
圭介が疑問を持つより早く喋ってしまわないといけなかった。
「だけど、ほら。僕は女の子と付き合ったことがないから。色々と、不安なんだよね」
「航は奥手過ぎるからな」
圭介の言葉に僕は不覚にも吹き出しそうになる。そうだね、当たってるよ。僕はこんなにも臆病だ。
「だからさ」
少しずつ距離を詰めながら、僕は圭介ににじり寄っていく。
トロンとした目が、僕を見つめてる。圭介はあんまり酒に強くない。
「どうすればいいか教えてほしいんだ」
「どうすればって……」
「こんなこと、圭介にしか頼めないから」
畳み掛けるようにそう言って、僕は空になった缶を床に置き、両腕を伸ばす。圭介の首の後ろに手を掛ければ、そこは汗でしっとりと濡れていた。
こんなふうに自分から圭介に触れるのは、一体何年ぶりだろう。
「圭介が、いつも彼女にどうしてるのか、教えて」
破裂しそうなほどに音を立てる鼓動が聴こえないように、僕は顔を近づけてその唇を奪った。
柔らかな唇を何度も啄ばんで、少し開いた隙間に舌を挿し込んでいく。粘膜が触れ合うだけで身体中の血液が沸騰しそうになって、僕は苦笑する。
歯列をゆるりとなぞってから、舌を絡め取って、何度もくすぐるように舌先を動かすうちに、圭介の腕が僕の背中に回り引き寄せられる。
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